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RealSaga  作者: 日比乃枕
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第8話

 歳をとると目覚めが早くなるという話がある。あれは老化と共に起こる生理的な変化が原因で早朝覚醒と言われている。寝るにも体力を必要とし睡眠中の深い眠りが減少することでちょっとした刺激で起きてしまう事が多く、言わば睡眠力の低下が一つの要因だと言える。


 実は、魔法もよく似た特徴を持っているがその話はまた後でとして、さてどうしていきなりこんな事を思ったのかと言うと、俺は起床時間の2時間も前に目が覚めてしまった。枕元に置いてある時計を見ると時刻はまだ5時、外はまだ薄暗く道の街灯の光がついていた。

 だが、これには理由がある。都市に来る前は毎朝早起きをして近くの森へ狩りに行っていたからだ。その癖がまだ抜けていなかったんだろう。それで今日もいつも通りの時間に目覚めてしまったと考えられる。俺はまだ、おっさんじゃない。そう思いたい……

 しかし、一度目が覚めてしまったからなかなか寝付けないし布団の中でゴロゴロしてても時間は全然進まない。本当はランニングでもして体を動かしたいところだけど、都市の道や走るコースなどまだ分からない。そこは休日や学園の帰りを利用して決めようと思う、それに魔力操作の稽古も欠かしたくないから走るコースに開けた場所も探しておきたいところだ。


 俺は布団から出て部屋を見渡す。生徒には学園の寮から1人一部屋を割り振られていて部屋は1DKほどの大きさで一人で住むには十分な広さで家賃と光熱費などは学園が負担してくれる。部屋にはまだ送ってもらった荷物が散乱していて、昨日の内に整理しようと思ってたけど昨日はそんな状態ではなかった。

 まさか学園長があの出来事の存在を知っていたのは心底驚いたが、しかしそれだけじゃ無い。俺が爺さんのところに来て丁度1000年が経ち俺はあの日の真実を知る手がかりを探る為に学園の門を叩いた。この学園の見た目は真新しいが世界では最古の建物に分類されている。ここなら俺が知りたい情報が手に入るかもしれないと期待していたが、こんなにも早く手がかりを見つけられるとは思ってもみなかった。

 それに、知りたい情報が人の口から聞けるのは手間が省けてとても助かる。情報が何かしらの隠蔽や暗号化されていたら解読するのに時間がかかってしまう。


(けど、学園長の話しと俺が学園に入学するタイミングそして1000年という月日これは偶然に重なった事なのか?)


 仕組まれた……とまでは思わないが運命的なものを感じてしまう。爺さんが良く『運命とは本人の意志に関係なく幸福と不幸が起きる。それは、決められたことであり覆すことができない不思議な力が働いている。運命と言う導きの下に人間の行動がある。』とそんな話をしていた。

 俺は元々運命や神といったものは信じていない。自分の行動は自分の意志でありその行動によって結果が生まれる。だから最初から全てが運命によって決められている何て信じられなかった。けど、あの日の出来事を体験してからそうも言ってられなくなった。何故なら、俺はあの時死ぬはずだったんだから……


 だけど、現時点では判断が出来ないしそこは今考えても答えが出るわけじゃない。それにせっかくの学園生活なんだ楽しまないと損だよな。俺は自分の顔を叩いてさっきまで考えていた事を一旦忘れ朝食の準備をする事にする。


 寮と言っても朝食が出るわけでは無い。最初から作られている食べ物を都市の中で買い貯めしている人もいれば俺みたいに材料を買って作る人もいるらしい。昨日買い物をした店で聞いた話だと買い貯め派が多いらしい。

 俺は良くリリアさんの手伝いをしていたから料理の腕には自信がある。てか爺さんと姉さんの料理の腕が壊滅的で命の危険を感じた俺が覚えるしか無かった。


 キッチンで朝食作りを始める。一応道具は家から持ってきはいたので新しく買う心配はないが、昨日俺にとっては一つ重大な問題が発生した。それはお米が見つからなかった事だ。

 昨日は時間が無く一つの店でしか買い物が出来なかったとはいえ、まさか米が無いなんて思わなかった。どこの棚を見ても米が置いて無く店員さんに聞いても余り入荷していないと言われて今は品切れだった。

(いや、余り入荷していないってなんだよ。米は主食だよ!)って思ったけど1000年経つと色々と変わるんだなと改めて痛感した。


 なので今日はパンメインで作る。簡単ではあるけど食パンをトーストで焼き、サイドにはサラダとスープにした。もう少し種類が欲しいところだけど、昨日のお米ショックにより買ってきた材料が少ない。

 朝食を慣れた手つきで皿に盛り付けテーブルに置いていく。用意するのはもちろん二人分だ。


(もしかしたら三人分?かもしれない……)


 俺は、ベットの枕で寝ているシノに声をかけて起こす。シノはまだ眠そうでフラフラしながら飛んできて机の朝食の前に座る。シノは朝食の臭いでだんだんと眠気が覚めてきたようで早いペースで食べている。


(ホントよく食べるよな。パンなんて丸かじりだし昨日も買ってきた食料が足りないかと思ったくらいだ。まぁそのくらい実体化の消費が激しいってことなんだろう。)


 朝食を食べ終わり制服に着替え学園に行く準備をする。カバンの中身は軽く学園で使う教材などは今日支給される予定だ。俺の準備が終わり出かけようとした時にシノが小さな黒色の櫛を持ってきた。その櫛は漆塗りされているかのように光沢があり黒がよりその光沢を際立てていて細かく金色で装飾されとても高い櫛に見える。どうしてシノが持っているのかは分からないが多分ソーラさんに渡されたんだろう。

 シノは部屋の中にある鏡の前に行き座る。どうやら俺に髪を整えて欲しいらしい。確かに寝癖がすごいことになってる。


 俺は一旦シノの髪を濡らし飛び跳ねている髪を直し風の魔法を使用して髪を乾かす。絶妙な風の強さで髪を乾かしてから手と櫛を使いながら丁寧に形を整えていく。何とも贅沢な魔法の使い方だ……。シノの髪を整えるのに触っているとサラサラしていて綺麗な髪だ。元々くせっ毛では無いらしく直ぐに寝癖は無くなりサラサラストレートに戻った。


「どうかな?」


 シノは鏡で確認し親指を立てて笑顔で答えてきた。どうやらうまく出来たようでこれでシノの準備も終わり学園に行ける。俺は最後に部屋の戸締りを確認して玄関から出ようとしたがシノが後ろからついてきた。


(そう言えばシノをどうするかまだ決めてなかったな)


「シノは学園に行きたい?」


 シノは目を輝かせて力強く何度も頷く。


「そうだよな。やっぱり行きたいよな」


 シノは外の世界が初めてで全てが初めて見るものばかりだ。好奇心旺盛なシノにとっては色々と興味を引かれるんだろう。それを、部屋の留守番にするのは可愛そうだし俺も出来るだけ外の世界を見て欲しいと思っている。

 けどシノを人目に晒すのは少し問題がある。それはシノが上位種の精霊である事だ。シノが誰かに見つかったらそれだけで大騒ぎになるかもしれないほど精霊の上位種は珍しい。それに無いとは思うがシノを狙ってくる危険な人もいないとは断言できない。どうしようかな……俺が考え込んでいるとシノが不安な表情で見てくる。


「心配すんな。俺が何とかするから大丈夫だ」


 そう言ってシノを優しく撫でる。とりあえずシノを連れ出すのは俺の中では確定している。見つからなきゃ問題は無いし、もし見つかったとしても強引だが誤魔化せる程度はできる。それに最悪の場合は学園長に直接お願いすることも可能だ。あんまりあの人に借りを作りたくはないけど。


「よし!シノ行こうか。シノは俺の制服のポケットの中に隠れててね」


 シノは笑顔で頷ぎポケットの中に入り俺は学園へと出発した。



 学園に通う生徒は徒歩と都市の中を走っているバスと列車のどれかを使って通学している。学園側から寮の支給はされるが、生徒全員が寮に入っているわけではなく生徒は都市の中のなら自由に住んでいいことになっている為、学園から遠い生徒は徒歩では厳しい。

 寮は比較的学園の近くに作られていてはいるが一ヶ所に集まっているのではなく各エリア事に作られている。昨日渡された端末に都市全体の地図があったから見てみたが学園は都市の中心に位置していてその周りに寮が建っていた。


 この都市には世界の様々な文化が根付いていて、4つのエリア事に建物や風景が違ったりする場所がある。事前に学園から渡された資料には各エリアの見どころなど書かれていてどこの寮に入るか記入する事になっている。生徒は気に入ったエリアの寮に入ることが出来るが、人気のエリアだと定員オーバーになることもあり人気のところに入れるかは運次第だ。俺は都市の中でも自然が多いエリアを選んだ。シノもいるしできるだけ自然に近い方がいいと思う。

 後は寮以外にも生徒が入れる場所がある。そこは一人の生徒が住むには広過ぎるような豪華な建物が建っている。その事も資料に書いてあったが詳細を見ると王族と国族の生徒しか入れないと書いてありいわゆる金持ち貴族の生徒が入るところだ。写真も載っていてどこの国の誰が建てたとかどのくらいの価値があるなど自分の財力を示しているところもあった。中には一般の生徒にも解放されている屋敷もあったが学園の寮以外だと家賃は自分持ちになるから高すぎて払えそうに無い。


 寮から学園までは歩いて10分~15分くらいで着き、もうそろそろ学園が見えてくる。まだ入学二日目で学園に行く事や周りに上級生がいるだけで緊張してしまう。ちなみに上級生と下級生の見分け方として制服のデザインで入っているラインの色が学年ごとに違う。1年は緑2年は赤3年は黄でこれは卒業するまで色は変わらない。

 色の意味合いは資料に書いてあったけどなんだっけか。歩きながら思い出していると後ろから声をかけられた。


「よう!アラン。おはよう」

「ん?アレックスか。おはよう」


 アレックスに声をかけられて途中まで思い出していたのが分からなくなってしまった。まあ、別に重要なことでもないと思うし今はいいか……


「どうした?何か考え事か」

「いや何でもないよ」

「そうか、なんだか少し元気がないように見えたから昨日の事でも考えているかと思ったんだ」


 そう言うとアレックスは俺の顔を覗き込んくる。って顔が近い……俺は手で顔を払う。


「いきなりなんだよ」

「だってさまだ入学二日目だろ。学園生活には慣れてないし周りに知っている人もほとんどいないわけだ。そんな中で昨日の呼び出しで何を言われたのか分からないが、学園で初めて出来た友達なんだ元気を無くしたのかなと心配になったんだ」


 そこまで考えていたなんて、俺は嬉しすぎて涙が出そうになる。長い間ずっと同年代の人との関わりが無い生活をしていたから人間関係が上手くいくのか確かに不安はあった。

 だけどこうやって気づかってくれるなんて、これが友情……友達というやつか。


「おいおい!どうしたんだよ。涙目になってそんなに昨日の事が辛かったのか?」

「違うんだそうじゃない。友達ってこんなにも素晴らしいものなんだなと思ってね」

「大袈裟だな。でも困った事があったらいつでも言ってくれ力になるからな」

「ありがとう。アレックスも困った事があったら相談してくれ」

「おう」

「あ、でも恋愛に関する相談事は無しな。アレックスの方が詳しそうだから」

「そんな相談しねえっての!」


 アレックスは顔を赤くしながら慌てて否定する。俺はそんな反応を見て笑いながらアレックスと雑談しながら通学する。今の状態からいけばたぶん長い間の友達ゼロからようやく抜け出せそうだ。


しかし俺は友達ができて嬉しい反面、あの日に親友を失った記憶と悲しみが心の奥から蘇ってきたのを感じていた。

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