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新連載開始です!
10万字程度で完結の予定です!
日本のとある地方にある、地方都市・石杖市。
太陽もすっかり落ちた午後七時。
その街の片隅にある、私立高校のグラウンドにひとりの少女がたたずんでいた。
煙る黒髪と、メカニカルなゴーグル越しでもわかる凛とした眼差し、モデルか女優のような長身でしゃんとした立ち姿は、まるで中世の騎士の様だ。
黒いジャージを着た彼女は、その右手に円筒状のデバイスを持ったまま、小さく深呼吸して、呟く。
「――OK。ゲームスタート」
そしてそこに、少女を“騎士の様だ”と表現するにあたって、もう一つ別な要素が加わる。
それは、剣。
刀身が青い光を放つ、近未来的なデザインの諸刃の長剣が、デバイスの代わりに出現する。
起きた変化はソレだけではない。
彼女の目の前に、突如現代日本には似つかわしくない者が姿を現した。
ソレは、2m近い筋骨隆々の男性の様な体躯を持つ、牛頭の怪物。
俗にいう、ミノタウロスというギリシャ神話におけるバケモノだ。
『GURYAAAAAAAAAAAA!!』
ミノタウロスが、咆哮する。
血走った目を見開き、その中に滾る獣性をぶちまける相手――目の前の少女に狙いを定める。
そして、ミノタウロスは疾駆した。
剣を持って構える少女に向って、ミノタウロスは片手を振り上げる。
すると、何もない虚空から、ミノタウロスの身の丈ほどもある巨大な戦斧が現れる。
その戦斧を握りしめた奴は、思い切りそれを少女に向って叩きつける。
少女は、その攻撃を回避しない。
もし、これが本物の戦いであれば、ここで少女は命を落したのだろう。
だが、そうはならなかった。
瞬間、少女の剣が煌めき、蒼の軌跡を描いて戦斧をはじき返した。
ミノタウロスはそれでも、弾かれた戦斧を即座に切り返し、何度も何度も少女に叩きつけるが、それを全て彼女は右手の剣ではじき返す。
「単調」
ミノタウロスの攻撃をそう断じた彼女は、一転し攻勢に出る。
戦斧を剣で防御せず、今度は華麗に横に跳んで避ける。
そして一気に接近すると、辻斬りのように走りながらその無防備なわき腹を一閃。
今度はミノタウロスの背後に回り込み、次々と蒼い剣閃を走らせ奴を追い詰める。
『GURRRRR――!!』
流れ落ちる流水の如く無駄のない流麗なリズムを刻む剣戟は、瞬く間にミノタウロスを追い詰める。
その攻勢に、巨大な怪物は思わず後ろに半歩下がる。
「――そう、貴方はその程度なのね」
怪物の見せた、あまりに情けない仕草に、少女は薄く嗤う。
瞬間、なけなしの全力を振り絞ったであろう奴の戦斧が、少女に叩きつけられる。
今度はソレを飛び退きもせず、少女は半身をずらしただけで躱す。
同時にその攻撃によって、致命的な隙の生じたミノタウロスの首筋に少女の刃が深々と突き刺さる。
そして、電子のホイッスルが鳴り、ミノタウロスが現実世界から消失する。
同時に少女の剣もテクスチャーが剥がれ、元のデバイスの姿に戻る。
『ミッションクリア。タイム00:47:67』
アナウンス音声が、少女にこの戦いは一分もかからなかった旨を報告するが、彼女は無関心といった風に、前髪をかき上げる。
「まぁ、準備運動程度にはなったかしら」
▽▲▽
――その様子を、グラウンドの端で眺めている少年が居た。
少し赤毛の、同年代の中では少し高い身長の少年だ。
その少年は、ARゴーグル越しに今の光景を唖然とした様子で見つめていた。
少年にとって、今の光景は、それほどまでに鮮烈だった。
美しい少女が力強く巨大な敵を屠るその姿は、まるで漫画かアニメがゲームか――そうじゃなかったら、最早神話だ。
「どうだ? すごくないか?」
立ち尽くす少年の傍らで彼に語り掛けるのは、黒縁眼鏡の優男だ。
その優男の言葉を、半ば放心状態で、少年は受け止める。
「――すごかったです」
おもわず呟いたその言葉を、件の少女が耳にし、振り返る。
その眼は、まっすぐ少年を――ここにいては不自然な人物を捉える。
「志村くん?」
少女の口が、その言葉を発した時、初めて少年は現実に引き戻された。
少年の名前は、志村一心。
少女の名前は、新宮遥。
互いにクラスメイトでありながら、この時二人は初めて出会ったように錯覚した。
初回はプロローグ含めて、全5回一挙公開ですので、よろしくお願いします。