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幻想博物誌  作者: 邨野節枯
ミニュ ―森の上の森の中―
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巨木の中へ

 巨樹の根元へと辿り着くには、盛り上がった丘の様な複雑に絡まりあった根を登らなければならない。とは言っても、思いの外なだらかで緩やかな丘を上がる様なものだった。比較的小さな根の隙間には腐植が溜まり、その上を歩く事に支障はない。騾馬が数頭その荷の重みもあって足を取られはしたが、一行は特に問題もなく中程まで上がり切る事が出来た。

 根元に近付けば近付く程、その根は太さを増していくのだが、またその根からやや細い根が出てくる為、極端に歩きにくくなったり、城塞の稜堡の様な巨大な根を乗り越えねばならない等と言う事はない。

 太い根に上がり、その尾根伝いに進めば良いのではないかと始めは思っていたが、下がいくら腐植に覆われていても踏み外して落ちれば危険ではあろう。また、十分に上がり切ったところで、幹から生え出る根の股に暗く大きな穴が空いているのを見れば、尾根伝いに歩かない事の理由は明白だ。入口が根の下にあるならば、わざわざ尾根まで上がっても仕方がない。


 先導するミニュの人々の後について、その洞窟の様な巨樹の虚へと私達一行も入って行く。外は巨樹の森の中とは云え、それなりの木漏れ日によって明るく照らされていたので、中は洞窟の様に深い闇に覆われている様に見えた。実際は、目が慣れると外から射し込む光で十分で、それ程暗くもない。

 入口から百歩程のところで先行く人々が左右に分かれ始めたのだが、私がそこに着いた時視界が開け、暫く私は絶句した。


 先ず、巨樹の内部は虚になっている事は、人が住んでいる以上当然だろうとは思っていたが、その広さたるや想像を絶したのである。初めその余りの大きさ故に良く解らなかったが、歩けば一周約七百歩程。所々歪ではあるが概ね円を描いているので、恐らく反対側までの距離は、平均して二百三十歩はある。これ程に大きいと、反対側の壁が円を描いている様には見えないと言ったら信じて貰えるだろうか。

 そして、視線を上げれば上げるにつれて、その壁が曲線を描き、円を描いている事がはっきりとしていく。

 しかし、私のいる通路は外壁とでも言うべき部分に溝の様に穿たれているので、その壁が頭上に弧を描いて緩やかにせり出し視線を遮り、視線が真上に向かう事を許さない。

 向かいの壁が上がるにつれてその曲率を強める様に見え、またこちらに倒れかかって来るかの様な印象を受けるのだが、視界が上方で制限される為、さながら巨大な円蓋の中に居る気分になって来る。

 反対側の通路の様子から考えれば、壁からせり出すその天井の様な曲線が水平になった所で唐突に途切れ、一気に真っ直ぐに上へと続いていくはずである。この虚の中は、上の方はどうなっているのか。

 私は思わずもっと前に出て真上まで遮られることなく見上げようと思い、前へ前へと進み出た。

 すると、突如何が起きたのか分からぬままに足下の床が消えたかと思うと、激しい水飛沫が上がり、私の視界は真っ暗になった。

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