第3話
ぺちぺちとシノが俺の頬を叩いて起こしてくる。日差しが窓のカーテン越しに漏れていている。
俺は、カーテンを開け朝日の眩しさに目を細めながらも外を見て驚いた。昨日までの風景とは違く、周りにはビルやマンションなどいくつもの建物が建っていていた。初めて見る光景にシノはポカンと口を開けて固まっていた。暫くシノは窓の外を見ていて、列車を見た時よりも驚いていた。
程なくして、目の前に大きなターミナル駅が見えてきた。いくつもの列車が停まっていてドーム状の建物だ。列車は駅のホームに入り始める。俺は、荷物をまとめて降りる準備をする。シノには申し訳ないが制服の中に隠れててもらう。シノは街の中を見たかった様でしょんぼりする。
列車から降り1回伸びをしてからホームの周りを見渡す。凄い人の数だ。何千いや、もしかしたら何万かもしれない。そんな中でもちらほらと目立っていたのが俺と同じ学生服を着た生徒達だ。列車を降りた学生達は学園を目指して一斉に移動を開始する。俺も、人の波に沿って改札口へと向う。
巨大ターミナル駅だけあって、改札口を抜けるのにも一苦労だった。何番線まであるんだっていうくらい改札口や出口が多い。案内板にルートは描かれているがこの人数なので思う様に動けない。
多少時間が掛かったが、駅の広場に出た俺は休憩するためベンチに座る。広場も敷地が広く中央には西洋風の噴水がる。この都市は様々な国の文化が根付いていおり、他の出口にはまた違った広場があると思う。今度時間があったら行ってみたい。
すると、俺が座るベンチの横で制服を着た1人の女性が俯いているのに気付く。顔色が悪く見るからに体調が悪そうだ。どうしようかなと俺は周りを見るが、皆忙しなく歩いていて目を向けていなかった。なので俺はその女性に声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?どこか具合でも悪いのですか?」
声をかけた女性がこちらを向く。
桜色の髪でミディアムボムみたいに毛先が内側にクルンと巻いていてふわっとしている。
「人に酔ってしまって……今休憩しているところです。」
「そうだったんだ。とりあえず水でも飲んで落ち着いて下さい。ゆっくりでいいので」
「ありがとうございます。」
俺から水を受け取り少しづつ飲み深呼吸をする。それを何度か行い息を整える。水を飲みほし、ふぅー、と息を吐く。
「何とか落ち着いてきました。ありがとうございます。」
「それは良かった。顔色も良くなってきたし、それじゃぁ俺は行くね。」
「はい、ありがとうございます。それと、貴方も学園を受けに来た生徒ですよね。その……一緒に学園に付いていっても大丈夫ですか?」
「え?一緒に?」
「私、あまり人の多いところは苦手で。それにこの都市は広くて学園に辿り着けるか不安で……その、身勝手な頼み事だと分かってますが駄目でしょうか…」
女子生徒は少し涙目になっていた。
まぁ、同じ学園に行くだけで断る理由は無いし、それにこのままこの人を置いて行くのも何か気が引いてしまう。
「分かりました。一緒に行きましょう」
「ありがとうございます!良かったぁ……」
不安が無くなったのか、胸をなで下ろすし笑顔になる。
「それと、自己紹介がまだでしたね。私はの名前はフィオナ=リネットと言います。よろしくお願いします。」
「俺は、アラン=ローウェンです。よろしくリネットさん」
俺とリネットさんは鞄を持ちベンチを離れ学園へと向かった。
俺とリネットさんは広場を出てから大通りを歩いていた。大通りの道筋には木が植えられていて飲食店や洋服屋などなど、色々な店が建ち並んでいる。中には魔道具関係の店もあった。
大通りだけあって人も多く、リネットさんは俺の制服をつかみながら歩いている。
「ごめんなさいアラン君。歩きづらいですよね…」
「それ程まででも無いですよ。それに、ここではぐれたら大変だしね。問題無いよ。」
「そうですか、ありがとうございます。それにしても、相変わらず大きな都市ですね。」
「リネットさんは、この都市に来たことがあるの?」
「ええ、子供の頃親に連れてきてもらいました。でも、その時親とはぐれてしまいまして……それが今でも少しトラウマ何です。」
リネットさんが俯きならが話す。
「今日も、この都市に来て朝から不安でした。でも、アラン君がひと声かけくれてとても嬉しかったです。私のわがままにも付き合ってくれて、今日は私とても幸運ですね。」
顔を上げて嬉しそうに笑顔を向けてくる。
その笑顔を見て思わずドキッとしてしまう。俺は慌てて顔を逸らす。リネットさんはどちらかと言うとあまり明るい雰囲気ではないのだが、この笑顔は反則ではないのか…
「どうしました?」
「ん、あぁ、何でもないです。そう言えば俺はこの都市に来たのは初めてだっかな。」
慌てて違う話題を持ってくる。
て言うか、俺の周りに居た女性は姉さんとか我が強い人しか知らないから、リネットさんみたいな人は初めだよ。
「そうなんですね。アラン君はどこから来たのですか?」
「俺は……アルスから。」
爺さんからは、俺が来た場所のことは口外を禁止されている。一応、嘘でなくても詳しいところまでは言えない。
「アルスからですか。となると列車だと思いますが、けっこう遠かったんじゃ……」
「まぁ、オーデルを移動中に魔物が出るトラブルとかも会って1日以上はかかったかね。」
「魔物が……怪我とかは大丈夫でしたか?」
「近くの討伐隊が対応してくれたから、問題なく出発出来たよ。」
「そうですか、良かったです」
リネットさんと話しながら歩いているとバス停を見つける。事前にもらった資料を見る。学園まではここに来るバスで行くことになる。
周りには、同じ学生の人がちらほらと見受けられる。バスが来たので学生達はぞろぞろと乗り込み、学園へと動き出した。
「後は、このバスで学園に着くのを待つだけだね。リネットさん椅子に座りなよ、ここまで来るのに疲れたでしょ。」
「すいません。お言葉に甘えさせていただきます。」
俺はリネットさんを椅子に座るよう促す。バスは、約20〜30分くらいで学園に着くらしいけど、ずっと立ちっぱなしも疲れるよね。
バスが出発して10分くらいが経った頃、俺は違和感を感じ始めた。
俺は、魔力感知を使い違和感の原因を探る。すると、魔力で感じるもの発見した。
(これは、結界か……?でも何で)
ふと、俺はバスの外に目を向けて驚く。都市の中だと言うのに、この通りには人がいなかった。大通りを離れているとはいえ有り得ない状況だった。
しかも、バスの中にいる人もこの異変に気づいてないようで違和感しかないこの状況に俺は、リネットさんにこのバスを降りるように話そうとした時、突如バスが激しく蛇行し始めた。
「きゃっ!」
リネットさんが衝撃で俺に抱きついてきた。
「ご、ごめんなさい!アラン君!今離れますからって、きゃっあ!」
再び、リネットさんが抱きついてくる。あ、いい匂い……って!なに考えてるんだ俺は!
バスの中の人達もこの状況に慌てている。運転席の方はどうなっているか確かめないといけないのに、周りの人が通路を塞いでいて直ぐに動けない。
しかも、冷静さを失ったのか、何人かの生徒達は魔法を使って窓から脱出を試みている。
(まずい、この状況での魔法は危険だ。彼らを止めないと。)
俺は、魔法の静止をしようとした時にリネットさんが大きな声を出した。
「皆さん!落ち着いて下さい!」
リネットさんの体が一瞬だけひかり、魔法を発動した。リネットさんから出た魔力はバスの中の人達を包み込む様に流れていく。
すると、先程まで慌てていた人達が落ち着きを取り戻していく。
どうやら、人の感情に作用する魔法を使ったようだ。珍しい魔法を使うなぁと思いながらも、俺は直ぐに動く。
「ナイス、リネットさん!」
「ア、アラン君!」
抱きついていたリネットさんと離れて通路を塞いでいた人達を避けながら運転席に向かう。そこに座っている運転手の様子を確認するが、運転手もブレーキや緊急停止も効かないバスにどうしていいか分からない様子だった。
俺は、魔力を溜め込んでバスに手を当て魔術回路に魔力を流し込み、このバスにあるクリスタルを探す。
俺の頭の中にバスに張り巡らされている魔術回路が入り込んでくる。俺は、直ぐにクリスタルを見つける事に成功する。
バスの暴走の原因はクリスタルの暴走で魔術回路が機能してない状態だった。そこで俺は、クリスタルの権限を奪うことにする。
このバスはクリスタルと魔術回路によって走っている。魔術回路は決められた行動パターンや術者からの指示を伝達する役目がある。魔道具の故障などの大半は魔術回路の破損などが主な原因で、今回もそれに該当するのなら即席の回路を作ることにしたが、今回はクリスタルの暴走だった。
通常クリスタルは、魔道具の安定した魔力供給を主な役割としていて、魔術回路に組み込まれたパターンにより、魔力の供給量も変わってくる。しかし、このクリスタルが正常に機能せず魔術回路が耐えられない程の魔力を流してしまい魔術回路がショートしてしまったのだ。これでは、いくら魔術回路を直しても意味が無い。最悪クリスタルが爆発する危険もある。それなので、クリスタルの権限を奪う。
まず、俺はクリスタルに自分の魔力を流し込む。通常量の魔力ではクリスタルの権限を奪えないので、クリスタルが保有できる魔力量よりも多くの魔力を注ぐ。
俺の体から研ぎ澄まされた魔力が溢れる。
その光景に後ろからは『キレイとか何だあの魔力は!?』とか聞こえてくる。
魔力を一気にクリスタルへと流し込む。本来であれば少しづつ流し込まなければクリスタルが砕けてしまう恐れがあるが、この状況なのでクリスタルにひびが入る前に魔力で瞬時に補修すると言う荒技をやっていた。
クリスタルに魔力を流し込み続け、感覚的に俺の魔力がクリスタルを満たしていくのが分かる。
そして、クリスタルの権限を奪うことに成功した俺は、魔術回路を直している時間が無いため、クリスタルの供給をストップしバスのブレーキに直接魔法をかけた。
キキキィ!と言う音と共にバスがゆっくりと止まり始め道の端に停止した。
中にいた人全員がバスから降りる。俺は、リネットさんに駆け寄り声をかける。
「大丈夫?怪我とかしてない?」
「はい、大丈夫です。アラン君も怪我とかは……」
「良かったぁ。とりあえず俺も、怪我は大丈夫だよ。」
俺達はお互いの無事を確認して安心する。
「それにしても、今回のバスの暴走は何だったのでしょうか?あと、アラン君がバスを停止させた方法も気になります」
「まぁ、俺がバスを止めた方法は後に説明するとして、今回の暴走は色々と違和感が多かった」
「違和感ですか?」
「うん。まずこの一帯には結界が張られていたんだ。ここの通りには俺たち以外に人の姿が無かった。その様子に誰も異変とは気づいていなかった。多分だけどこれも結界の効果だと思う。そして、バスの暴走の原因はクリスタルだった。クリスタルが暴走するなんて滅多にないからね焦ったよ。」
俺の話を聞いていたリネットさんが驚いた顔をしている。
「確かに私たち以外に人がいませんし、全くもって気付きませんでした。それに、アラン君の話を聞いていると今回の事は人為的に起こされた事なんでしょうか?」
「俺はそう思ってるよ。事実、クリスタルには他の術者の魔法が感じ取れたし間違いないと思うね。」
俺達が話し終えると、バスに乗っていた男性が拍手しながらこっちに歩いて来た。
俺は犯人の仲間かと思いリネットさんを後ろに隠す。
「まさか、今年の新入生がここまでとは驚きました。」
新入生?いったい何を言ってるんだ?
男性は俺達の顔を交互に見る。
「アラン=ローウェン君とフィオナ=リネットさんですね」
「あぁ」
「えぇ」
そして、男性は満面の笑みで頷き
「おめでとうございます。あなた達2人は合格です」
『はい?』
突然の合格通知を受けた俺達は2人揃って間抜けな返事をしてしまった。