第559話シャドウ3
俺は未来のエリス達に俺の正体と共にリーゼの作戦を打ち明けた。
「エリス?どうする?好きに選べ?」
自分で言っててマジで最低だわな。
百数十年ぶりにあった主が、このまま殺すか、利用してから殺すかの提案?いや脅迫か?を持ちかけてくるのだ。
これエリスの立場ならマジで悪夢だわな…
だが、エリスの返答は意外なものだった。
「はっ、全てはラグア様のお心のままに…」
は?
エリスのその返答を聞いた俺は今けっこうアホな顔をしていると思う。
「ラグア様をお守りできなかったこの百数十年…私は何度自分が許せないと思った事でしょう。ラグア様の話ではラグア様は私の仕えるべきラグア様ではない。その認識で間違いないでしょうか?」
「ああ」
俺は答えた。
「ですが私の仕えるべきラグア様は存在しなくとも、私の目の前におわすお方もラグア様なのは、これもまたまぎれようもない事実です。ならばラグア様。私がする事は一つしかございません。どうぞラグア様の気の済む様に私のこの命をお使いください。それこそが私の存在する価値ですので…」
エリスは言った。
この間のエリローズの時もそうだが、例え時間軸…空間軸が離れていたとしてもエリスはエリスなのだ。
そう…もしあの時俺が支配の概念を選択し、ジジイに敗れていたら百年後のエリスは今俺の前にいるエリスなのだ。
他者はどうでもいい。
俺は目の前に並んだ焼き魚や焼き肉の命乞いなどには耳をかさない。
でも、さすがにこれはちょっと胸糞悪いよな…
俺は思った。
だが…
「…そうか。それがお前の意思なら俺からは何も言わない。いずれ代わりの俺を連れてくる。方々から集めた今の俺の陣営にいる仲間達も別の時間軸から補充されるだろう。そして俺はお前らを一度殺す。すぐに生き返らせるが…それで大丈夫か?」
最後の方は若干弱くなった。
わかってるよ。
俺は仲間には甘いんだよ。
リーゼに言われなくてもな…
だが、それと今回の作戦は訳が違う。
それをやらなかったおかげで他のアラウザルゴッドに負けて、目の前のエリスではなく、今の俺の仲間…俺と俺を慕ってくれるやつらが死んだらそんなのはバカを通り越してゴミ以下だ。
俺はそんな優柔不断で何も守れない独裁者になるつもりはないし、仮に俺がエリスの立場だったらそんな無能な主に仕えるなど不便すぎて自殺ものである。
エリスはそんな俺の思考を知ってか知らずか、少し表情を和らげながら答える。
「大丈夫か?ではなく、やれでよいかと?私はいつのラグア様も変わらずお優しいことがわかっただけで十分にございます」
そのままエリスは頭を垂れる。
「……また来る」
俺は振り返らずに未来のイグロシアルを後にするのだった。




