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RealSaga  作者: 日比乃枕
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第7話

 学園長の呼び出しをくらった俺はシモン先生の案内で管理棟に向かっている。なぜ学園長に呼ばれたのかずっと考えてはいるが分からない。

 なにせ入学初日だ、この学園に来たのも学園長を見たのも今日が初めてだ。シモン先生に問いかけても『知らない』の一点張りで学園長に会ってみないことには分かりそうにない。


 校舎を出た俺はこの学園の中央に立つ管理棟の目の前に来た。遠目で見てもその大きさは良くわかったが近くで見ると更に大きく見える。扉は自動で開きシモン先生は中に入り俺もその後に続いて中に入った。


 管理棟の1階はエントランスホールの様になっていて広々としている。床には学園の紋章が刻まれていた。管理棟に入って左右には階段があり奥にはエレベーターの様なものがある。シモン先生と俺は奥のエレベーターに向かう。移動の最中に周りを見たが中にいる人は生徒ではなくこの学園の先生だけだった。


 エレベーターの所には円盤が置いてありそこに乗る。シモン先生が『学園長のところまで頼む』と言うと円盤が浮き一定の速度で上昇し始める。

 シモン先生は終始無言だったため俺は管理棟の中を観察する。何階建てかは分からないが各階にいくつかの部屋があり先生達はそこを出入りしている。上の階に行くのに階段で上がる人もいたが、円盤が近くまでやってきて先生を上に運んでいたりもしていた。

 俺達が乗っている円盤はどんどん上に上がっていき最上階まで昇ってきた。下は見ないようにするが相当な高さになっていると思う。落ちたらどうすんるんだろう……


 最上階につき円盤を降りる。この階だけは周りに何も無く殺風景で目の前には学園の紋章が刻まれた大きな扉がある。


「悪いがここから先は入室を許可された人しか入れない。お前1人で行っていくれ。帰りは下に降りればいい」

「分かりました。」


 シモン先生は円盤に乗って下に降りていった。

 俺は扉を改めて見る。扉が大きいので圧迫感があり来る者を拒んでいる様に感じる。学園長は一度入学式で見ていて怖い感じではなかったから、いきなり怒鳴られたりはされないだろうが学園のトップと会うんだ緊張はする。

 俺は一度深呼吸をし緊張を落ち着かせる。そして、扉に手をかけてゆっくりと開ける。扉は意外と軽く簡単に開いて俺は部屋の中に入っていった。




「シモン、お前がここに居るなんて珍しいな」


 俺が管理棟から出ようとした時に呼び止められる。俺は声のした方を向くとそいつを見て嫌な顔になる。ガルトか面倒臭い奴に会ったな……


「おいおい、そんな嫌な顔するなよ。」

「まぁ、お前の事は嫌いだし」

「ひどいな!」

「声がでかい頭に響く……」

「おお悪い」


 まったく、こいつは昔から苦手だ。体はデカいし声も大きいそれに気になった事はとことん聞いてくるから図々しい……俺が何度も突っぱねても平気で絡んでくる。一応こいつも学園の教師ではあるがどこか抜けている感がある。俺が言うのもアレだかな…

 俺は、何も話さず強引にでも出て行こうとしたが横についてきた。


「何だよ。俺に用事でもあるの」


 俺はイラついた表情で睨めつける。


「ん〜、別に用事ってわけでもないんだが、ただお前がここに来た理由が気になってな。」

「お前には関係ないだろ。俺は寝てないんださっさと研究室に戻って寝るから付いてくんな」

「そうなのか、それは呼び止めて悪かったな。飯はちゃんと食えよ」

「……」

「睡眠もしっかり摂れよ」

「……」

「今度飲みにでも行こうな」

「断る」

「そこはハッキリと返事するんだな!」


 ガルトがオーバーリアクションを取っているのを放置して俺は足早に管理棟を後にする。教師だからといってここにいる理由もないからな。


 それにしてもついてない。俺が担任になるとか有り得んだろう。しかも、最近は寝不足な上にいきなり管理棟まで生徒を連れてこいだなんて最悪だ。それに入学初日で学園長に呼び出されるとか聞いたことがない。

 学園長からは詳しい事情は聞かせてもらえなかったが何かあるには間違いないだろう。問題児だけは抱えたくはないマジで……

 俺はこれから先どのようにして担任を務めるか頭の痛い問題に直面し、憂鬱な気持ちで校舎内にある自分の研究室に戻って行った。




 学園長室の中は広いのに置いてある物は少なかった。両脇に本棚その近くにはポットがあり真ん中に来客用のソファーとテーブル、奥には学園長が座る椅子と机と大きな振子時計があった。

 学園長は何やら書類書きのような事務的な仕事をしていてこちらに目を向けようとはしない。俺が中に入ってきたのに気が付いてないのかと思って声をかけようとするが学園長は手を一旦止めて俺を見て微笑んだ。


「少しの間ソファーに座って待っていて下さい。もう少しで終わるので」


 俺は学園長の言うとおりにソファーに座り仕事が終わるまで待つ事にする。学園長室にはカリカリと筆の音と時計の振子の音だけが聴こえゆったりとした時間が流れる。それが妙に心地いいように感じて学園長の前なのに緊張はしていなかった。

 それから少し経って学園長は筆を机に置き書類に目を通してまとめる。学園長は満足行ったようで一度頷きこちらに向かってきた。どうやら仕事が終わったようだ。


「飲み物は紅茶でいいですか?」

「はい。お願いします」


 学園長は頷くと本棚の近くのポットで紅茶を入れ始めた。学園長の服装は入学式のとは違く黒メインだがロングスカートを履いて長めのカーディガンを羽織っている。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 学園長から紅茶が入ったティーカップを受け取り紅茶を飲む。紅茶からはとてもいい匂いがし、甘酸っぱさがちょうど良く体がぽかぽかと温かくなってくる。

 俺はこの匂いを知っている、ずっと昔に嗅いだことがある。何だったかなぁ……とそんな昔の懐かしい記憶を思い出しながら紅茶を飲んだ。


「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

「うふふ、それは良かったです。私、紅茶を淹れるのは得意なんですよ」


 学園長は嬉しそうに笑う。


「この紅茶には何が入っているんですか?もし良かったら教えて下さい」

「ええ、いいですよ。この紅茶には柚が入っていまして、いい香りがしでしょう」


 紅茶の匂いの正体は柚だった。昔、俺の故郷でも柚を食べた事がありその時の記憶が未だに残っていたが、今ではその記憶を思い出す事もすっかり減ってしまった。

 だか、この紅茶のおかげで懐かし大切な記憶を思い返すことが出来た。俺はもう1度その懐かしい匂いを忘れない様に紅茶の香りを嗅ぎながら飲み干した。


「気に入ってもらえて良かったです。良ければもう一杯どうぞ。」

「ありがとうございます。」


 俺は迷わずおかわりを貰う。ほんとに美味しいし落ち着く。


「落ち着いてきましたね。ここに来る人はみんな緊張して上手く会話が進まない時があるんですよ。それなので、こうやって紅茶を飲んでもらい落ち着いてから話し合おうと思ったんです。その成果か私の紅茶はとても人気があるんですよ。」


 学園長は少しばかりドヤ顔を決める。でも、この美味しさならそれも納得が行く。


「少し余談が長くなってしまいましたね。早速ですが、あなたをここへ呼んだ理由をお話します。本当はもう少し後でも良かったのですが仕事が立て込んでいてこうして長く話すの時間が取れませんでした。」


 学園長は一度紅茶を飲み真剣な表情で俺を見る。


「アラン君、あなたには私の下で働いてもらいます。生徒ではなく私、アラディア=カニング直属の部下としてね。」

「え……どういう事ですか?」


 全然話についていけて無い。学園長の元で働く?しかも直属の部下?なに紅茶の入れ方でも教えてくれるんかな。と思ってはみたけど学園長の雰囲気からしてそんな軽い話では無いらしい。


「まぁ、いきなり過ぎて付いてこれないのはしょうがないですね。アラン君はこの学園、セブンズについてはどれ位知っていますか?」

「魔物から人類を守る為に魔導師育成を目的として7人の英雄が建てたのがこのセブンズって言うくらいですかね。」

「そうですね、その認識で間違ってはいません。本来は魔物から人類を守る為に創られた学園です。しかし近年になってセブンズの在り方が変わってきています。」

「セブンズの在り方がですか?」

「はい。セブンズは国とはまた違った存在です。月日は流れセブンズを優秀な成績で出れば名誉と地位が築ける、他の国よりも優れた魔導師を保有すれ有利な交渉材料となると各国は考え出したのです。」


 確かにセブンズは今の時代超がつくほどの有名な世界的機関だ。それは世界から認められているから権限や発言力欲しさに走ろうとする人なんていくらでもいる。

 元々の在り方が変わってしまうのは悲しいことだとは思うが時代の流れと共に変わっていくのには逆らえない。


「そう言う話はよくあると思うんですが、別に他の国が優秀な魔導師を保有しようが誰かが名誉や地位を築こうがこの学園には余り関係の無い話だと思います。」

「ええ、その通りです。正直な話他の国が戦争を起こそうが学園には本当は関係の無い話なんですよ。一応、魔物との戦いの間他の国に対して侵略及び軍事行動を取らないと言う締結をしています。」


 だったら尚更関係無いはず学園長は何を危惧しているんだろう。


「しかし、それは表面上の話でしかありません。国民は知らないだけで各国は小規模ながら事を交えています。そして、実はその影響はこの学園も例外では無いのです。」

「それは学園が他の国から何かしらの圧力をを受けているということですか。」

「話が早くて助かります。この学園は7大陸の援助を受けて成り立っていますが口利きや裏金と言った行為が行われたのも事実です。この事がバレれば世界的に相当な避難を受けるのは免れませんが、残念な事に暗黙の了解の様になっているのが現実です。」


 それはまたブラックな話だ。正当な方法でその欲を満たすならまだしも、そこまでして利益を欲しがるとは、長い年月が経っても人間の本質は変わらないな。


「私が学園長になってですが、厳しく取り締まりまして今ではそういった事は少なくなりましたね。それに前の上層部が使えなかったので力ずくで追い出しまいました。追い出される時のあの顔今でも思い出すと最高ですね。」


 学園長は不敵な笑みを浮かべながら紅茶を飲む。俺はそれを見て一瞬寒気を感じる。いったいどんな事をしたんだろう、気になるけど何だか知っちゃいけないような気がするのは何故だろう……

 俺が顔を引き攣っていると、それに気が付いた学園長は咳払いをして話を続ける。

「それだけでは無く直接生徒達にも手を出しかけた実例もあります。それも自国の利益目的で生徒を狙ったものでした。」

「そんな事までしてくるですか。」


 それだと生徒が学園で安全に過ごすこともままならない。しかも無関係の生徒もそれに巻き込まれる可能性だって低くは無いだろう。


「恥ずかしい話ではあります。それを未然に防ぐことが出来なかったのは教師として恥でしてかありません。その時は私自身が対応して大事にはなりませんでした。もちろん今では生徒の安全を守る為にそういった事は私が対処しています。」


 学園長は一通り話終えるとフゥ...と息を吐く。そして学園長は険しい表情を浮かべる。


「ここからがアラン君にお願いする内容となります。この話をするにあたって詳しい事情を知ってもらわないといけませんでした。」


 やっとか……と言っても話の内容的にややこしい要求をしてくるのは間違い無いだろうが、そもそも俺はそんなのトラブル事を引き受けるつもりは無い。

 まぁ、学園長がここまで聞いてしまった俺をただで返してくれるとは思ってないが……


「アラン君、貴方には私と一緒にこの学園を守ってもらいたいのです。」


 やっぱりこうきたか。


「そう言うのは他の先生の仕事では無いんですか。それにこの学園には騎士団や生徒会があるのにどうして俺なんですか?」

「最もな疑問ですね。はっきり言ってしまうと実力不足だからです。」

「実力不足?この学園の生徒や先生なのに?」

「学園の教師や生徒だからといって全員が同じレベルとは限りません。実力者でも必ずしも防げる保証もありません。」


 確かに、学園の先生はともかく生徒は想定外の事態で正しい判断や素早い対処は難しいだろう。

 中にはそういった事に対して対応できる生徒もいると思うが、それが出来ない生徒が狙われると完全に防ぐのは無理か。


「万が一対処漏れが起きた時には私が対処していましたが最近になってそれが難しくなってきました。」

「それはどうしてですか。」

「申し訳ないのですが理由は言えません。」

「身勝手な話ですね。それじゃあこの話し合いは成立しないですよ。」

「否定はできませんね。それでも、アラン君にお願いするしかありません。それにアラン君の実力なら上手く対処できると私は確信しています。」

「確信って、俺はただの生徒ですよ、どうしてそんなことを言えるんですか。」

「それはローウェンさんのお弟子さんだからでしょうか。」


 俺はそれを聞いて学園長に対して警戒心を強める。学園長なら生徒の情報を知っているのは当然だが、俺が爺さんの『弟子』であったことを知っているのは家族以外は知らないはず。


「そんなに怖い顔をしないでください。これはローウェンさんから聞いた話なんですから。」

「爺さんから?」

「ローウェンさんにアラン君の学園生活の協力を頼まれましてね。急な事だったので驚きましたが、その時にアラン君がローウェンさんの弟子と知りました。」


 なるほど爺さんが言っていた協力者は学園長だったのか。まさか、学園のトップに頼むなんて想像もつかなかった。


「だったら話で聞いているはずです。トラブル事の対処はしてくれるんですよね。」

「そうですね、そう言う話でした。」

「ならどうして」

「私はローウェンさんにお願いされただけで、そのトラブルの対処も責任も私です。ですから私は『トラブルが起きた後の対処をする』そう解釈しました。あ、ただし普通の学園生活ではトラブル事は防ぐようにしますので心配は要りません。」


 チッ、そうくるか。強引な考えだが俺はそれを覆せない、爺さんが明確に言っていないなら学園長は好きに解釈できてしまう。

 それでも、この話を受けるのは条件が悪すぎる。学園長が何処まで対応してくれるか、何故学園長が動けないのか、それに学園を守るって言っても全てができるわけじゃない。無理な話だしそもそも俺がこんな面倒な事受ける訳が無い。


「俺がこの話を受けないと言ったらどうしますか。」

「アラン君は受けますよ。いいえ、受けざるを得ないと思います。何故ならアラン君の目的を知っているからです。」

「俺の目的?」


 学園長は紅茶が無くなっていることに気づき空になったティーポットを持って立ち上がり新しく紅茶を淹れ始める。


「アラン君は、1000年前の事を知りたくは無いですか?」

「な!?」


 俺はその言葉を聞いた瞬間、頭に雷が落ちたような衝撃が体に走り目を大きく開く。どうして学園長からその言葉が出てくるんだ。

 俺は不安定な状態の中考え色々な憶測が頭の中で飛び交うが、上手くまとめられない。落ち着け、息を整えろ。


「爺さんから聞いたんですか。」

「ローウェンさんからはアラン君が弟子であることしか聞いていません。」


 学園長は入れてきた紅茶を自分の分と俺のティーカップに注ぎソファーに座る。


「あんたはいったい何者なんですか?」

「この話を引き受けてくれるのでしたらそれも含めて教えましょう。」


 学園長は薄く笑いながら紅茶を飲む。嘘をついているように見えない。学園長は本当に知っているらしい。

 俺はもう一度、今回の話について考える。メリットデメリットで考えれ当然デメリットが大きい。学園側を守ることもそうだが、一番は俺が知りたい情報の提示が本当にあるのか今はまだ確証が無い。学園長はその事を餌に俺を引き入れているから、今聞いても教えてはくれないだろう。


 だが今回発覚した事実はそのデメリットをも大きく覆う言わば希望の様なものだ。なら、多少の面倒事は覚悟の上だ。


「分かりました。学園長の話を引き受けます。」

「そうですか。ありがとうございます。」


 学園長は満足そうに笑う。


「とりあえず、今日の話はこれで終わりです。当分はまず動くことはないと思いますが何らかの動きがある時は連絡をします。その際に正面からではなく管理棟にある裏口を使って下さい。」


 俺は頷く。連絡がある度に学園長室まで行っていると目立ちそうだ。

 その後は、少しの間学園長と雑談をして終わりとなった。


「では、失礼しました。」

「はい学園生活頑張って下さいね。」


 学園長は笑顔で手を振る。

 いや、頑張って下さいねと言われても、そのハードルを上げたのは学園長ですよ……と悪態をつきながら学園長室を後にした。

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