第621話ラピロア襲来
「ラピロア…」
その言葉はオルメテウスの口から出たものだった。
「やあオルメテウス。だいたい千年ぶりだね?」
ラピロアはこの緊迫した状況に不釣り合いな調子でそう言った。
「…そうだな」
オルメテウスは短くそう答えた。
「それにしてもさ…」
ラピロアはそこで一度言葉を切る。
そしてその直後…凶悪…いや死そのものとも呼べる凶悪な殺気が溢れ出す。
「ボクの可愛い配下であるラグアの晴れ舞台に横やりをいれて邪魔をするばかりか、それを止めようとしたエルミナと揉めるとかどうゆうつもりかな?返答しだいによっては、いくら長い付き合いの君でも許さないよ?」
「……すまない…」
オルメテウスは短く…だが素直に謝罪した。
「本来ボクは君を殺さなきゃいけない。理不尽なイナゴ…その中でも絶対王者のボクの庇護下にある配下達をここまでコケにされて黙っているわけにはいかない…」
「………」
オルメテウスは何も言わない。
何故か?
それは反論も抵抗も無意味だからだ。
この絶対の存在はその気になれば、気まぐれで全宇宙を塵に変える事ができる。
彼の意思は絶対…
オルメテウスはラピロアのその先の言葉を待つ。
「だけどボクは同時に嬉しいんだよ。本当に久々にオルメテウスがやる気になってくれた事実にね?でもね?このままじゃボクは主としての義理が果たせない。ボク達の力を借りずにコレートルを追い詰めたにも関わらず、晴れ舞台を邪魔されたラグア…さらにはその晴れ舞台を守る為に向かわせたエルミナまでコケにされるときたもんだ。どう考えてもただで帰すわけにはいかないよね?」
「……………私はどうすればいい?…」
少し長めの沈黙…
その果てにオルメテウスは言った。
「だからボクは君に選ばせてあげる事にした。ねえ?オルメテウス?ここで死ぬかい?君の神格エネルギーならラグアやエルミナを不快にさせた対価には十分だけど?」
「………」
「相変わらず無口だね?まあいいや。オルメテウスにはもう一つの選択肢がある。ラグアと協力してコレートルを殺すことだ。もちろんそれとは別にエルミナには相応の対価を払って貰うけどね?」
ラピロアが言う対価は神格エネルギー…
黄泉の神をもつオルメテウスだからオルメテウス自身が神格エネルギーを失う事はない。
だが、それはエルミナが大幅に強化される事になる。
そもそもそれ以前に…
「…バカな…それでは意味が…」
「ないよ。そんなものははじめから。君がコレートルを守った事にはなんの意味もない。調停を守るだかなんだか知らないけど、何かを守るには力がいるんだよ。君のその中途半端な力じゃ、所詮何も守れはしない事がよくわかったかな?それにあの子には失望した。あの程度の子を特別な存在の1人だと思っていたボクがバカだったよ」
ラピロアが言うあの子とはコレートルの事だろう。
「………わかった…コレートルを探そう…一度拠点に戻る…」
長い沈黙の末、オルメテウスはそう言って転移した。
ローブで覆われたオルメテウスの表情は、外から窺い知る事はできない。
だが、オルメテウスの中で何かが変わったことを、ラピロアは確信するのだった。




