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「志村くん、ちょっといいかしら」
翌日の昼、一心が孝弘と昼食を取ろうと弁当を取り出そうとした時だった。
唐突に話しかけられて、周囲が鎮まる。
一心は「あぁ、またこのパターンか」と一人心の中で嘆息すると顔を上げる。
そこにあったのは、美しく整ったラスボス様のご尊顔であった。
「どうしたんだ、新宮」
「その、良ければ一緒にお昼をどうかと思って――貴方のこと、もっと知りたいの」
その聞きようによっては、そういった誤解を招きかねないような言い回しで彼女はそう言った。
教室の各所で、息を呑むような声が聞こえる。
これはきっと「お友達になりたいから、コミュニケーションもっと取りたい」という不器用な彼女なりのアプローチなんだろうなと一心は思いながらも、ちょっと言い方と自身の注目度・影響度を考えてほしいと思った。
「(まぁ、そういうのに頓着しないのも、らしいんだとは思うんだけれど)」
さて、ここで問題なのは、たった今まで一緒に飯を食おうと約束していた友人のことだ。
そこでふと、孝弘に視線を送る一心。
彼の親友はそこで、ぐっと親指を立ててサムズアップした。
「いやお前、新宮にかかわるのは辞めとけって言ってなかったか」そんなことをアイコンタクトで一心は送る。
すると彼は、「お前が玉砕しないようにそういっただけで、メがあるならガンガン行けよ! あと面白そうだから後で事情を教えろ!」とアイコンタクトを返した。
なかなか面白がっている孝弘に、若干この野郎とも思いもするが、ここは素直に乗った方が得策だと一心は判断する。
どの道、新宮が話しかけてきた時点で注目度はマックス。
教室に残っても居心地が悪いだろう、そう考えると意図してこう断れない状況をたったワンアクションで作り上げた新宮は、なかなか策士と言えるかもしれないと一心は考えて、新宮がの顔をしげしげと眺めてみる。
「?」
当の本人は、頭にハテナを浮かべて、ちょっと可愛らしく小首をかしげている。
そのことから、まぁうすうすと感づいていたが、新宮って天然さんだと一心は確信した。
「わかった、ちょっとここだと都合が悪いから、場所を変えよう」
「私はここでも構わないのだけれど」
「いや、俺が構うから頼むから場所を変えよう。学食とかどうだ?」
「そう、分かったわ」
そういう彼女を連れたって、一心は学食へ向かった。
一心たちのその後ろ姿を、複雑な表情で見つめる夏菜の姿があったが、彼らも、教室にいるクラスメイト達も気が付かなかった。




