第954話白と青のグラデーション19
完全思考は未来予知と感情を読む能力だけでは使用することができない。
それにプラス、通常の…いや、例え天才であっても脳が一瞬でショートするような、通常のリーゼすらも遥かに超える恐ろしい演算能力があってはじめて成立する。
目まぐるしく攻守を繰り返す状況の中、ピンポイントで概念の塊を相手の体内に転移させ、回避不能な攻撃を未来予知と感情を読む力で読み取り、打たれる前に神格エネルギーに強制干渉して暴発させる…
一例をあげればわかると思うが、いかに天才だろうとできる技ではない。
それがオルメテウスを倒したリーゼの正真正銘の全力である。
もっともリゼルには不可能な話だったが…
〜
そして、リゼルとミュラ達が戦いはじめて数分…
神の中でも絶大な力を持つもの同士の戦いでは、かなりの時間だといえる時間が経過した時だ。
ついにその時は起こった。
「ぐっ…クソがぁぁぁぁ!!」
どんな連携に対しても完璧に処理していたリゼルだったが、ここではじめて致命的なミス…
いや、通常戦闘ならミスとも言えない些細な綻びだったが、ほんの一瞬反応が遅れたことにより、ミュラの一撃がリーゼの躱しそびれた触手の先端を僅かに掠る。
さらに続くジオの一撃も触手の先端を…いや、今度はほんの先っぽだがちぎり飛ばされた…
そう。
完璧な演算は…いや、完璧な演算だからこそ一つがほんの僅かにでも綻べば脆いものである。
修正しないと…
クソッ…処理が追いつかない…
こんな…こんなところで…
「終わらないよぉぉぉっ!!リゼルを誰だと思ってやがるっ!?群れるしか能のない貴様ら凡人如きが類い稀なる天才に数えられるこのリゼルに勝つなんてそんなこと許されるわけが…ぐっ…!?」
今度は先端どころか完全に触手を切り落とされた。
そこから先は一方的だった。
もはやなす術もなくなったリゼルがただただ傷を増やしていき、ついには心臓部ともいえる神格炉にシーラの一撃が突き刺さる…
「ぐはっ…クソッ…これで終わりか…短い夢だったな…」
口から真っ黒な液体…血なのかどうかも不明なそれを吐き出しながらリゼルは呟いた。
その正体はウリンが作り出した神級武器や神級装備や、ゴッズウェポンをゴッズクローンに組み込む際に液状化させたものだが、それはいい。
「優しいパパは戦いが終わればリゼルのことを蘇え…いや…こんな役立たずな娘いらないか…それ以前にパパはリゼルのことを知りもしないし知ってたとしても他の仲間とは違って愛着もないか…そっか…納得したよ…こんなバカな思考回路だからこんなゴミ共に負けるんだ…笑えるね…ギャハハハハ…ハハ…ハ」
最後に悲しげにそう笑ったリゼルはぼろぼろと身体を崩壊させ、跡形もなく完全に消滅するのだった。




