第173話タリス・レガッタ
モルエデス神国、子爵タリス・レガッタは何名かの従者と共に、草原に突如現れた大国にやってきていた。
既に使者を送ってアポはとってある。
諜報から入ってくる、この国の情報は驚く事ばかりだ。
俄かには、信じられないが、そもそもこの大国は異なる世界から現れたらしい。
また、この大国は5つの国からなっている。
それぞれの国の関係性は同盟国、属国と様々だが、もっとも力を持っているのはエルライド王国と言う国らしい。
そして、これは調べていく内に分かった事だが、エルライド王国現女王、アリエル・エルライドは式典などには出席するが、実際の国の運営にはほとんど関わらず、実質的にこの大国を支配しているのは、弟のラグア・エルライドだと言う。
そのラグア・エルライドも、もう何年も表舞台には出ていない。
だが、そのラグアの配下。
総統と呼ばれる実質的なエルライド王国のNo.2と最高幹部と呼ばれる、4人がラグアの勅命を受けて実質的な運営を行っていると言う。
調べた結果、ラグア・エルライドはめちゃくちゃである。
クーデターを起こして国を乗っ取り、反乱分子は全て武力制圧…
武力を盾にした恫喝に近い交渉で、次々に同盟国と属国を作り、それに応じない国に対しては国ごと地図から抹消する。
危険…
あまりに危険だ。
暴君…
そして、完全な独裁者タイプの支配者と言えるだろう。
自分に逆らうものは皆殺し…。
そんな危険な存在は普通ならそこら中で敵を生み、すぐに駆逐される。
そうならないと言う事はつまり…
それさえも圧倒的な力で叩き潰したと言う事…
それはラグア本人の力か?
いや、配下の5人の力だろうか?
あるいはその両方か?
だが、1つだけ言える事がある。
敵対と言う選択肢はありえないと。
王城の中に入ってから、ラグアの幹部を名乗る者にあった。
一目見ただけでわかる。
実力は自分より、遥か上…
神に選ばれ、ノーマルギフトを与えられた自分がそう思うのだ。
おそらくこの幹部はかなり上に位置するものだろう。
そんな事を思っていた時が自分にもあった。
「えっ、エリス様っ」
その幹部の腰が一瞬で90度に折られる。
「あとは私が引き継ぐ。下がれ」
「はっ」
その幹部は瞬時に跪き、下がる。
タリスは振り向く。
その存在は恐ろしい程、圧倒的な威圧感を放っていた。
かつて一度だけ、キングダムギフトを持つ、自国の王に謁見した事がある。
これはその時の威圧感を遥かに凌ぐ。
「お客様。ようこそエルライド王国へ。私はラグア様の忠実なる下僕、総統を任されております、エリスと申します。ラグア様がお待ちです。こちらへ」
エリスと呼ばれた女は自分にそう言った。
そうか、そうだったのか。
ラグアの暴君としか言いようがない、今までの所業は全てこの女の力によるものだったのか。
タリス・レガッタはそう、盛大に勘違いするのだった。




