第604話対悪食戦線43
「え?いやセリー…そんな怒らんくても…俺一応お前の上官だし…」
「黙れっ!!上官なら上官らしい選択をしろっ!!ラグア様の誇る最高戦力の一角を預かるお前が、訳のわからぬ選択をしようとしているのは、もはや大罪以外の何ものでもないわっ!!」
数百年ぶりにかつての同期に怒鳴りつけられ、しどろもどろになるライナーにセリーは更に追い討ちをかけた。
「いいか?貴様の足りない頭でよく聞け。貴様は確かに強い。中級魔神で完全に成長が止まってしまった私などとは比べものにならない天才だ。純粋な戦闘力ではラグア様の配下の中でもかなり上位の部類に入るだろう」
セリーの言葉にライナーは気まずそうに目線を逸らす。
中級魔神…
そこがセリーの成長限界だった。
それ以降はどれだけ神格エネルギーを集めたところでセリーがその先に至る事はなかった。
「同情か?相変わらず貴様は甘いな?そんなものはいらん。今は貴様の事だ」
対するセリーは一切気にした様子もなく気丈に言い放った。
セリーはラグア様への忠誠心と向上心の塊の様な性格をしている。
そのセリーが自らの成長限界を悟った上で自らに進言しているのだ。
これは昔のセリーなら考えられなかった。
昔のセリーだったら嬉々として自分を蹴落としにかかるだろう。
言葉とは裏腹にライナーはセリーに好印象を持った。
「ああ」
ライナーはそう短く返事をした。
「さて本題だ。直接攻撃系か強化系の概念?なめているのか?仮に直接攻撃系や強化系の概念をとったとしよう。それがラグア様のお役に立つのか?」
「いや立つだろ。俺が強くなればそれだけ…」
ライナーの言葉が終わらないうちにセリーは言う。
「なら質問を変えよう。お前は概念やスキル、神格エネルギーの差を抜きにすればリーゼ様に勝てるか?」
「何言ってんだよ?んなもん勝てるわけねーだろ?」
リーゼの戦い方は未来予知と読心…更には他者の考えを読む能力を駆使する、例えるなら詰め将棋の様な戦い方だ。
直感で戦うライナーには1番の天敵のタイプである。
「では同じ条件でミグ様ならどうだ?」
「あー…たぶん厳しいだろうな…」
ライナーは答えた。
星王ミグ・ヒピー・イグロシアルはタイプ的には天才型でライナーのように直感で戦うスタイルである。
おそらく同条件なら小細工なしのノーガードの殴り合いに発展する。
そしてそうゆう泥仕合を星王ミグ・ヒピー・イグロシアルはもっとも得意とする。
長期戦の果てにたぶん押し負ける。
「これから先…ラグア様の前に立ちはだかる敵は一筋縄ではいかない者達ばかりだ。貴様に本当に必要な概念はなんだ?貴様の頭ではリーゼ様の様に戦うのは無理だ。同じく貴様の性格ではミグ様の様に戦うのも難しい。ならば貴様に必要なのは…」
セリーはそこで一度言葉を切る。
「いかなる状況にも対応できる手数であろう」
セリーは言ったのだった。




