第130話フィリアとフィリム4
フィリアが明確な殺意をもってリルにそう言った時だ。
リルが現れてからこれまで、無言を貫いていたフィリムがはじめて発言する。
「フィリア、コイツこちらに引き込まないか?」
フィリムの言葉にフィリアは耳を疑った。
何を言っているんだ?
コイツは…
フィリアは答える。
「は?フィリム、どうゆうつもり?コイツはラグア様の敵だよ。答えによってはいくらアンタでも…」
フィリアはその先を飲み込みフィリムの答えを促す。
フィリムは言う。
「ここで殺すのは惜しいと思ったからだ。実力はおそらく王級クラス、指揮能力は私達以上。私は必ずラグア様のお役に立つと思うが?」
フィリアは思う。
フィリムの言っている事は確かに正論だ。
フィリムと意見が対立するなんていつ以来だろう。
2人共まだ微精霊の頃、引っ込み思案のフィリムを森の外に連れ出そうとした時以来か?
懐かしいな…
私も可愛い妹が久しぶりに自分の意思を訴えてきたのは大切にしたい。
だが…
このまますんなりコイツを勧誘するのは、私のプライドが許さない。
絶対的な力、その残虐性、そしてあの全身から漏れ出る濃厚な殺気…。
ラグア様は素晴らしい。
そんな素晴らしい主人の配下の1人として、矮小ながらアルムスの魔王の1人としての矜持がフィリアにはあった。
フィリアはデモンピクシーの召喚を解除する。
「フィリムっ、手を出しちゃダメだよ。コイツは私がやるよ。私1人に屈するゴミなんか引き抜く価値はないからね」
フィリアはそう言い放ったと同時に、妖精王を全開にする。
デモンピクシーを引っ込めたのは、召喚の制限を3体に戻す為。
正真正銘の全力戦闘。
それはフィリアがラグアの配下になってからはじめての事だった。
「発動、妖精王、闇の大妖精フェルミナ召喚」
青紫色の朧気な存在が召喚される。
コイツを出すのもずいぶん久しぶりな気がする。
「更に結界の大妖精ウルトス召喚」
フィリアとウルトスに王級クラスの防御結界が出現する。
目眩がする。
明らかなキャパオーバーだ。
だが、保険にもう一体大妖精を出さなくてはならない。
「空間の……大妖精セリア…召喚」
フィリアは思う。
既に体はフラフラだ。
自分自身はもはや戦える状態ではない。
それどころか、意識を保っているだけでやっとだ。
大妖精3体の召喚は召喚者の体に多大な負担をかける。
だが、万が一にも負けるわけにはいかない。
長距離転移を使えるセリアは出しておきたかった。
セリアを具現化させなければ長距離転移を使うのにかかる時間は1秒にも満たない。
だが、それでもはじめから召喚しているのと具現化しないにしろ、召喚前からでは若干のタイムラグがある。
王級クラスの戦いにおいてそのタイムラグは命とりになりかねない。
もはや、話すのもしんどいがこれは言わなくてはならない。
「……行け。……私の…下僕…達。………コイツが…ラグア様に……仕えるに…ふさわしいか…見極めろ」
フィリアはフラつく意識を無理矢理、覚醒させそう言ったのだった。




