3-2
「薫くん?」
薫とは、一心の幼馴染であった少年の名前だ。
小学生の頃、ともに剣道に励み、切磋琢磨した中で、成績はともに県大会ベスト8に入るほどであった。
「確か、私は5年生の頃だよね転校しちゃったの」
「あぁ、そうだな。ソレで、次は県大会で会おうって約束したんだよ」
「――懐かしいね」
「あぁ」
そのすぐあとだったか、一心が病に倒れ、右目の視力を失ったのは。
最初は、両目を失明しなかっただけでよかったと言われ、一心自身も、片目失明程度は、まぁショックではあったが、案外素直に受け入れることができた。
――問題は、その後であった。
剣道に復帰して、一心は全く勝てなくなった。
「練習で距離感が掴めなくて、全然竹刀が当たらなくなってさ。それは、まぁ、あのあと死ぬほど練習して並くらいにはちゃんと当てられるようになったのだけれど、実戦形式――面をつけると、もう駄目だったな」
そういって一心は乾いた笑い声を上げる。
「信じられないくらい視野が狭くて、部内の選抜でも全く勝てなくなった。慣れれば、慣れれば大丈夫って思って練習を人一倍こなしたんだけどなぁ――結局、大会レベルの腕前には戻らなかった」
本人は軽く言っているが、ソレを聞いていた朝陽の顔か少し暗い。
ソレは、当時の本人が、痛々しいまでの緊張感で緊迫感で毎日過酷な追加メニューをこなしていたのを知っていたから。
緊張の糸が常にピンと張りつめられていたような、一心がどうにかなってしまうのではという危うさがあった。
「それである時、補欠で応援にいった県大会で薫の姿を見たんだ――で、俺は逃げ出した。顔を会わせることが怖くて、みんなに黙って会場を抜け出したんだ」
そこでまた、一心は笑う。
今度の笑い声には、己を嘲笑うようなニュアンスが含まれていた。
「アイツ、中一で既にレギュラーで、県大会にも出場してて、相川すげぇなって――それなのに俺はって」
「お兄ちゃん、ソレは」
「わかってる、薫はソレだけで友達辞めるような、馬鹿にするようなクズじゃない、だけどさアイツと対等でいられないことが嫌だった、怖かった」
――だから、同じ土俵に立つのを辞めたんだ。
最後に、一心はそう言って締めくくった。
「それでさ、いきなりこんなこと聞いて、お前はどうしたんだ? 別に楽しい話じゃなかっただろ?」
「何となく、というかもう時効かなって。それに、この前たまたま夏菜さんにもあってちょっと気になったというか」
「夏菜、か」
「夏菜さんとは同じクラスなんだよね、ぶっちゃけどうなの?」
「どうとは?」
「なんかこう、久しぶりに会った、綺麗に成長した幼馴染と同じクラスになって、なんかなかったのかなーって」
ニシシシっといった風に何かを勘繰るような笑い声を発する朝陽に、一心は軽くため息をついて、頭を揉む手にギリギリと力を込める。
「いだだだだっ!」
「なにもねぇよ、そもそも差がありすぎて普段話す機会もないし」
「あー、夏菜さんすっかり美人さんだもんね。お兄ちゃん程度じゃ釣り合わな――いだだだ!!」
「口は禍の元だぞー」
再度力を込めて朝陽を黙らせる一心。
そんなことは一心だってわかってはいるが、指摘されるとちょっとイラっと来るのであった。
「(けど、夏菜さんはまんざらでもなかったような)」
「なんか言ったか?」
「いえいえ、なーんにも!」
そんなことをいう朝陽の肩を軽くぱんぱんと一心は叩く。
「はい、マッサージ終了!」
「えー」
「えーもあーも無い。さぁ、行った言った」
一心の言葉を聞いた朝陽は、すたっと立ち上がると、そのまま一心の座っているソファーにダイブし、一心の膝上に自身の足をのっけてうつ伏せになる。
「次、足お願い!」
そんな厚顔なことをのたまう妹に、満面の嫌な顔をする一心だが、渋々といった風で、その足に手をかける。
ソレを見て、朝陽は「やっぱ、ちょろあまだな」っとほくそ笑むのであっ
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