第4話
突然の合格宣言を受けて俺は、言葉が出てこなかった。合格した感激や嬉しさとかではなく、この状況の整理がつか無いでいた。
「あの、合格とはどういう事でしょうか?いきなり言われても何が何だか……」
リネットさんも同じくついていけてないらしい。
「おっと、これは失礼しました。実は私達この学園の教師何ですよ。」
「教師?しかも、私達って……」
俺は、バスの方を向くと生徒以外の乗客が俺達生徒を囲んで立っている。なるほど、段々と話が見えてきた。
その様子に気付いたのか目の前の教師がクスッと笑う。
「どうやら、ローウェン君は分かったようですね。」
「ほんとですか?アラン君」
「うん。どうやらこれは、入学試験の一環で俺達はそれに合格したらしい。」
「え、入学試験?今回のこれがですか?」
男性教師が、パンッと手を合わせて笑顔で答える。
「正解です。では説明をしましょう。今回の試験はこの時間のバスに乗る生徒を対象にしたものです。バスでのトラブルに対して適切な対処が出来るか各個人の判断能力、冷静さなどを私達教師陣が採点をしてました。その中であなた達2人、特にローウェン君は満点に近い評価でした。あの短時間であそこまで行動する事が出来るとは驚きました。」
周りの教師達も頷く。
「俺を高く評価してくれるのは有り難いんだけど、リネットさんだって同じくらいの評価何じゃないの」
「え、私がですか?」
「うん。だってあそこで、リネットさんが他の人達を落ち着かせる事が出来たから俺がスムーズに動けたんだ。」
「はい、その通りです。今回リネットさんの動きも高い評価に値します。直接的な結果が無くても、周りのサポートというのはとても大切な事です。」
「でも私、無我夢中だったので自分でもよく覚えてなくて、それにずっとアラン君を掴んでて足を引っ張ってたような……」
自分でバスでの行動を思い出して自信を無くしてしまったのか声が小さくなってしまう。
「それでもだよ。リネットさんの魔法で俺も落ち着く事ができたし、今回の事は自身を持っていいと思うよ。それに、合格できたのもリネットさんのお陰でもあるからね、ありがとう。」
俺は、素直に自分の気持ちを伝えた。リネットさんは、顔を伏せて手をモジモジさせながら
「そんな、お礼を言うのは私の方です。私が魔法を上手く使えたのはその……アラン君が……そばにいてくれてたからで……私だけの力では無くて……」
「リネットさん?」
「なっ、何でもないです!合格出来て良かったですね!アラン君!」
「う、うん」
リネットさんは慌てて喋る。顔が赤くなっていて人にお礼や評価されるのに慣れてないのかな?
「ちょっと待って下さい!」
すると、後ろの生徒が俺達の方に向かって叫んできた。
「おや?何ですか。」
「そこの2人は合格と言っていましたが、俺達はどうなるんですか?」
「あなた達は不合格となります。」
「そんな!?どうしてですか!」
「先程も言いましたが、この試験はトラブルの適切な対処、個人の判断能力、冷静さを見るものです。しかし、あなた達の動きはどれも減点対象です。冷静さを失い無闇に魔法を使うなど状況の悪化にしか繋がりません。他の人達も、何もしていないのでは評価のしようがありません。」
男性教師がそう説明する。他の教師達もバスの中にいたので俺達の事は間近で見ている。俺達の行動が全てチェックしているのであれば、彼らの評価は妥当なものだろう。
「し、しかし今回の試験だけで不合格になるのは納得できません。俺達がもらった資料には、学園会場による魔法実技試験と書かれています。俺達にも実技の試験を受ける事が出来るはずです。」
確かに、学園からの資料には学園での魔法実技を行うと書いてあった。内容は当日その場で聞かされることになってはいる。
俺は、その試験を誰もが受けるものだと思っていだが、実技試験を行わないで合格不合格を出すのに疑問を持っていた。
「ええ、その通りです。何も間違ってはいませんよ、資料はですが」
「それはどう言う意味ですか?」
聞いた質問の答えを言わない教師に苛立ちを覚えたのか、彼の口調が強くなる。
それでも尚、笑顔を絶やさずに教師が話しをする。と言うか、出てきてから1回も表情を変えていない様な……
「そのままの意味ですよ。渡した資料にはしっかりと学園会場による魔法実技試験と書いてある。つまり今あなた達が行った試験そのものではないですか。」
「な、騙したのか!」
「騙したなんて人聞きの悪い。今回資料の内容を勝手に解釈をしたのはあなた達の責任です、自業自得ですね。ふふふ、、」
「ぐ、、」
この教師が言っている事は間違っていない。俺も、今回の様な形の試験だとは思ってもみなかった。普通に試験管の前で魔法撃ったりするもんだと思ってた。
てか、他の生徒達もこれと同じ様な試験やってんのかな?そんな事したら都市の中大変な事になるんじゃ……
それと、笑いながら話すの辞めようね。馬鹿にしてるみたいで彼の顔は真っ赤だよ。
「馬鹿にしやがって……」
「はい、馬鹿にしてますよ」
本人を前にして言っちゃったよ!しかも今までで一番いい笑顔になってる!
ぷっつん、と彼の頭の理性が切れた音がした気がする。彼は、拳をつくり教師に向かって一直線に駆け出す。
俺は、割って入ろうかと思ったが周りの教師達が動いてないのを見てその場に留まる。
教師は彼の攻撃が届く前に自ら目の前に素早く移動する。その動きに驚いて一瞬動きが止まる、その瞬間を逃さずに教師は彼の腕を引き寄せる。
体勢が崩れたところで彼の後ろに回り込み、手を彼の後頭部に当てるように構える。完全に彼の動きを止めた。
無駄の無い綺麗な動きだった。リネットさんや他の生徒は目で追うのがやっとだったらしく、いまいち何が起きたのか分かってないようだ。
「まだやりますか?」
「ぐ、、くそ」
誰が見ても力の差は一目瞭然で彼が勝つ可能性はゼロだろう。彼は、肩をがっくりと落としそれを確認した教師も構えを解いた。
「さて、普通でしたらこの事は暴力問題としてあなたの親に報告をするところですが、まだ右も左もわからない子供相手に私も鬼ではありません。貴方も家のことでは大変でしょう。ここであった事は私が不問にします。それでいいですね?」
「はい……」
彼が一瞬ビクッとする。
どうやら、彼の弱みでも知っているみたいで脅している。教師としての立場上、生徒の情報は知っているとは言え職権乱用ではないのかと思う。
「さあ、皆さん話は終わりです。不合格となった人は帰って結構です。それと結界は駅の方角に歩いていけば抜け出せるので大丈夫です。試験お疲れ様でした。」
教師が帰宅を促す。その言葉に他の生徒もがっかりした様子で駅の方へと歩いていくが、彼だけはまだその場に立ちすくんでいた。
彼は、俺達の方を睨んでいて今にも襲いかかって来そうな雰囲気だ。リネットさんもそれを感じたのか俺の後ろに隠れる。
「お前のせいだ……」
「なに?」
「お前のせいで俺の見せ場が無くなったんだ!1人で勝手にやりやがって!そこの女もそうだ、ほとんど何にもやっていないくせに!」
俺とリネットさんに叫んでくる。
試験で合格できなかったのは、俺が1人で試験をクリアしてしまったのが原因らしく、しかもリネットさんにも敵意を向けている。なんと言う暴論なんだろう……
リネットさんは突然叫ばれた事に萎縮して震えてしまう。
「それは違うだろ。自分が試験に合格できなかったのを俺らのせいにするな。それに、お前があそこで魔法を使っていたら怪我人が出でいたかもしれないのをリネットさんのお陰で阻止できたんだ。」
彼があの状態のバスの中で魔法を使っていたら狙いが外れたり、魔法の発動が上手くできなく誘発の可能性だってあった。そんな事をしたらバスの暴走どころではない。
「うるさい!その女が俺の邪魔をしなければ上手くいっていたんだ。それにお前でなくてもバスは止められた!」
「自己解釈も程々にしなよ。教師も言っていただろこれは試験だって。ならお前が使おうとしていた魔法は完全にアウトだ。あの中で魔法を放っていたらどうなるかお前でなくても分かるだろ。」
「ッ……」
彼はバスから降りて落ち着いてから自分のしようとした事を理解していたはずだ。それゆえに俺の言った事に反論できない。普通ならそこを反省するはずなんだが、彼はそうしなかった。
俺は、これで引き下がってくれると思っていたが、彼は未だに諦めきれずにいた。
「なら、俺と勝負しろ!」
「はぁ?」
「合格者であるお前に勝てば俺が変わりに入学する。学園だって強いやつが入学するのはいいに決まっている。」
いやいや、いきなり勝負とか急展開すぎるでしょ。
それに教師が言っていたようにこの試験は、冷静さや個人の判断能力を見ると言っていた。その意味を彼は全くもって理解していない。この様子では、何を言っても引き下がってはくれないだろうな。
俺は、教師達を見て助けを求めたが……
「確かに、学園側に強い子が入学してくれるのはとても有難い事ですね。今年の新入生はやる気があって良いですね。」
教師の思いがけない返答に驚いた。
(あれぇ、そこは試験の内容をもう一度引っ張ってきて彼を論破するのはずしゃ。)
しかし、教師は満面の笑みだった。
完全に面白がっている。わざとやってるなこの人……
「ですが、勝負となると勝手にやられても困ります。まずはローウェン君の承諾がない事には成立しません。ローウェン君はどうしますか?」
「断る」
俺は即答で答える。
「なんだと、逃げるのか!」
「そうじゃないよ。お前と戦うことにメリットが何にも無いだろ。こっちはもう合格してるんだ、わざわざ勝負なんて面倒な事しないよ。」
だが彼はそれでも諦めようとはせず俺達に迫って来た。俺は仕方なく彼を止めようと構える。
すると、教師達が俺らの前に出てきた。
「何だ!邪魔をするな!」
「それは無理ですね。残念ならがローウェン君の承諾が降りなかったのであなたの勝負の申告は破棄させていただきます。それと、私達はこの学園の教師です。学園の生徒を守るのは当然の義務でしょう。」
教師達は俺達を囲むように前に出る。カッコイイ……
あと、できればそのセリフをもっと早く言って欲しかった。
「あなたがしようとしている事はこの学園の生徒に対しての攻撃行為と私達は判断しますよ。これに関しては学園は黙認できません。それでも向かってくると言うなら私達が相手になりますよ?」
彼はその言葉を聞いて尻込みする。
先程の教師に対する攻撃は教師個人が不問にしたが、俺達に攻撃行為をする事は個人の問題では無くなる。
その事を理解した彼はようやく諦めたのか荷物を持って離れていった。
「はぁ〜、怖かった…」
「リネットさん大丈夫?」
「はい、少しびっくりしてしまいました。すいません、またアラン君に頼ってしまって。」
「気にしないで、俺で良ければいつでも頼ってよ。」
リネットさんを見ていると何だか小動物を前にしているみたいで守りたいと言う衝動に駆られてしまう。
これがもし、姉さんなら間違いなく俺や教師達より早く手を出してしまって逆に止めるのが大変そうだ。そんな事を考えていると教師達が話しかけてくる。
「すいませんね、色々と話が長くなってしまい。アラン=ローウェン君。フィオナ=リネットさん、晴れてあなた達を本学園の生徒として入学を許可します。改めましてご入学おめでとうございます。」
教師達は拍手で祝福してくれる。俺とリネットさんは顔を見合わせてホットする。
教師は胸ポケットから紙を取り出す。白い紙は半分に折られていて学園の紋章が描かれている。
俺達は紙を受け取り中を確認する。そこには俺達の名前と合格した事が簡単ではあるが書かれていた。
「それは合格通知書です。それを持って学園まで向かって下さい。受付の人にそれを見せれば手続き完了です。その後の指示は受付の人に聞いてそれに従って下さい。」
教師の説明が終わると1つ気になった質問をしてみた。
「あの質問があるんですが、いいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「俺達が行った試験は全ての生徒を対象にしたものだったんですか?」
「いいえ、この試験は毎年1回だけ行います。生徒はランダムに抽出しており試験の内容も変えています。それがどうかしましたか?」
「いや、この規模の結界がいくつも張られているとなると都市の中は大変な事になるんじゃないかなと思ったので。」
俺はそんな質問をしたところ、教師達は何故か目を見開いて驚いていた。
(あれ、俺なんか不味いことを聞いたかな?)
「結界の存在だけではなくまさかその規模までも把握しているとは……恥ずかしながら、私達にもこの結界がどの位の範囲で張られているのか知らないのですよ。」
「え、そうなんですか?」
「この結界は学園長が張ったもので私達には試験の内容だけ話されただけでして、それなので先ほどの生徒達には明確な結界の境界を言う事を出来なかったのですが、まさかそれを見破ってしまうとは少し興味が湧いてきました。」
(やべ、いきなり目を付けられたか……)
「ま、個人的な興味は一旦置いておくことにしましょう。そろそろ学園に向かった方がいいでしょう。向こうの試験も半分は終わっている頃だと思います。」
それを聞いた俺とリネットさんは自分達の鞄を持って結界の外にある学園へと歩いていった。
学園のある一室。薄暗く周りには本棚が沢山置かれている。そんな中で不敵に笑いながら手元にある水晶をながめる人物がいた。
「あの子がローウェンさんが言っていた……早く会いたいわね。フフフ」
そう言うと、その人物は水晶に手をかざして映像を切る。そのまま椅子から立ち部屋から出ていった。