第29話魔王との対話
俺と魔王ミュン・ゾフィスは、現在無言で向き合っている。
それは1秒にも満たなかっただろう。
だがその間にも、凶悪な気配を察知したエリスは動き出す。
突如現れたエリスが、ミュンに切りかかる。
俺はエリスが切りかかるより早く、エリスを触手で巻き取って引き寄せる。
エリスが一瞬前までいた地面は、突然ミュンの体から出た黒いモヤが当たり完全に抉れている。
「お前の勝てる相手じゃねぇ、下がってろ」
俺はエリスに言う。
「申し訳ございません。差し出がましい事をした上に命まで助けられ…あとで処罰はなんなりと…」
俺は敵そっちのけで久々の土下座状態になっている。
エリスの言葉が言い終わらないうちに言う。
「あーそういうのはいいから、お前は周囲を警戒しておけ」
「はっ」
エリスは可愛い部下だが、忠誠心が高すぎて時々暴走する。
それさえなければ完全にできる女なのだが。
目の前の魔王は俺に向かって言う。
「私は13魔王内序列第4位、ミュラ・ゾフィスが妹ミュン・ゾフィス。新たな魔王よ、我々は対話を望む」
ミュンは姉の名前を出したが、それは保険だ。
万が一にもナメられるわけにはいかない。
我々と言う言い方をしたのも、自分の今回の行動が独断ではないことを示すハッタリだ。
実際には、今回のミュンの行動は完全に独断だが、それはラグアにはわからない。
ミュンの1000万年近く集め続けたスキルの一つ、鑑定は相手のステータスを見る事ができる。
ミュンがまず最初に思ったのはその名前。
ラグア…詳しい事はわからないが、この世界の創世記から生きている上位3魔王と同時期に生まれ、同じ時代を生きていた魔神。
そんな名前を自ら名乗るのは、絶対的な自信の表れかただのバカか?
いや、ただのバカならば魔王になったばかりで、自分を超え魔王順位15位などになれるわけがない。
次に気になったのは、称号。
転生者…。
召喚者はたびたび聞くしそれほど珍しくもない。
13魔王内序列第12位アレス・ニースもその1人だ。
だが、転生者には1000万年近く生きてきて会ったことがない。
もっとも、あまりにも存在としての格がかけ離れていると、鑑定は使えないので上位3魔王の中にはいるのかも知れないが…。
最後に、スキル。
魔王になったばかりで、王級スキル2つという異常性。
だがこれは、固有スキル神託がその答えだ。
生まれながらにして、この世界の創造神の一体から将来を約束されている、完全なる勝ち組。
これらの理由から、ミュンには戦闘で無理矢理従わせると言う選択肢はなくなった。
だが、それはラグアも言える事、尋常ではないスキルの量、そして13魔王内序列第4位の妹を名乗る事。
少なくとも今は敵対すべきではない。
戦えば勝てるかも知れないが、それはそのまま13魔王との敵対を意味する。
魔王順位15位程度が敵対すれば、完全に死亡ルートだろう。
俺は答える。
「俺は魔王ラグアだ。こちらに敵対の意思はない。
対話を受けよう」
俺の敵対の意思がないには、今のところはと言う但し書きがつくがそれは、今はいい。
こうして、魔王との対話は始まった。




