第518話リーゼとリオーナ
「ふふっ、あたしを試すか。面白いわね?まあ可愛い姪っ子なんだから笑って許してあげるわ。あたしはリオーナ・ミュールゼル・イグロシアル。あなたの父ラグア・エルライド・イグロシアルの姉よ?」
リオーナはリーゼの挑発に余裕の表情を浮かべて言った。
対するリーゼの頭は高速で思考していた。
何コイツ?
感情が読めない?
自分の見立てではこう言えば、逆上はしなくても多少は不機嫌になるはずだった。
そして軽く謝ってから会話を再開するつもりだった。
それが何故?
リーゼはこんな事は生まれてはじめての経験だった。
「…リーゼはリーゼ・エルライド・イグロシアル。パパの娘だよ」
リーゼのがそう答えるまでの一瞬の間…
その原因は恐怖だった。
リーゼは今まで他者の感情が読めない事はなかった。
だからこそ常に二手三手先を読む事ができた。
もちろんそこから相手がどう動くかを予測するのは、リーゼの天才的な頭脳があってこそのものだが…
リオーナはまるで鏡だ。
自分が1つ言葉を紡げば常に何十通りもの多数の感情…いや、思考が同時に浮かぶ。
読めないというか読みきれないと言うのが正しい。
こんな事はありえない。
この力はパパ…ラグア・エルライド・イグロシアルの夢を叶える為に天より与えられた自分だけのものなんだ。
リーゼはそんな事を考えるが、リオーナは言う。
「ふふっ、それはあんただけの力じゃないわ?そもそも多少の劣化版なら、あたしや鋭治の前世では心理学ってのを極めればそれなりにはできるしね?」
「…ちっ、クソがっ!!今度は読心かよっ!?てめえリーゼをなめてるみてえだな?」
同じ力だからこそ感覚でわかる。
今度のこれは読心だ。
ならもう取り繕う必要などなかった。
その瞬間リーゼの口調は変化していた。
「正解よ?それにしてもやっぱりあの子の娘って感じね?まあいいわ。でも読心を抜きにしてもあなたはまだ稚拙よ。他者の行動を先読みできるならもっと感情を殺して合理的に考えなさい?煽ったり脅せばいいってもんじゃないの。それで通じる相手と通じない相手がいるわ」
リオーナは言った。
「なぜ…リーゼにそんな事を言う?目的は?」
リーゼにはリオーナの考えは読めない。
リーゼが疑問に思うのは仕方のない事だった。
「さあ?あたしにもよくわからないわ。でも強いて言えば若い頃のあたしに似ているからかもね?」
「…そっか。それが本心かリーゼには知るすべがないけど、でも今はそうゆう事にしとくよ。でも…リーゼはいつか必ずあんたを超える…」
リーゼは言った。
リーゼとリオーナの交渉術の実力差は歴然だった。
「それがいいわ。あなたには期待しているのよ?鋭治の可愛い姪っ子のあなたとは仲良くしたいしね?これからよろしくね?リーゼちゃん」
こうしてリオーナとリーゼの対話はとりあえずは和解
するのだった。




