第655話コレートル追撃戦(in地球)8
天才…そんな言葉も生易しい…
当たり前だ。
たった数十秒…
おそらく自分に向けて読心を使ったのだろうが、たったそれだけで日本語を覚えてしまった。
これがリーゼ…惑星国家イグロシアルの二大参謀の1人…
ラグアが一目おいているのも当然だ。
「問題は無さそうだね。シュドレの知識のおかげで今ならちゃんと字が読めるよ。あ、シュドレ。その1番上の右のやつとその下のやつ、あとはその更に右のやつ取って?」
「はっ」
リーゼはシュドレに命じて雑誌を次々に選ぶ。
「あとは新聞は全部持ってきて。形状変化を使えば自分で取れるけど地球人は手足が伸びたりしないからね?」
リーゼは言った。
リーゼの身長は5歳児相応程度しかない。
形状変化や概念を使用して浮かび上がれば問題なく取れるし、跳躍して取るという方法もあるが、あからさまに目立つのだけは間違いない。
全ての購入品をシュドレに持たせたまま、リーゼとシュドレはレジに並ぶ。
「大変お待たせしました」
若い店員は頭を下げて次々にバーコードを読み込んでいく。
「お会計4389円になります」
シュドレはラグアから預かった1万円札を渡す…
その瞬間、若い店員は目を丸くする。
「あのー…」
「どうかしましたか?」
シュドレは歯切れが悪そうな若い店員に聞き返す。
「こちらのお金…でしょうか?はじめてみるのですができれば電子マネー等にしていただけると…」
その瞬間リーゼの行動は早かった。
すかさず若い店員に読心を使用する。
若い店員が知っている1万円札は2種類…
数年前に新しく発行されだしたものと、その前の旧札…
どちらもパパに渡された福沢さんではない。
パパが偽札を?
ありえない。
正式に言えばこれは本物と同等の精度の偽札なのだろうが、つまり見分けはつかない以上、本物である。
おそらくパパが死んでから32年…その間に通貨の変更が二回あったのだ。
この説が1番有効だ。
それに…
若い店員の思考を読み取るとそもそもここ十数年は現金による買い物は一般的ではないようだ。
とりあえずリーゼが口を開こうとした時だ。
「あ、オーナー。すいませんお願いします」
店の奥からおそらく休憩が終わったのか、60歳過ぎぐらいの男性が出てきた。
オーナーと呼ばれた男性はリーゼ達が出した福沢さんとリーゼとシュドレの顔を見て言う。
「おや、久しぶりにこんな1万円札を見たよ。しかるところに持っていけばプレミアつきで買い取って貰えるけど、本当に使ってもいいのかい?」
ここに来て若い店員もそれが旧紙幣だと分かったのだろう。
若干申し訳なさそうな顔をしている。
「うん、寝たきりのおじいちゃんに頼まれたんだ。ね?お兄ちゃん?」
リーゼは言いながらシュドレに視線を向けると笑みを浮かべるのだった。




