11話
ペタリ
手が触れた部分は一瞬冷やっとした感じがした後、じんわりと手の温度と同じになっていく。
ぺチリ
五指を拡げ、掴むように触れる。手に吸い付くようなフィット感。新感覚だ。
ペッチンペッチンペッチンペッチン
ちょっと楽しくなってきた。頭全体がヒリヒリしつつもあったかい・・・
「あの・・・サン様?大丈夫ですか?」
「あ・・・。い、いやその、初めての感触だったもんだからつい・・・」
・・・恥っずぅぅぅぅ。完っ全にミオンの存在を忘れてた。
ミオンの視線は俺の目と頭を行ったり来たりしている。
しばしの無言。き、気まずい・・・ランドルさんどこ行っちゃったんだよ。すぐ戻るって全然戻って来ないじゃんかよぉ。
「さ、触ってみるか?」
気まずさに耐えかね、ずいっとミオンの方に頭を突き出してみる。
だいたいミオンは自己主張せずにずっと側に立ってるから気まずい感じになるんだ。もっとなんか喋りなさいよ!グイグイ来いよ!
「え、えっと・・・では、失礼して・・・」
ミオンは目の前に突き出された俺の頭に戸惑いながらも、そ〜っと手を伸ばして来る。そうだ、来い。これはこれで気まずいけど、動きがあるだけ全然マシだ。
ピトッ、とミオンの小さい手が俺の頭に触れる。
うっ。や、柔らかい・・・姉ちゃん達の手ともまた違う感触が、優しく頭を包むーー
ーーって危ねぇ!トリップしかけてた・・・。いつの間にか頬っぺたまで超熱い。
恐るべし菩薩の掌、新たな世界に導かれるところだったぜ。
「痛くはないですか?・・・わぁ〜、確かに不思議な感触ですね」
ペタペタペタ・・・モミモミモミ・・・ナデナデナデ
・・・あれあれ?ミオンさん?結構ガッツリ触ってないですか?
ガチャッーー
「すまんな坊主、待たせた・・・って何やっとんだお前ら」
「うわぅ!あ、いやこれはその」
ババっと頭を上げてミオンから1歩離れる。
「ガッハッハ、まぁ俺も若い頃剃ってた時期があったからな、触っちまうのも分かるぜ。どれどれ?」
ガシッとでっかい手で頭を鷲掴みされる。うぅ、ガサガサしてるよー、ところどころタコができてて痛いよー。
チラッと横を見ると、ミオンが何となく羨ましそうに俺の頭を見ている。
え、何?もしかしてまだ触りたいのか?・・・いやいや違うでしょ!主人の頭皮が削られそうなんですよ!助けて!
幸いにも地獄の頭皮チェックはすぐに終わった。助かった・・・
「ふむ、幻術で髪の毛を見えなくしているんじゃなく、本当に生えてない。やはり呪いの類か。原因は間違いなくその指環だな、ちょっと鑑定するぞ」
ランドルさんが俺の左手の指環をじっと見つめる。俺も自分で鑑定しよう。
『代償の樹環(呪)』
効果
装備解除不可
Luk上昇(大)
アバター外見強制変更
・・・なるほど酷い。装備解除不可はまぁ、呪いの装備のお約束みたいな感じで理解できるけどさ。
何だよアバター外見強制変更って!ステータスマイナスとかじゃないのかよ!斬新すぎるだろ!
「こりゃまたけったいなアイテム摑まされたもんだなぁ。俺もこんな変な効果初めて見たぞ」
「あの、これって呪い解いたり出来ないんですか?」
「この辺に解呪が出来るような高位の神官なんていねぇよ。だいたい解呪には特殊な祭壇が必要らしいし、王都の神殿にでも行かなきゃ無いんじゃねぇか?」
話によると、王都は始まりの街からずっと西、2つの街を超えた先にあるらしい。
ここからはゲームシステム的な話になるが、プレイヤーが新たな街に移動するためには、その途中のエリアにいるエリアボスを一度でも倒していないといけないシステムになっている。
つまり、始まりの街→次の街→その次の街→王都と最短で目指すにしても、最低3体のエリアボスを倒す必要があるわけだ。もし途中のエリアが複数に別れていたらもっと増えるだろう。
「はぁ。ということは当分俺の頭はこのままって事ですか?」
「そういうこったな。さっきその指環から剥がれ落ちた金属を調べに行ってたんだが、やっぱり光属性を込めた魔鉄だった。おそらく光の魔鉄で覆う事で、一時的に呪いの効果を消してたんだろう。呪いと一緒にLuk上昇の効果も弱まってたみたいだが、魔鉄が剥がれたことで本来の効果に戻ったってことだな」
「あれ?じゃあこの指環をもう一度メッキし直せば・・・」
「無理だろうな、もうその呪いは装備したことによってお前と繋がっちまってる。メッキしたとしてもお前についた効果は消えんぞ」
つまりは王都に行くまではどうやったってこのままと・・・
「だがまあ毛が無くなるだけで済んでよかったじゃねえか。それにLuk上昇(大)なんて滅多に手にはいらねぇぞ?その指環俺が欲しいくらいだ」
人事だと思って・・・でも確かにLuk上昇(大)はでかい、ミオンだってLuk上昇のおかげで召喚出来た可能性もあるんだ、これからも何かと役に立つに違いない。
うん、何事も前向きにだな!どうせ髪型も短く設定してたんだ。無くなったところで大して違いはないさ!・・・しばらくは慣れないだろうけど。
「さて、そろそろ表の奴等もおさまった頃だ、クエスト完了の手続き終わらせちまうか。カウンターに戻るぞ」
「はい、いろいろとありがとうございました、ランドルさん」
「気にすんな、仕事の内だ」
ニカッと笑って先に行くランドルさん。今度なんかお礼しよう。
ピロンッ
・・・あれ?メールだ、姉ちゃん達かな?何だろう・・・