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4話目



シュトルフ第二王子殿下は思慮深い御方である。

ここ数日の騒ぎを考えれば首を傾げたくなる人も居るだろうがーーー本来なら、冷静で、間違っても貴族達が大勢居る場であんな暴挙に出るような人ではない。



牢に閉じ込められてから二日、イザベラが寝る間を惜しんでひたすら自問自答したほどである。

大体おかしな点は山ほどある。第二王子殿下となれば、お付きの密偵達はそれこそ優秀な人達ばかりなのだろう。


そんなエリート中のエリートが、揃いも揃って間違った情報を報告するだろうか?

一人や二人ならばまだ分かるが、沢山居る内の全員が?まさか誤った数少ない報告だけを正しいと信じ込んで、受け取るとも殿下の人柄を考えると思えない。


更に言うならば、「刺客の自白は既に取れている」との発言も気になっていた。

無論、イザベラは暗殺を企てちゃいない。殿下の動向を探るため、自身の密偵を城へ忍び込ませた事はあるがーーー食べたご飯の内容とかどんな風に一日を過ごされているとかどんな下着を履いているかとかを知るだけである。


完全にアウトー!な所業だが、恋する乙女はまあそんなものだろう。使用済みの下着だって一度しか盗んでないし。




「本当に、殿下は暗殺されそうになっていたの?」



そうなれば思われる線は一つ、イザベラとしては考えたくもないが……殿下に他に懸想する女が居るのではないだろうか。

彼女と添い遂げる為に、邪魔なイザベラにあらぬ罪を着せて処刑する。そうすれば簡単には破棄できない婚約だって無かった事にできて、ハッピーエンドではないか?


いやでも、それでもおかしすぎやしないか。…ここ数日、イザベラは色んな事がありすぎていて疲弊していた。考えが堂々巡りになり思考も酷く鈍っている。


殿下は何故、あんな所業に出たのだろう。

両親も何故、これっぽっちも信じてくれやしないのだ。




「ええ、勿論。白昼堂々、護衛の隙をすり抜けて王子様の首を刎ねようとした馬鹿が居たそうよ」



「そう……それは、誰かが私を陥れようと企てた事なの?」




「いいえ、違うわ。単純に目的は王子様の暗殺だけ、失敗したから貴方に擦り付けたのね」




鈴を転がすような声が耳に届く。

イザベラは大きく深呼吸をしてから、強く前を見据えた。


殿下に他に女は居ない!!殿下に!他に女は居ない!!!

それすら分かれば、イザベラにはもう充分だった。愛する人の浮気は至極堪えるが、単純に信用されていないだけなら今度は頑張って信用してもらえばいい。


暗殺?なんだその不届き者は、愛しのマイダーリンに危害を加えようとする奴は皆八つ裂きにしてやる!




「それだけ知れたらもう充分よ、礼を言うわ骸骨さん。…ーーーそれで?此処に来たという事は、もちろん助けてくれるのでしょう」


「…なんか想像以上に立ち直るのが早いわね。勿論そうよ、ただ条件があるわ」




条件?とイザベラは首を傾げる。

もう恐怖はなかった。首を締められた恐怖も、喋る骸骨も喉元過ぎればなんちゃらというやつである。


イザベラの頭はハイになっていた。一番恐ろしかったのは、訳も分からずこんな狭い牢獄へと突然放り込まれた事である。

勿論骸骨が嘘を言っている可能性もあるが、こうなった以上ただ処刑を待つよりかは話に乗ってみる方が得策だ。




「私、呪いを受けているのよ。死ぬ事すら出来ずにこの醜い姿で生き続ける呪いをね、…この国で私に掛けられた魔法と似たようなモノが使われた痕跡を見つけたわ」


「魔法が使われた?それって、被害者の人は誰なの」





「国民全員よ」





は?




( は…?いや、は…? )






「はぁああアアア!??」





デジャブのような雄叫びが牢獄全体に響き渡る。とても公爵令嬢とは思えない良い叫び声だ。



「はァ!?国民全員って、嘘でしょ、私何ともないのだけれど!」

「それはほら、人間にカウントされていないんじゃない?」



驚愕の事実。

人類としてカウントされていなかった…?



「な、何よそれ。こんな可憐な乙女になんたる事!喜んでいいのか悲しめばいいのか分からないじゃない!」



「別に良いじゃない、おかげで魔法から逃れられたのだから。…ーーーそんな事より、ほら、本題」


「そんな事じゃない!!」



暴れるイザベラを宥めながら骸骨は話を続ける。

まるで駄々っ子を相手にしているようだが、その認識は間違っちゃいない。




「周りに、普段ならこんな事しないのにってことばかりする人居なかったかしら?」

「そんなの、ここ最近そんな人ばかりよ!」



普段の思慮深さがどこかへ行ってしまったような王子様や、日頃の娘への溺愛をかなぐり捨てた両親。

更に言うならば職務放棄して囚人を自由にしている看守もだ。


イザベラの常識ではありえない事ばかりだ。特に看守は給料を減らしてやってもいいんじゃないか。




「あれ、魔法の効果ね。まあ単に常識外れな事をさせるのが狙いではないはずだけど」

「そんな愉快犯な事させてたまるもんですか…」



先程は意気揚々と強く前を見据えていた視線も、今ではがっくりと石床へと戻る。

魔法だと言われ、どんな非日常的な事を語られるかと思ったらこの効果。国民皆を常識外れにされてしまったら困るが、これは、これは、…なんというべきだろう。





「まあ私も色々調査をしてみたのだけど。魔力の痕跡から見て、私に呪いを掛けた奴とそいつが同一人物って分かったのよ」


「そいつの居る場所を突き止めて、私にかけた呪いも皆にかけた魔法も解かせたかったのだけれど。…そいつ、ちょっと悪知恵が回るやつでね。私が動くとすぐにバレて、逃げてしまうからどうしたものかと」




「なるほど…、代わりに私に調査しろというわけね?」



「ご名答。私の頼みを聞いてくれる代わりに、王子様の命を狙う奴らを捕まえる手伝いをしてあげるわ」



ふるふる、とイザベラは力なく首を振った。勿論縦に。

なんだか可哀想になったのか、骸骨の硬い手がイザベラの頭を撫でる。そうして看守不在のまま、時間は過ぎていくのだった。



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