第965話白と青のグラデーション30
時は少し遡る。
ミュンがまだ権能の概念を発動するより前…
「ぐっ…ちょこまかと…」
アゼルメーテは凶悪なアンチステータスゾーン内部でミグに攻撃を当てられずにいた。
そして…
「くっ…おのれ…化け物め…」
「そりゃこっちのセリフだ。俺の蹴りを100発以上食らって頭が吹き飛ばねーどころかほとんど態勢すら崩れねーヤツなんか前代未聞だよっ!!」
「…我が多少とはいえ崩される時点で異常だ」
アゼルメーテは三島煌一にそう答えた。
予測不能な動きでアゼルメーテを撹乱するミグ…
アンチステータスゾーン内部だというのに、物理法則を無視しているのかというような動きで連続攻撃を加える三島煌一…
さらには…
「!?っ」
アゼルメーテは咄嗟になんとかリーゼの一撃を躱す。
神格エネルギーに大差がある三島煌一やミグの攻撃は食らっても微々たるダメージだが、リーゼの一撃だけは洒落にならない。
アゼルメーテが他の全て…例えばミグを仕留めることや三島煌一に対する防御を一切捨ててもリーゼの一撃だけは食らわないのは、当然と言えば当然だ。
「ふふふっ、上手に避けるねー?表情と反応が合ってないのは滑稽で笑えるけどね?でもいいの?殺りにこなくて?外の連中は長くは持たないよ?」
アンチステータスゾーンの内部でリーゼ達がアゼルメーテと激闘を繰り広げている以上、ミュラ達はアゼルメーテの助力は期待できない…
だが…
「追い詰められているのは貴様らの方だ。なんの策もないまま我が貴様らに戦いを挑んだとでも?」
リーゼはアゼルメーテのその言葉に表情には出さずに内心で笑みを浮かべる。
おそらくはミュンの権能のことだろう。
そうこうしている間にもアゼルメーテにはミグと三島煌一の攻撃が次々に刺さるが、涼しい顔をして無視を決め込んでいる。
完全にリーゼ一人に集中するようだ。
〜
戦いは続く…
アンチステータスゾーンは既に半分以上消化した。
一発一発は軽くてもさすがに数えきれない程の数の攻撃をその身に受けたアゼルメーテはそこそこのダメージが入っているはずだ。
アンチステータスゾーンが解けた時にどれだけアゼルメーテと自分の差が縮まっているか楽しみである。
まあ、一発でも自分の一撃が入れば逆転できるけどそう上手くはいかないだろう。
まあ、でも…
一応、一撃が入る淡い期待を込めて絶望のネタバラシといこうか?
リーゼは口角を思い切り吊り上げる。
その表情は当然、愛らしい5歳の幼女のものではなく、邪悪そのものだった。
「…?」
アゼルメーテは意味がわからずに疑問符を浮かべる。
「ふふふっ、アゼルメーテ?お前の負けだよ。ミグからの借りものであるミュンの権能…リーゼ達が読めてないとでも思ったのかな?いくらなんでもそれはリーゼとリオ姉を舐めすぎだよ?仮にも二大参謀なんて呼ばれてるんだよ?リーゼ達はさ?」
アゼルメーテの心中の同様が手にとるようにわかる。
焦り…でもわかったところで打つ手なんかない?
お前の考えなんか手にとるようにわかるよ?
「大サービスだよ?教えてあげるよ。殺戮炎舞に九神将…ミーラルの配下にミーラルとエルミナ…さらにはウチの精鋭で使えそうなのは、エリスとエリローズ…ここまで言えばわかるかな?…この時の為だけに温存してたありったけの戦力…止められるもんなら止めてみろよっ!!」
音を立てて崩れ去った計画…
一瞬硬直するアゼルメーテに、リーゼのこの瞬間のために温存していた完全思考の一撃が迫るのはほぼ同時だった。




