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二人がやってきた学食は、今日も割と盛況していた。
この七崎学園の学食は、安くてボリュームのあるメニューで有名であり、育ち盛りや部活動でカロリーの消費が激しい運動部生徒に重宝されていた。
「まぁ、俺はあまり利用しないけどな」
「そうなの?」
「基本弁当派、たまにサボって購買の焼きそばパンだからな」
そういって一心は、手に持った弁当を軽く振り、新宮に存在をアピールする。
二人は、たまたま空いていた席に腰掛けて、話を続ける。
一心は、持ってきた弁当を広げ、新宮は日替わり定食(鯖みそ)に手を付けながら話を続ける。
「毎日お弁当だなんて、志村くんのお母さまはすごいのね。うちは、毎日お金だけ渡されて学食よ」
まぁ、それでも不満はないのだけれど、と新宮はひとりごちる。
「――いや、コレ俺が作ってるんだけれど」
一心のその発言に、新宮が目を見開く。
「元々、両親が共働きでな。小さい頃から手伝っていたんだ。高校入ってからは、料理とかの家事は母さんと分担してこなしている」
ちなみに、朝陽は家事ができない。
ずぼら、がさつ、大雑把の三拍子揃っている為、とてもじゃないが任せていられないのだ。
「なんというか、意外だわ。男の子ってそういうことには疎いと思っていたから」
「今時じゃあ、珍しくもないんじゃないか? 大学行ったら一人暮らししたいし、今から最低限のスキル身につけておく方がいいだろ」
平然とそういうことを言う一心に、うっと言葉を詰まらせる新宮。
「わ、私も頑張らないと」
小声でそんなことをつぶやいた新宮を、一心は聞き逃さなかった。
そして、なんとなくやっぱりかと思うのであった。
思えば、ここ数日で新宮のイメージは、一心の中で随分変化した。
最初は――というか元々のイメージは“七崎のラスボス”の異名に恥じぬ完璧超人、最強女子といった感じだった。
それが、知合ってみれば、どこか抜けていて中々にほっとけない系女子だったなんて。
「――まぁ、本当にラスボスだったら、ここまで断るのに苦心しなかったんだけどな」
「何かいった?」
「いや、なにも」
そういって、昨日の残りモノを詰め込んだ弁当をかきこむ一心。
あらかたの中身を食べ終えた一心は、これ幸いと話を斬りこむ。
「それで、今度の土曜の話なんだが――」
「待ち合わせは、13時に学園の校門前で」
「いや待ってそうじゃない」
ここで一心は、一瞬ためらうが、意を決してこう言った。
「悪い、俺はやっぱり【NEW WORLD】はできない」
すると、新宮の眼がすっと細められる。
その表情に、一心がびくりと肩を震わせる。
新宮のその瞳に見据えられると、何か自分が悪いことをしたかのように感じられるのだ。
「私、何か貴方の気に障るようなことしたかしら?」
「い、いや、新宮は悪くない。これは、俺の問題というか、なんというか」
一心はちょっと焦って新宮の言葉を否定する。
ここで一心は、覚悟を決める。
ちゃんと、自分のことを正直に語って、分かってもらおうと――自分は、新宮の望むような人じゃないと。
「俺は、剣道をやっていて――」
そして一心は先日妹にも話した過去を、語りだした




