第834話迷宮宇宙13
「いや…一応けっこう手は抜いたぞ?」
俺は言った。
1時間走り回った苛立ちをぶつけるにしてはやりすぎたが、それもまた事実だった。
覚醒も真覚も使ってないし、素のステータスだってほんの僅かしか解放していない…
手抜きもいいところだ。
「ちっ…だいぶ強くなった気になってたが鋭治に追いつくのはまだまだ気が遠く…ん?」
兄ちゃんのその言葉は最後まで続かなかった…
何故なら兄ちゃんの目は俺達の目の前に現れた扉に目を奪われたからだ。
「なんか一気に難易度が上がったな…。雑魚とはいえ、さすがにこの数は俺じゃなかったら面倒だったぞ?」
「…ごめんパパ。リーゼのミスだよ」
「あ?どうゆうことだ?むしろお前のおかげでこの階層をクリアできたんだろ?」
「いや…そうじゃなくて…」
そう。
リーゼは気付いてしまったのだ。
これはまともな…つまりは正規のクリア方法ではないことを…
「パパ…たぶんだけどこれ…徘徊しているフロアボスを見つけて倒すステージだったんだよ」
「あー…」
俺はリーゼのその言葉に納得する。
馬鹿げた演算能力を持つリーゼが他の思考を全て捨てた上で1時間弱の時間を必要としたのだ。
そんなキチガイみたいなステージが第二階層から出てくる?
そんなわけがない。
「これは予想だけど、たぶんこの階層にはフロアボスが何体かいたんだよ。まあ地上には一体しかいないだろうけど…そしてそのフロアボスがやられるとリーゼ達の前に次の階層の扉が現れる…。さらにフロアボスはやられるたびに補充される…。つまりリーゼ達は地上のフロアボスを無視して待機所にいた予備軍を叩いたんだよ…」
つまりフロアボスは既に地上に徘徊してたってことか?
リーゼが見落とした?
いや、あの時のリーゼはあの広大な永久凍土全体に神の千里眼を発動させていてたった一体しかいないフロアボスを注視している余裕なんかなかったはずだ。
俺は言う。
「構わねーよ。そんなもんは所詮は結果論だ。そもそもお前がいなかったら、俺達は今でも走り回っていた可能性がでかい。それに悪いことばかりじゃねー。見ろよこれ?」
俺の視線の先にあるのはドロップアイテムの山…
その数1280…
今までの分と合わせると1799…
これは普通に攻略していたら決して手に入らなかったものだ。
「まあ結果オーライだな」
「本当パパって仲間には優しいよね」
俺とリーゼはそんなやりとりをした後、兄ちゃんと三人で次の階層に向かうべく扉をくぐるのだった。




