第864話迷宮宇宙37
「ほう?時間稼ぎのつもりか?」
リーゼのその言葉に答えたのはミグではなく、ミュラだった。
ミュラのその言葉にリーゼはわざとらしく考える素振りを見せる。
「うーん…否定はしないけど肯定もしないかな?悪いけどお前らごときの残念な頭じゃ、リーゼが本気で準備した幾重にも連なる策を…まあ力押しで突破できないことはないだろうけど、相当時間はかかるだろうし、リーゼがいる最上階に辿り着けるのはミグ1人だろうね?」
その仕草は見た目だけなら可愛く小首を傾げているものだが、その言葉はあからさまな挑発だった。
「…いいよミュラっち。あたしが話す」
「へぇ…。ウチのミグより大人な対応ができるんだねー?感心しちゃったよ」
「………」
リーゼの更なる挑発にミグは何も答えない。
八つ裂きにすること自体は簡単だが、不滅の帝により作られた分体など、殺してもなんの意味もないことはわかる。
「まあ、静かに聞いてくれてるみたいだから説明をはじめるよ。まずなんでリーゼがここに来たのか…。ねえミグ?ちょっとゲームをしない?」
「ゲーム?」
リーゼのその言葉にミグは意味がわからないとばかりに疑問符を浮かべる。
「うん、ゲームだよ。リーゼはパパに似て優しいから教えてあげる。この階層は魔王城だよ。まあ元々の魔王は不在だったから、今最上階にいるのはリーゼなんだけどさ?パパの撤退命令が出る前にリーゼを倒せばミグの勝ち。逆にリーゼとしてはそれまで守りきればリーゼの勝ち。どうかな?」
「…そんなの元々そうだと思うけど?」
ミグはリーゼのゲームの意味がイマイチわからずにそう言った。
「まあ半分はそうだね。けどここでルールを追加だよ。ミグ自身を含めた生き残りが1人でもリーゼを倒せたらミグの勝ちだよ」
そのリーゼの言葉はミュラ達を見捨てて先に行けと…そう示唆していた。
「…そんな事あたしがすると思ってるの?」
ミグからは神級スキル発動の兆候が見られる…
おそらくラグアの森羅万象のような技を使うつもりなのだろう。
「まあ、そうくるのはわかってたよ。だから…」
その言葉を最後にリーゼの言葉は途切れる…何故なら分体を維持できなくなったからだ。
そしてミグの神級スキルもまた、途中で中断される…
「…急速に力が抜ける…アンチステータスゾーンか」
『ふふふっ、正解だよ。まあ正確には地球って惑星の強力なアンチステータスゾーンをここの一部と、いくつかの階層の一部に配置したんだけどね?まあ事前にパパから協力してもらって手に入れたいくつかの地球のサンプルとリーゼの神級スキルをフル活用して、なんとかできたこのリーゼ城なんだけどね?まあアラウザルゴッド相手に通用するアンチステータスゾーンはこれぐらいしかないしね?』
天井に貼り付けられたスピーカーからリーゼのそんな声がした。
話しているのはおそらく本体だろう。
『それじゃー、侵入者のみんなー。本日は難攻不落の要塞、キャッスル・オブ・リーゼへようこそ。叔父さん、出番だよー。今回は命令無視とかなしだよ。きっちり仕事をこなしてね?』
スピーカーのリーゼの声がそう言うと同時だった。
「チッ…クソうるせえ姪だな。叔父をパシリに使うか?普通?」
舌打ちをしながらゆっくり三島煌一がミグ達に向かって歩いてくるのだった。




