第1005話神帝達の宴3
俺はそんな余計なこと…
いや、今後の為には大事なことだから完全に余計なことを考えながら戦いを進める…
そんな余裕があるのかって?
そりゃあるさ。
なんてったってウチの参謀様が俺の代わりに全部教えてくれるんだからな?
『パパ、右後方から奇襲。受け流したらチェルシーは左腕前方に出るから追撃。一拍置いて、今度は真下に出るから今のうちに概念トラップを張っといた方がいいよ?』
ほらな?
これがウチの参謀様だ。
俺はリーゼの言う通り動くだけで、考えなくても先読みを続けることができる。
追撃を交わしたチェルシーだったが、続く概念トラップはさすがに被弾する。
チェルシーのダメージは大したことはない。
だが食らい続ければいずれ…
俺がそんなことを思っていると、またもやチェルシーが消える…
これで何度目だ?
いや、そんなことより…
「…たった今の概念のダメージが完全に回復してやがる…理由は不明だがめんどくせーな」
俺は呟いた。
「それはこちらのセリフ…いや…さすがは殿下と言うべきか…まさか権能を温存されたまま我が手傷を負うことになろうとはな?だが…同じ手は通じんぞ?」
その言葉通りに、チェルシーの動きが変わる…
具体的には次に現れる場所の候補に衝撃波を撒き散らし、概念トラップがないことを確認してから現れるという風に変わった。
だが、これはあまりいい策とは言えない。
今までチェルシーは神出鬼没に移動していたから、リーゼはともかく俺は読めなかったのだ。
移動箇所の候補が絞られれば、リーゼの判断を待つまでもなく、ある程度の予測は可能だし、何より奇襲の心配は一切する必要がない。
そう。
チェルシーのこの策は防御力が上がった代わりに、攻撃力が大きく低下したのだ。
『オッケー。これでだいぶ行動は制限させた。チェルシーの移動のカラクリはだいたいわかったけど、倒すのにはちょっと手間だから自滅してくれるのはありがたいよね。おかげでリーゼは意識の大半をウドラハークに割けるよ』
神通からリーゼのそんな言葉が聞こえた。
概念トラップで軽いダメージを与えたのは、チェルシーの行動を縛る為の陽動…
本命はチェルシーの行動を制限させた結果の方…
チェルシーは現在、権能無しの俺でも十分に対処可能な状態になった。
これでリーゼは常時俺と意識を共有しなくてよくなったから、自分の戦いに大部分の力を注げる。
チェルシーは自分で選択したように思っているが、実際にはリーゼの手のひらの上で踊らされていた。
ウドラハークとの戦いを繰り広げるリーゼのオッドアイの瞳には、屍を晒すチェルシーとウドラハークの姿がはっきりと映り込んでいた。




