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ウェンズデー

作者: ビーチ

僕は君に深い森の中で出会った。僕はなんのあてもなく、ただ森の中を歩いていた。深い深い森の中の小さな葬式場。そこに君はいた。

 ウェンズデー・アダムズのような君の姿に僕は一瞬で恋をした。唇だけが鮮やか、白と黒と紺色の絹。君はその綺麗なツヤのある髪をずっといじくっていた。

 運命だと思った。もしも神がいるなら、この出会いは神からの最大の贈り物だろう。君という神からのご褒美を、僕は自分のものにしたいと思った。けれど君が僕の方を見ることはなかった。だから、僕はずっと君の方を見ていた。いつか少しでも君が僕を見てくれるように願って。

 死んだ風の音、死んだカラスの鳴く声がやけに耳の中で響く。カラスは死を予言する。カラスは死のあるところに向かって飛ぶ。魔女のような祖母から聞いたことがあった。このカラスは誰の死を予言してこの場にいるのだろう。君はこのカラスの鳴く声に何を思うのだろう。死を君はどう思うのだろう。君のことを知りたい。そして君と繋がりたい。君と一緒に恋に落ちることができたなら死んでも構わない。君と目を合わせたい。いつか君と。

 君はこちらをちらっと見た。一瞬だった。一瞬だったが僕はチャンスを逃すわけにはいかなかった。君と目が合う。

 じっと君は見つめてくる。僕もじっと君を見つめた。僕が目線を離すはずがない。離してはいけないように感じた。君が僕を見つめる限り、僕は君を見つめる。目線がぶつかる。けれど、そのぶつかり方はきっと愛に満ちたものなのだ。

 君はクスリと笑う。顔の筋肉をほんの少しだけ緩ませただけのような、柔らかい笑い方だった。僕も顔をほころばせる。僕は出口を指差しながら、すっとそちらを見た。君の視線もそちらに向かうように。僕は歩きだした。君も歩きだした。

 葬式場を出ると、2人が座るのにちょうどいいくらいの小さな椅子がちょこんとあった。僕たちはそこに腰を下ろしたが、僕は君の横に座るだけで鼓動が早くなってどうしようもなかった。

 君はそばにあった紙に何かを書き出した。

『声が出せないの』

 何を言えばいいのかわからなかった。君は続けて書いた。

 『だけど、この出会いは運命よ』

 その言葉に興奮を覚えずにはいられなかった。君もそう感じてくれていたんだね。

上を見上げると、空は木々の葉っぱで覆われ、周りは死んだカラスの声があふれていた。光はほとんど地面には届かず、薄暗さに満ちていた。君はその薄暗さが怖いのか僕に体を寄せてきた。僕は運命を信じた。君を抱きしめた。言葉などいらなかった。言葉は居場所を失ったように森の中に消えていった。いつの間にか葬式場は消えた。ここにいるのはカラスと僕と君だけになった。

 

 君とはよく出かけた。出かける先は大抵が葬式場だった。誰のための葬式なのか、僕には知るよしもなかった。君とどんな関係にある人の葬式なのだろうか。あまりの「死」の数に、僕は君が死を呼ぶ天使だろうかと思った。

葬式場で、君はいつも静かに泣いた。笑うように顔をほころばせて泣くその顔が僕は大好きだった。

 

君と出会ってから半年が経った。最近の君はどこか悲しんでいるように見える。二人で出かけに行くことも心なしか減ってきていた。「大丈夫かい?」と僕は君に声をかけてみる。

『大丈夫よ』

「少し具合が悪いようだけど」

『死をもたらすのは誰だと思う?』

僕が答えようとする時だった。急に君は僕にナイフを刺してきた。今まで経験したことのない強烈な痛みが全身に走った。刺された腹からは血があふれてきた。君が刺したのかい?どうして?もはや言葉にはならなかった。

「あははははは」

薄れていく意識の中で、君の高笑いが耳に刺さった。


 なるほど、次は誰の葬式に行くんだい?

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