第576話対悪食戦線15
シャドウリーゼとシャドウキャリーメルはお互いに動き出す。
最初に仕掛けたのはシャドウリーゼだ。
千手観音モードの無数の触手がシャドウキャリーメルを襲う。
「さすがは上位勢と言うところか…」
シャドウキャリーメルは呟いた。
シャドウの実力はオリジナルとほぼ同じである。
それはオリジナルラグアの黄泉の神で縛りつけた、半ば強行軍に近いような強制レベリングの結果だが、その事は今はいい。
イグロシアル最高戦力…
それは並のオリジンゴッドでは歯が立たない化け物の集まりだが、それでも上位勢と下位勢には大きな実力の開きがあった。
それこそ下位勢が、束になって上位勢1人にかかっても惨敗する程に…
だがここで忘れてはいけないのは、シャドウリーゼは上位勢だが、シャドウキャリーメルは下位勢ではない。
上位勢にも下位勢にも当てはまらない中位勢なのだ。
ステータス差はかなりあるが、対応できない程ではなかった。
だが…
シャドウキャリーメルはシャドウリーゼの無数の触手を次々に躱す。
また、躱仕切れないものには側面から自分の神格エネルギーをぶつけて軌道を逸らす。
「発動、概念、虚無」
その瞬間、シャドウキャリーメルの気配はおろか、神格エネルギーごと掻き消える。
概念、虚無…
発動すれば隠密行動において右に出るものはない。
何人たりとも使用者の存在を察知することはできない。
さらに、発動中はいかなるものもすり抜ける事ができ、一切の攻撃を受け付けない…
使用者の任意でいつでも解除は可能。
とここまでは完全にチートの様な概念だが、さすがに続きはある。
また、発動中は使用者自身も他者に対する攻撃ができなくなり、スキルやギフト…さらには他の概念などとの併用もできない。
また発動時間の効率はかなり悪く、効果時間は使用者の神格エネルギーに依存する。
さらには一度使用すると、再使用には使用時間×10倍のインターバルが必要となる。
という概念である。
つまりは転移の上位互換である。
最高のタイミングで不意打ちする事に完全に特化しているのだ。
キャリーメルはその概念を使用した。
シャドウリーゼはシャドウキャリーメルが消えたのを見ると僅かに目を見開く。
シャドウキャリーメルはシャドウリーゼの触手をすり抜けながらシャドウリーゼの背後に回る。
効果時間はあと僅か…
シャドウキャリーメルの莫大な神格エネルギーを持ってしてもこの概念は長くはもたなかった。
シャドウリーゼに一瞬の隙ができる。
今だ!!
シャドウキャリーメルはシャドウリーゼの後頭部に手を当て、一気に概念を解除する。
そのまま後頭部に当てた手から神格エネルギーの塊を打ち出す。
ゼロ距離の不意打ち…
いくら上位勢とはいえ、反応などできるはずはない。
さらに、いかに神格エネルギーの差があれど、これで無傷なはずはない。
そして当たりさえすれば、シャドウリーゼは死ぬまでには至らなくても、シャドウリーゼとシャドウキャリーメルの神格エネルギーは完全にひっくり返るはずだ。
だが…
「本当に愚かだよねー?塵芥のくせにリーゼに勝てるって本気で思ってたのかなー?可哀想な頭だねー?」
後頭部から伸びたシャドウリーゼの大量に神格エネルギーの込められた触手に貫かれて爆散したのはシャドウキャリーメルの腕の方だった…




