第492話姉の影6
「それにしても…まさか鋭治も転生してたとはね…もうあんたが死刑になってから軽く30年は経つかしら…いえ、この世界に転生した事を考えるともう50年以上ね…あたしの方こそごめんね。鋭治、あんたを助けてあげられなかったわ」
姉ちゃんはお互い名乗った後そう言って俺に頭を下げた。
「気にしてねーよ。姉ちゃんはよくやってくれたよ」
俺は答えた。
「でも…あたしが変なプライドを捨てて別の手段をとっていたらたぶん…」
姉ちゃんはそこで言葉を詰まらせた。
「どうゆう意味だ?」
「クソ兄貴と協力するって事よ…」
姉ちゃんは言った。
「あたしにはお金…クソ兄貴には裏社会の力があった。あたし達がお互いに変なプライドなんか気にしないでいれば…」
「済んだ事だ。いい。そう言えば兄ちゃんもどっかに転生してるのか?」
俺は言った。
「…ごめんね。クソ兄貴は少なくともこの惑星には転生してないわ。純粋な喧嘩じゃあたし達の中じゃ一番強かったけど、あんな喧嘩っ早くて、あんた以上に後先考えないで殺して、その度に力で脅して後始末の金をせびってくるクソ兄貴なんか、この惑星にいたらすぐにわかるわ」
姉ちゃんのその目には俺にはわからない長年の憎悪が込められていた。
「そっか。兄ちゃんも死んだのか?」
「いえ、少なくともあたしが死んだ時には生きていたわ。もう90近いジジイだったけど、某広域暴力団の最高顧問を引退したあとは闇のフィクサーなんて呼ばれて裏社会では大物だったみたいよ?」
姉ちゃんは言った。
どうやら兄ちゃんは姉ちゃんよりも後に死んだらしい。
いや、もしかしたらまだ生きている可能性も…
なくはないが、軽く100歳を超えてるからそれは薄いか?
「そうか。まあ、昔話はこれぐらいにして本題に入りたいんだがいいか?」
「ええ。予想はつくわ。でも鋭治?あたしもあんたに同じ事を言おうとしてたのよ?」
「あ?どうゆう…」
俺が言い終わらないうちに姉ちゃんは言う。
「鋭治。あたしのところに来な?あんたなら悪いようにはしないわ」
「姉ちゃん、それは俺のセリフだ。姉ちゃんこそ俺のところに来ないか?」
俺は答えた。
そう。
これが姉ちゃんの能力だ。
転生のスキルだとかそんなのに関係なく、姉ちゃんは他人の考えをある程度見透かす事ができる。
これは遺伝かどうかはわからないが、リーゼも姉ちゃんと同様の能力を持っていた。
だからこそ、姉ちゃんの危機察知能力は半端じゃない。
俺はそんな事を思い出す。
こうして姉弟の対話がはじまるのだった。




