閑話覇王とミグ
「みんな…ごめんね…。絶対にジオっち連れて帰るから…。」
ミグ・ヒピーは呟いた。
現在彼女は北の大陸にいる。
ここは13魔王も人間も手を出さない、完全な不可侵領域である。
なぜなら圧倒的な力を持った存在がここを統治しているからだ。
ミグは思う。
死王星を出る時はみんなに猛反対された。
だが、今回ばかりはあたしも譲れない。
みんなを振り切るのにイシュトス君が出ようとしたが、それはあたしが断った。
これはあたしの意思だ。
みんなの制止を振り切ってまで押し通す程の。
これだけは他人に任せたくなかった。
弱体化したロロ様の分体、ミュラっち、ミュンちゃん達を軽くあしらってここに来るのは悲しいぐらいに簡単だった。
本来なら、ロロ様の分体にはだいぶ苦戦するはずだ。
あたしのせいだ…。
でもロロ様も最後には
「どうしても行くなら、必ず戻ってくると約束しろ。」
って言って送り出してくれた。
絶対に失敗できない。
ロロ様やミュラっち、ミュンちゃんを悲しませる訳にはいかない。
〜現在〜
あたしは覇王と向かいあっている。
帝級スキルの数や単純なステータスはあたしの方が上だが、油断はできない。
ある程度予想はついていたが、やっぱり覇王は光速の帝を持っている。
おそらく神魔大戦は俊敏のキチガイステータスの逃亡によって生き残ったのだろう。
予想される性格は、たぶんあたしと正反対。
勝てない相手には即時撤退。
負けるより逃げられる可能性の方が遥かに高いだろう。
覇王は口を開く。
「誰かと思ったらスライムのガキか。何百万年ぶりかとうに忘れたがな。」
あたしの事をガキ呼ばわりする彼はロロ様達と同世代だ。
にもかかわらず未だに神級に至れないのは、彼が逃げ続けてきたのが大きな要因だろう。
あたしは答える。
「キャハハハっ、ガキか。ビビリの化石野郎のくせに言う様になったねえ。そんなんだからあたしに追い抜かれるんだよ?」
「慎重と言ってほしいところだな。おかげで余は今もこうして生き続けている。」
覇王は言った。
ちなみに彼は一般的には名前が不明で通っているが、実際には名前がないのだ。
彼の名前はコロコロ変わる。
そんなコロコロ変わる名前なんて、誰もいちいち覚えていない。
名前がコロコロ変わると言う事は居場所を悟られないと言う事だ。
覇王と呼ばれる様になり北の大陸に腰を落ち着けた今でも名前をコロコロ変えるのは、昔の名残だろうか?
それとも名前に愛着がないだけか。
神託を得て見える彼のステータスの固有名の欄は未だに空欄だ。
「ミグっ、あまり時間がない。グズグズしているとエリローズ達も動き出すぞ。」
イシュトスは言った。
あたしは答える。
「それもそうだね。じゃーはじめますか。」
「できればやりたくないんだがな…。」
こうして覇王は逃亡、ミグは撃破を目的とした戦いははじまるのだった。
次回はこの続きです。




