第276話白と青6
「発動、ゴッズギフト、夢想の神国」
その瞬間、アルムスが歪む。
シオンはシーラの形状変化を搔き消す為に夢想の神国を使ったがそんなものは所詮、夢想の神国の力の一端にすぎない。
神の同士の戦いの場合、神の能力は神格エネルギーの総量に左右される。
万能型のシオン、特化型のシーラ…
神格エネルギーが同程度なら勝つのは当然シーラだが、それでも上級神と中級神の差を覆せるものではなかった。
「形状変化っ!!形状変化っ!?」
シーラは必死に水天の神を発動させようとするが、発動の兆しはない。
「悪いわね?この世は力が全てなの。なぜならそれがこの世界…いえ、全ての生命の摂理ってわけ。あたしが父上に従ってたのは父上があたしより力があったから。父上がラグア様に負けたのは父上に力がなかったから。そしてあなたがあたしに殺されるのは…」
シオンはそこで一度言葉を切ってから言う。
「まあ、偉大なる魔王ラグア様に刃向かったからって事にしておこうかしら?」
シオンは邪悪な笑みを浮かべながら言った。
シオンにとって父親のゼオンはその圧倒的な力でイグロシアルの約半分を手中に収めた力の象徴だった。
無論尊敬もしていた。
だが人間とは違い、自分達にとって力以上の選定基準などないに等しい。
強者がより強い力を持つものに淘汰されるのも従うのも当然だと思っている。
だから父が死んだ事にはなんの感慨もわかないし、父を殺した側の陣営に加担している自分にもなんの嫌悪感もない。
まあ、唯一気に入らないのは最高幹部とは名ばかりの自分以下の実力しかもたない者が自分より上位に立っている事だが、それも絶対強者であるラグアが決めた事…
ならば自分はそれに従うだけだ。
シオンは思った。
「さようなら。その程度の神格エネルギーでも少しはあたしの為…ひいては主であるラグア様の為になるかしら?」
シオンは夢想の神国で完全に身動きがとれないシーラを見据えながら言った。
シオンは右腕に神格エネルギーを集中させる。
あとは突っ込んでシーラを攻撃すれば終わり。
シオンがそんな事を考えていたその時だ。
「っ!?これは森羅万象っ!?このタイミングでっ!?」
シオンは自分の体が光輝くのがわかった。
視界に映るエリス達も同じ状況だ。
つまりこれは…
撤退命令。
下で何か不足の事態でもあったのだろうか?
まあ自分には関係ない。
自分は絶対強者である主に与えられた命令を遂行するだけなのだから…
シオンは森羅万象の光に包まれながらそんな事を思う。
そんなシオンを含めたエリス達、神級部隊は森羅万象へと吸い込まれるのだった。




