第23話交渉と言う名の恐喝
「俺は魔王ラグアだ。お前がドール伯爵でいいんだよな?俺はお前と交渉がしたい。拒否するならこの国を更地に変える。」
俺は伯爵に向かって言う。
つーか、俺の口から交渉なんて言葉が出るなんてなあ。
俺も成長したなぁ。
エリスを配下にした事もそうだし、俺も大人になったってもんだな。
実際にはエリスを配下にした件も、今回の件も、完全に自分の身の安全の為だが、ラグアはそんな事を思う。
「ひっひぃっ、わっわかった。交渉を受ける。だからその殺気を、こっちに向けるのはやめてくれえ」
そうドールに言われ俺は、エリスの方をみる。
俺ってそんな殺気ダダ漏れか?
「私はもう慣れましたが、失礼を承知でラグア様の今後の為にあえて言わせて下さい。ダダ漏れです。」
エリスは言い方こそ気を使っているが、はっきりと言った。
マジかあ、エリスには今更その程度の事で腹を立てたりしないが、まあ俺の為らしいし。
てかならもっと早く言えよ?
平時から俺、殺気ダダ漏れってヤバくね?
てかそもそも意識してねぇから、引っ込め方わかんねえよ?
引っ込め引っ込め引っ込め。
エリローズ「通常スキル隠密Level1を得ました。」
おっおう。
てか気配殺さなきゃ殺気引っ込まないって、どんだけだよ?
これから会話する時は、このスキルを使おう。
隠密のスキルの使い方は、本来気配を殺して諜報活動などを行うためのスキルである。
ラグアの使い方は完全に間違っているが指摘する常識人はいない。
エリスはラグアの利益になる意見は言うが、それ以外でラグアに対する否定的な意見は言わない。
これは完全にエリスがラグアに対して、崇拝している事が原因だが。
とにかくこれで俺の殺気は引っ込んだ。
「そうしていただけると、有難い。お初にお目にかかる魔物の王よ、私はドール伯爵家当主。
ダレクス・ドールと言う。今回はこのような場を設けていただき感謝する。」
どうも貴族ってヤツの喋り方は、偉そうで気に入らねえ。
俺は殺したくなる気持ちを抑えながら言う。
「俺の要求は、まず俺の事はお前が討伐した事にしろ、理由は伏せるが構わないな?それから、毎日1人生贄の人間を差し出せ。これも理由は聞くな、余計な詮索はいらん。それから、この館に俺達を食客として住まわせろ。俺の要求は今のところこの3つだ。それに対する見返りは、お前の政敵、反乱分子など全て片付けてやる。拒否するなら手始めにこの町が地図から消えるだけだ。」
ダレクスは思う。
こんなもの交渉などではない。
ただの脅迫だ。
逆らったら町が更地に変わる。
かと言って生贄を毎日1人差し出せだと?
確かに、自らの私有財産の9割を散財して、奴隷を買えば1年ぐらいは凌げるが、その1年の間にアリエルを、次期国王まで押し上げなければ没落してしまう。
逆に、アリエルさえ次期国王となってしまえば、国の財産を使い放題なので、奴隷などどうにでもなる。
ダレクスに断る選択肢などなかった。
断れば全てが終わる。
ならば割り切って、目の前の魔王を利用しきるしか選択肢はない。
幸い、この魔王は一方的に要求を押し付けるだけではなく、こちらの政戦には協力的だ。
ダレクスの答えは決まった。
「魔物の王よ。ダレクス・ドールの名に誓って貴殿の提案、全面的にお受けいたす。」
俺はその言葉を聞いて、凶悪な笑みをうかべる。
だがこれはのちにエルライド王国全土を巻き込む、争乱の幕開けにしては、余りに静かな幕開けだった。




