第133話フィリアとフィリム7
終わった…。
目の前に現れた7体の化け物達を見てリルは思った。
どこだ?
どこで間違えたと言うのだ?
殺さないように加減しながら、自然に互角の勝負を演じていたはずだった。
結果はこの様…。
1体でも勝てない様な化け物を、7体も召喚されればもはや笑うしかない。
いや、そもそもこんな力を隠していた時点ではじめから勝てる訳がない。
仮初めの勇者は王級スキルの中では間違いなく最強クラスだ。
だが、あれはもはや次元が違う。
完全に積んだ。
後は死を待つのみだ。
リルは覚悟を決めた。
「……フィリム……何……それ?」
フィリアは話すのも辛そうに短く言った。
フィリムは答える。
「すまない。フィリア。こうするしかなかった」
それだけでフィリアはそれだけで全てを察した。
ラグアから七大罪を借り受けた事。
フィリアの戦いに横やりを入れた事に対する謝罪。
そして、その七大罪をフィリムがどんな思いで使ったのか。
フィリアの短く言った言葉もフィリムの返答も短い付き合いの仲だったら意味不明だろう。
だが、2人は生まれた時から長い時を共に過ごしている。
細かい説明など不要だった。
そんな時だ。
リルが言葉を発したのは…
「私の負けだ。殺せ」
「言われなくても。暴食、確実に仕留めろ」
もはや、フィリムにはリルを引き込む選択肢はなかった。
この期に及んでそんな事は言える訳はなかった。
「待てっ、止まれ暴食っ」
フィリムはリルにとどめを刺そうとした暴食を緊急停止させる。
なぜか?
フィリアが再び妖精王を発動させ、闇の大妖精、フェルミナをリルと暴食の間に割り込ませたのだ。
妖精王のキャパオーバーで死にかけているフィリアがそんな事をすればどんな悪影響があるか…
「フィリアっ。何のつもりだ?」
「……ソイツ…を…ラグア様…の配下…に………加えゲホっ」
フィリアはそこで大量の血を吐き出した。
フィリムは思う。
やはりフィリアの体は限界…
それより、今まで反対していたフィリアがここまで、180度考えを変えたのはおそらく自分の為だ。
このまま勇者を殺してしまえばフィリムの立場は確実に悪くなる。
リルをラグアの配下に引き込もうとした為、本来確実に勝てた戦いで仲間を危険に晒し、あげく主人から預かった帝級スキルを使った。
はっきり言って最悪だ。
ならば、はじめから2人で配下に引き込もうとした事にしてしまおう。
帝級スキルを使って降伏させた事にしてしまおう。
それでも、エリスあたりに七大罪を使った事を咎められるだろうが、この方が100倍マシだ。
勇者を配下に加えた功績で帳消しにできるだろう。
フィリムはフィリアに感謝しつつ、リルに向かって尊大に演技しながら言う。
「さあ選べ。降伏か死か?」
ここで死を選んだらどうしようか考えていたが、その心配は無駄に終わった。
こうして、勇者リル・ナフストとナフスト王国は魔王ラグアの手におちたのだった。




