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ブレイド&ブレイド~ARの刃、鮮やかに舞う~  作者: 宇奈木 ユラ
第二章 拡張現実は、鮮烈に
10/28

2-5

体調不良でした、申し訳ありません。

▽▲▽


 そして、詳しいルールの擦り合わせの後、2人は5mの距離を開けて向いあう。


「いい、志村くん。私が今から対人戦申請するから、ソレを貴方が承認すると3カウントで試合が始まるわ。自分のタイミングで押すのよ」


「あぁ」


 新宮の言葉どおり、一心の目の前に対人戦申請のウインドウがポップアップする。

 一心は小さく深呼吸をすると、そのウインドウの承諾をタップする。

 すると目の前に3の数字が現れる。

 これがカウントだなと一心が認識すると、その数字は2に切替わる。

 カウントが1になり、一心は大きく息を吸い込む。

 そして0になった瞬間、鳴り響いたファンファーレと同時に一心は疾駆した。

 かつて剣道をしていた身からして、一心はあることを知っている。

 それは実力差がありすぎる者同士が正面からぶつかった場合、勝負は一瞬で決まるということ。

 実体は先手を取られて面を取られるということでもあるし、逆に一撃目を完全に防がれ、返す刃で後手必勝の流れをつくられるから。

 だがしかし、この場合は事情が異なる。

 実力者である新宮が、わざわざ先手を譲り、反撃もしないと公言している。

 その場合の勝利への最適解は、一瞬で接敵して彼女が剣を振るって防御動作を行う前に、一撃で首を落とすこと。

 右足で思い切り大地を踏みしめ、瞬発力を活かして最大限の加速をする。

 一心と新宮の間は約5m――距離は瞬きする間に埋まる。

 その間に剣を水平に振りかぶり、距離を詰める。

 新宮に接敵し、その横を通りぬける瞬間、鋭く、速く一閃を走らせる。

 剣を横なぎに振るう瞬間、一心は懐かしい感覚を覚えた。

 剣道の試合で、胴を打った時のような感覚だ。

 ――だが、同時に有効打を打った時のような感覚はない。

 それはARだからというわけでは無い。

 剣道を辞めて四年、そのブランクがあっても、身体に染みついた感覚でわかる。

 その手に実体を伴ってわかる感覚ではなく、実体のない手ごたえとしての勝利の感覚。

 それが欠如していた。

 事実、視界の端に移るHPゲージは一切削れていなかった。


「ちぃっ!」


 舌打ちをして一心は踵を返す。

 初撃で勝負を決める作戦が失敗した一心は、思考を切り替える。

 新宮に振り向きながら、刃を閃かせ斬りつける。

 ソレを新宮は、まったく同じ軌道で剣戟を相殺する。


「なっ!?」


 剣戟の軌道に合わせて、別な角度から弾くように刃を振るうことは、比較的容易であるが、この場合は違う。

 彼女は、一心の斬撃の一挙手一投足を完全に予測し、真似て、まるで鏡合わせのようにソレを相殺する。

 何気なく彼女が行ったその動作の難易度は、非常に高い。

 一心はそれをまぐれ、偶然だと断じて、次々と剣戟を打ちこむ。

 ――だが、彼女の鉄壁の防御は崩れない。

 いずれも完璧な動作、完全に同じ挙動で剣閃を走らせ、一心の攻撃を相殺、無力化する。

 一心が攻撃を続ける度に、どんどん彼の瞳が驚愕に見開かれる。

 そして、彼女の攻撃はソレだけに留まらなかった。

 数度打ち合う中で、徐々に一心は違和感を抱く。


「(勢いが、削がれている――?)」


 一心はそのことに気が付くが、原因がわからない。

 ――彼女が一心の勢いを削いでいる理屈は、その攻撃テンポにある。

 新宮は、剣戟で相殺するたびに、微妙にタイミングをずらしていたのだ。

時に四分の一テンポ速く、時に六分の一テンポ遅く。

 前後に極めて短くテンポをずらすことで、一心のテンポを意図的に崩し、勢いを、回転率を削いでいたのだ。

 そんな中で、一心は焦る。

 何十も打ち合っていながら、未だに一太刀も当てることができていないという事実が、無意識下で彼の心を乱す。

 そして、その時が来た。


「――三分」


 ぼそりと呟いた新宮の言葉を聞いた一心は、その身が総毛立つのを感じた。


新宮の攻勢が始まる。


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