第705話兄と姉2
〜約30分後〜
ダミーイグロシアルはもはや変わり果てた姿に変貌していた。
そこら中にクレーターや陥没はまだマシな方で底の見えない大穴からマグマが吹き出している場所も珍しくはない。
帝級スキルや王級スキルを使って考えなしに暴れ回ればこうなる。
わかりきっていた事だ。
「一通り検証は終わったか?ならこれからの話をしよう」
言いながら俺は万物の神を発動させて、荒地だった俺達の周りをまず平らにしてから、豪華な椅子と巨大なテーブルを出現させる。
テーブルの上には酒からジュースからお茶…お菓子から料理からつまみまで一通り揃っている。
「さすが鋭治。気がきくじゃねーか」
兄ちゃんは言いながらビールの瓶を一つ取り、俺が作った椅子の中で1番近いものに腰掛ける。
栓抜きも使わずに握力だけで王冠をこじ開けてラッパ飲みをしているのは、帝級クラスになったからというわけではない。
兄ちゃんは地球でもこれぐらいはできた。
そんな兄ちゃんを一瞬睨みつけながら、姉ちゃんも腰掛ける。
ちなみに姉ちゃんはスパークリングワインを選んだ。
もちろん姉ちゃんはコルクの栓抜きもワイングラスも使っている。
これは兄ちゃんと同じ事ができるできないの問題じゃなくて、品の問題だな。
なり損ないのイナゴのステータスで、ワインの栓抜きすらできないなんて事はありえない。
「で?鋭治?どうゆう事かしら?煌一…クソ兄貴はいったい何をしにきたの?」
姉ちゃんはグラスのワインを一口飲みながら不機嫌を隠そうともせずに言った。
そして俺がそれに答えるよりも早くその言葉に反応したのは兄ちゃんだ。
「莉緒那ぁ?お前ずいぶん口が悪くなったな?お前にとっては久しぶりの感動的な家族との再会じゃねーのか?」
兄ちゃんは言いながらビールの空き瓶を無造作に床に投げ捨てるとヘネシーのボトルに手をつける。
ペース早いな…
いやどうでもいいか。
俺はそんな事を考える。
「…あんたが家族らしい事をしたことなんか一度でもあった?迷惑かけられた事や邪魔をされた事は数えきれないけどね?」
対する姉ちゃんは強気にそう言った。
姉ちゃんのグラスのワインはまだ半分程残っている。
こっちは普通だ。
ちなみに余談だが、俺は缶チューハイをグラスに注がずそのまま飲んでいる。
さすがに2人共が酒を飲んでるのに俺だけジュースじゃ味気ないしな?
「くくっ、そりゃ辛辣だな。だがそれもいい。金、権力、腕っぷし…いつの時代も力が全てだ。俺はお前や鋭治にそれが生きてく上でどれだけ大事か教えてきたつもりだ。わかっててくれて嬉しいぜ?」
そう言った兄ちゃんの表情は話してる内容は別だが、俺の記憶に若い頃の兄ちゃんそのものだった。




