第145話エリス奮闘記
ミグ一行がそんなやり取りをしている頃、エリス達は獣人国家、ライカン帝国から500メートル程離れた地点にいた。
「エリス様、どのように攻めるので?」
そう言ったのは、ゴルド・シーマである。
彼にとってエリスは上司である。
「まずは、どデカイのをぶち込む。そして逃げ惑う奴らはお前が狩れ」
エリスの圧倒的な力押しの残虐な戦い方は、主人であるラグアから学んだものである。
この世界の住人には多い傾向だが、王級クラス以上はだいたいが力押しでなんとかなってしまうので、戦闘がゴリ押しになりがちだ。
「ゴミ共にラグア様の恐ろしさを思い知らせてやる」
エリスは獰猛に笑い、帝級スキル、拳帝を解放しようとした時だ。
突如、もの凄い勢いでライカン帝国から2つの影が向かってくる。
2つの影はエリス達のすぐ前に着地した。
「雑魚が2人か。ずいぶんナメられたもんだねー」
「いや、お前にとっては雑魚でも少なく共1人は俺にとっては雑魚じゃねーよ」
現れた2人はそんなやり取りをする。
強い…
それがエリスが、2人を見た時の第一印象だ。
悪魔の方はおそらく自分と同格…
もう片方の種族不明の方は、全く底が見えない。
戦えば確実に負ける。
エリスはそう直感した。
悪魔の方が言う。
「ラグアの手下よ。お前の主人には手酷くやられたよ。一応名乗っとく俺はジオ・デストロイアだ」
もう1人の方も言う。
「ウチはシーラ・ベルネイア。大将は今忙しいから、ウチらが相手するよ」
エリスは2人の名乗りを、無視して帝級スキル、拳帝の全力展開した拳圧を2人に向かってぶつける。
「ゴルドっ、退くぞ」
エリスはゴルドを連れて逃亡を開始する。
明らかに自分より格上…
即時撤退、それがエリスの結論だった。
だが…
ジオとシーラは全くの無傷である。
ジオの周りには7体の悪魔がジオを守るように囲んでいる。
帝級スキル、七大罪…
ラグア様が使うスキルの1つだが、敵に回すと厄介な事この上ない。
エリスは思った。
シーラの方はスキルを使った気配すらない。
ただ立っていただけ…
それはつまり、今の自分の攻撃は防御動作をとる価値もないということ。
シーラは言う。
「拳帝かー。懐かしいねー。昔使ってた子もいたなー。まあ、死んじゃったけどね」
そのままシーラはゴルドに狙いを定めて突っ込む。
それはスキルも何ものっていない、ただの攻撃だった。
だが、それだけでもゴルドを殺すには十分すぎる威力だった。
だが…
轟音…
それはエリスがシーラの攻撃に対して横から接近し、全力の滅拳を叩きこんだ音だ。
だが、それはエリスとシーラがぶつかった音ではない。
エリスがシーラに触れる直前、シーラの周りの見えない何かにぶつかったのだ…
「ふうん。ウチに帝級スキルを使わせるなんて、あんたなかなかやるねー。これならちょっとは楽しめるかな?」
ちなみにシーラが使ったスキルは水神の帝ではない。
帝級スキル、音の帝…
音の完全掌握を可能にするこのスキルは、シーラにとってはただの遊び用のスキルでしかない。
ゴルドへの攻撃はなんとか止めたが、今度はターゲットが自分に変わってしまった。
滅拳で仕留められなかったどころか、全くの無傷…
しかも、自らの主より聞いていた水神の帝を温存したままだ。
状況は最悪…
どうすれば…
エリスは考えるのだった。




