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6話目




「閉じ込める、閉じ込めるとはどうして…?」



心許なく今にも墜ちてしまいそうに、儚げに欠けた月のみが夜闇を、そしてドレイクを薄ぼんやりと照らしている。

白く淡い色を帯びた月光は、彼の表情を微かに浮かびあがらせていた。しかし目を凝らしてよく見ずとも、イザベラには彼がどんなに異様な表情をしているのかすぐに分かる。


先程まで満面の笑みを浮かべていたはずだったというのに、今じゃそれが嘘だったかのように感情がすっぽりと抜け落ちていた。

暗く淀んだ瞳から遣られた視線だけがイザベラへと注がれる。



「だって危ないでしょう?貴方に害を為そうとする馬鹿な奴らは大勢居ます。大切な婚約者様だって、貴方を殺そうとした。…信じようともせずに!」



一歩、二歩。

あまりにも異様な姿にイザベラは後ずさった。


普段の彼とは違いすぎる。イザベラのよく知る彼は、お人好しで優しくてーーーまかり間違っても人を閉じ込めるなんて言うような男ではなかった。



もしや掛けられたという魔法の仕業か!?

危機感を抱いたイザベラが脱兎のごとく逃げ出そうとするも、




「いっ、…!?」



手首が容易く捕えられた。

男らしさを感じさせる掌がイザベラの今にも折れてしまいそうな程に華奢な手首を包み込み、そうしてドレイクの胸へと引き摺りこむ。




「ああ、可哀想なイザベラ様…。貴方はあれほど殿下の為に頑張ってきたというのに、あの男は貴方を信じようともしない」



「…シェフ!少し待って、待ってったら!」



有無を言わさぬ抱擁から逃れようと、服の上からは分からない厚い胸板を拳で叩く。

最初は遠慮がちに、けれども一向に解放しないと分かってからは全力で。



しかしどんなに力一杯叩こうがイザベラは逃れる事も出来ず、それどころか抱きしめる力はより一層増した。

可愛らしい抵抗だと言わんばかりに、元は美しかった金の髪へとドレイクは鼻を埋める。




「イザベラ様、知っていますか?…貴方はあれほどまでに指や手に傷を作ってまで料理を拵えたというのに、あいつはそれを食べようともせず捨てていたんです」



ひぅっ、とイザベラの喉が鳴った。

名腕たるシェフ監督の下で作った、とはいえ簡単なカップケーキなどではあるが上手く焼きあがった菓子や料理を殿下へ差し上げる事は多かった。


受け取った殿下は嬉しそうに「後で大事に食べよう」と微笑んで、仕舞いこんだそれらがついぞ口にされる姿を見た事はなかったが。

けれど、だが、知らなかったわけではない。




それが食べずに捨てられている事に。

知っていて、それでも認められずにイザベラは料理を学ぶ為に厨房へと通い続けた。




「それが、何なの…?捨てられるなんて当然じゃない、私素人なのよ。殿下の口に合うわけがないわ」



知っていた、けれど諦められなかった。




「素人の料理は口に合うわけがない?…嘘でしょう、」




ーーーどうして諦められなかったのだろう。

髪に埋もれたドレイクの口元が耳朶へ口付けるように移動する。間近で、聞き逃さぬようにゆっくりと紡がれたその声はイザベラの耳孔へと届いて。然し、それはノイズと化した。





「嫌っ、…離して!」



何を紡がれたのかは理解出来なかったが、途端身を捩りたくなるほどの嫌悪感がイザベラの身を襲う。

狂いだしそうになるほどの感情が胸を突き、そうして喉の奥から湧き上がる。



逃げ出さなければ。でないときっと私は狂ってしまう!




「離して、離して、…もう嫌ぁっ!」





ーーー刹那、喉から迸るはずの悲鳴が音と変わった。

年頃の少女である可憐な声音が不協和音へと転じ、不快なそれは巨大に、ああもう人の声だとは思えないほどに!強大な音へと成り果て、辺りへと見境なく激突する。





暴虐的なデスボイス!公爵令嬢は叫び損ねる!!




ようやくタイトル回収!


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