第6話
クラス表を見た人たちはそのまま教室へと移動する。この校舎は上から1年2年3年生の順番になっている。
教室に着いた俺達は教室の中の電子パネルに表示されている通りの席につく。俺は窓際の席らしくなかなか良いポジションだ。リネットさん少し中央よりの席に座る。
教室内ではもう既に生徒同士の話していたり、誰に話しかけるかタイミングを図ってキョロキョロしている生徒もいたり賑やかだ。
リネットさんは落ち着かない様子でそわそわしている。俺はと言うと今は話す相手がいないため自分の席に黙って座っている。
すると、俺の席の前に座っている男子が後ろを向いて話しかけてきた。
「よお、今大丈夫か?」
「?大丈夫だけど」
「そうか良かった。俺はアレックス=オルトンって言うんだ。名前で呼んでくれ、よろしくな。」
「俺はアラン=ローウェン、よろしくアレックス。俺も名前でいいよ」
アレックスは握手を求めてきたのでそれに応える。
「いや〜この席の近くに話相手がいなくてな困ってたんだよ。そしたらお前……アランが1人で座ってたから声をかけたんだ。」
「そうだったんだ。俺もちょうど話相手がいないがいなくてね、アレックスが話しかけてくれて助かったよ。」
「おう」
アレックスは俺より背が高く体格もいい。握手した時にアレックスの手は大きくガッチリしていたのでなにかやっていたのかもしれない。
「アレックスさん誰と話しているの?」
アレックスの近くにいた女子生徒が話に入ってきた。背はリネットさんとほぼ同じくらいだろうか手を前に重ねたまま綺麗な姿勢で立っていた。
「今さっき知り合った奴と話していたところだ」
「あら、そうでしたのね。アレックスさんのお知り合いでしたら是非ともわたくしにも紹介して頂けますか。」
「ああ、いいよな?」
「大丈夫だよ」
「ありがとうな、こいつはアラン=ローウェンだ。んでこっちがエミリー=ラライラって言うんだ。」
「エミリー=ラライラと申します。ラライラだと呼びづらいと思いますのでエミリーで大丈夫です。よろしくお願いしますね。」
「アラン=ローウェンです。俺も名前で大丈夫です、よろしくエミリーさん」
エミリーさんは綺麗にお辞儀をする。おっとりとした雰囲気で言葉遣いも他の人とは違くどこかの姫様みたいだった。
「それにしても近くに話相手が出来て良かったですね。アレックスさんは人見知りで私以外に話せる人が出来るかとても心配でしたわ。」
「そういう事は言わなくていいんだよ。別に人見知りってわけでは無くてたまたま話しかけるタイミングが無かっただけだ。」
「そうでしたの?私が見ていた時なんて最初から起きつかない様子でキョロキョロしていたではありませんか。」
エミリーさんがクスッと笑いながアレックスをからかっているようで2人は楽しそうに話をている。俺は素朴な疑問を聞いてみる。
「2人はどういう関係なの?」
俺はそんな事を2人に聞いてみたが、アレックスはビクッと体が反応してエミリーさんの方は笑顔でこっちを向いてきた。
「アランその質問をするな!」
アレックスが慌てて俺の口を塞ごうとする。
「アランさんにその質問をされては答えないといけませんねふふふ……実はですね私とアレックスさんは……」
「ちょ!エミリーストップ!それはまだ言うな」
今度はエミリーさんが言いかけていたことを必死に止めるアレックス。変なことでも聞いたのかな
エミリーさんはアレックスの抵抗もあり少し残念そうに話すのをやめアレックスは胸をなで下ろす。
「そこまで嫌がる必要はありませんのに……」
「いやでもさやっぱり恥ずかしくて、未だに慣れていなんだ」
「ん?どう言うこと」
アレックスが周りを見て一度深呼吸をしそして神妙な顔付きになる。俺はなにを聞かされるんだろうと少し緊張する。
「実はな、俺とエミリーは付き合っているんだ。」
「……」
「しかも許嫁なんだ」
「は?」
俺はアレックスの言葉に一瞬思考が停止した。
「えっと、それで」
「それだけだ」
「暗い顔をして何を話すかと思えばただの惚気話かよ」
「惚気話じゃない。こっちはめちゃくちゃ恥ずかしいんだぞ……」
アレックスは顔を真っ赤にして手で顔を隠す。体つきのいいアレックスがこういう反応をする事はちょっと予想外だ。
エミリーさんはというと笑顔ではいたが少し赤くなっていた。
何この状況……
「でも許嫁ってどういう事?」
「それに関しては今はまだ言えないんですよ。わたくしとアレックスさんが付き合っているという事だけしか周りにも言えないのです。本当は許嫁も禁句何ですよ。」
禁句って、そんな物騒な話なのか?さっき俺に話していたんだけど大丈夫なのかな。
「確かに口外しては行けない事なんだが学園で初めての友達だったからな嬉しくて喋ってしまった。」
「それっていいのかよ」
「俺だって話す相手や付き合う相手はしっかりと選ぶ。こう見えても人を見る目には自信があるんだ。アランは言いふらすような奴には見えなかったんだ。」
「まぁ俺も喋るなと言われれば言わないし安心してくれ。」
「そうかありがとう」
アレックスとエミリーさんにも色々と事情があるんだろう。俺だって人には言えないことが多い。理由はどうあれ同じ境遇どうし苦労しているんだろうと思う。
それに俺も初めて学園できた友達だ(友達認定はされたはずだよね。さっきチラッと言ってたもんね。)簡単に手放したくはないしアレックスとエミリーさんは話しやすく、入学早々いいスタートをきれたと思う。
そこでリネットさんを2人に紹介するのはどうだろうか、俺はそんなことを思いリネットさんの席を見る。リネットさん未だに1人で座っていて上手く溶け込めていないようだ。
入学1日目で溶け込めと言うのが無理な話だと思うが、このチャンスを逃してはいけないと思う。
「そう言えば俺も2人に紹介したい友達がいるんだ。その人上手く馴染めないでいるから紹介したいんだけど良いかな。」
「ああ、アランの友達なら大歓迎だ。」
「わたくしも大丈夫ですわ。」
俺はリネットさんの席に向かい声をかける。
「リネットさんちょっといいかな?」
「はい!何でしょうか!」
「リネットさん俺だよ。落ち着いて」
リネットさんは勢いよく返事を返してきた。俺はちょっとビックリする。
「どうしましょうアラン君。緊張して私まだ誰とも話していませんしどう話せばいいのかも分かりません。」
リネットさんは俺を見た瞬間涙目になりながら言ってきた。確かにリネットさんの性格上いきなり話しかけるのは難しそうだもんね。
「その事なんだリネットさんに紹介したい人がいるんだ。」
「紹介したい人ですか?」
「うん。さっき友達になった人がいて、その人にリネットさんの事を話そうと思ってね。」
「アラン君はもう既に友達を……それなのに私は駄目ですね」
「リネットさん落ち込まないで、その人たちはとてもいい人だからリネットさんもすぐに仲良くなれると思うよ。」
俺はそう言ってリネットさんを2人のところに連れていく。
「アレックス、エミリーさん紹介するね。この人はフィオナ=リネットさん。」
「アレックス=オルトンだ。よろしく。」
「エミリー=ラライラです。エミリーとお呼びください。」
「フィオナ=リネットです。よ、よろしくお願いしまふ!」
リネットさんは緊張していて声が強ばっていて噛んでしまい赤面する。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。これから学園生活を送る友人としてフィオナさんとお呼びしても大丈夫かしら?」
「はい大丈夫です。えっと、エミリーさんよろしくお願いします」
「ええ、お願いしますわ」
エミリーさんは緊張しているリネットさんに対し優しく笑顔で接している。その様子を見ているとエミリーさんは面倒見がいい人何だろう。
リネットさんもその笑顔で緊張が解れてきたのか少しづつではあるが笑顔で話をしていて俺はそれを見て安心する。
それから程なくして教室のドアが開いて教師が入って来たので俺達は各自自分の席座る。その後から遅れて1人の生徒が入ってきた。それは講堂で新入生代表挨拶をしたアシュリー=クロードだった。
アシュリー=クロードは生徒の視線をものともしないまま席に付く。席は俺の横だ。彼女を見ていた視線はそのまま俺に向く。みんなの視線が痛い……
俺は隣に座った彼女に対して話しかけようか迷う。(いやほら隣の席だしクラスメイトだし自然な流れで行けば大丈夫。なんも不自然じゃないよね…)
俺はあくまでも自然に話しかけようと横見る。彼女と目が会い澄んだ瞳が目に映り込む。俺は意を決して話そうとするが彼女がキッと睨んできたので俺はスッと顔を前に戻す。うん、実に自然な動きだ……
何故か彼女に睨まれた。理由は分からないが声をかけるなと、話さなくても彼女とのコミュニケーションがとれたことには間違いない。しかもそれを見ていたのか、教室内からは微かに笑い声も聴こえ俺は恥ずかしくなり机に顔を伏せた。
「お前ら静かにしろ。」
ここで教師から声がかかり俺は顔を上げて教師の方を見る。講堂では見なかった教師で着ている服は所々シワがあり目にはくまが出来ていて教師の態度を見るに気だるそうな感じで立っていた。
「今日からお前達の担任になったシモン=クレイグだ。とりあえず、3年間よろしくな。」
この人が俺達の担任になるなしくとてもゆるい感じの先生で眠そうにあくびをしている。シモン先生は頭をかきながら手元のパネルを操作している。すると俺達の机のにメッセージが飛ばされる。
「そこに書いてあるのはこれからの日程だ。今日は特にすることはないが、明日以降は学園の施設案内や学園生活での細かい説明、選択課題選びなどもやってもらう。あと、お前らにこれを渡しておく。」
シモン先生が手のひらサイズの端末を俺達に配り始めた。
「それはこの学園都市でのみ使える端末機だ。それで自分の残高確認と買い物、個人とのやり取りができる。お前達の学生情報もその端末に入っているから学園内の施設を利用する時に使ってくれ。それとそれを無くすと色々と面倒だから大切にしろよ」
これは俺が知っている携帯とほぼ同じ機能ではあるがこの端末1つで生活の幅が広がるのは便利だ。操作の仕方は使っているうちに覚えるだろう。
「よし、今日は特にすることはないと言ったが時間も余ってるし自己紹介をしてもらおう。今じゃなくてもいいんだが早めに済ましておきたい」
ついに来たか学園生活最初の難関が自己紹介だと俺は思う。ここで変に自分をアピールし過ぎてしまうと痛い目で見られる可能性がある。何事においても第一印象が大事だ。
ましてやさっき俺は笑われてしまったのでここは無難に自己紹介をした方がいいか…いや、それだと『何あいつ口数少なくて雰囲気悪くない?』だの勝手に変な想像をされてしまう。くそ、どうすればいい感じに自己紹介出来るんだ。
俺は頭の思考をフルに回転させながら1人で考えていた。
「それじゃぁ、前から順番で自己紹介適当によろしくな。」
それだけ言ってシモン先生はあくびをし椅子に腰を深くして座り寝てしまった。生徒は困っていたがこのままでは進まないので自己紹介を開始する。
にしてもシモン先生は自由だな、この学園にいる先生は皆そうなのかな?
自己紹介は順調に進む、みんな前の人のを参考にしていて名前や出身地のほか趣味や得意の魔法なども言う人もいた。セブンズだけあってみんな色々な国から来ているのが分かったが、ただ俺が来たアルスからはまだ一人もいなかった。
順番は進みリネットさんの番になった。リネットさんは少し慌てながらもゆっくりと自己紹介をしていく。途中詰まりそうになったが近くにいたエミリーさんがそっと声をかけてくれていて無事に終わることができた。
エミリーさんは優しく丁寧な口調で自己紹介をする。雰囲気もあると思うがクラスの反応を見るにエミリーさんは人気者になりそうだ。アレックスの方も人見知りだとエミリーさんが言っていたがその割にはしっかりとした口調だった。アレックスが失敗してくれれば俺もやりやすくなったのに……
ちなみに俺の隣に座っていたアシュリー=クロードは淡白とした態度で簡単な自己紹介で終わった。出身はハーフェルらしい。
そして俺の順番になる。回ってくるまで時間はあったし言うことは決まっていた。
「アラン=ローウェンって言います。アルスから来ました。みんなと一日でも早く仲良くなれるよう頑張りますのでよろしくお願いします。」
俺が考え出した紹介文がこれだ。うん、当たり障りのない自己紹介になってしまった。まぁ、他の人のをそのまま真似したのでこうなるのは仕方の無い事だが、俺がアルスから来たと言った際に少しクラスがざわついたのは予想通りだった。
最後の人が自己紹介を終えたタイミングでシモン先生が起きる。
「全員終わったな。時間もいい頃合だし今日はこれで解散にする。端末にお前達の部屋の番号が送られているはずだから確認よろしくな。」
今日の日程が全て終了しクラスのみんなはそれぞれ教室を出ていく。時刻はまだ昼過ぎだ。
そこでアレックスの提案により俺とリネットさんとエミリーさんの4人でこれからご飯を食べに行くことにする。場所はまだ決めていないが話し合いの結果、都市を散策しながら現地決めになる。
俺達は鞄を持ち教室を出ようとしたところでシモン先生に呼び止められた。
「アラン=ローウェン。おまえはのこれ話がある。」
「俺にですか?」
シモン先生が頷く。アレックス達に先に行くよう伝えるが、シモン先生が時間がかかるかもしれないと言ってきたので俺は今回断念して3人だけでご飯を食べに行く事になった。
教室には俺とシモン先生二人だけになる
「呼び止めて悪かったな。」
「いえ、それで話ってなんですか」
「学園長がお呼びだ。これから管理塔に行くからついて来い。」
「え、どう言うことですか?」
「そんな事俺が知るかよ。ほら行くぞ学園長をあまり待たせちゃ不味い。」
シモン先生は立ち上がり教室から出ていく。俺は学園長から呼び出された理由を考えながらその後をついて行った。