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幻想博物誌  作者: 邨野節枯
ミニュ ―森の上の森の中―
15/18

長老

 巨木の内に木霊する、低くくぐもったざわめきが、ほんの束の間大きくなると、俄に静まった。人々の目線は、私達の上に注がれている。

 静寂が耳朶を打つ。何事かと私も共に上を見上げるが、特に何か目立った変化は見られない。遥か上からは相変わらず、僅かではあるが光が射し込んでいる。

 すると人々に少し動きがあり、左から右へと綱を張りながら、一人の人物が私達の前を横切って行った。私達の枝へと続く入口に沿って、回廊が窪んでいるのだが、丁度そこに張り渡される格好になっている。

 何をしているのだろうかと、私は視線を綱を張る人々に注いでいた。すると彼等がまたもや上を見上げ、何か言葉を発したのだが、次の瞬間、応えは上から降ってきた。


 声に釣られて再び見上げると、今度は上から大きな袋が壁際に沿って降りてくるのが見えた。良く見れば、その袋からは足が突き出しているのが見える。まさかとは思ったが、どうやら中に人が入っているらしい。

 私達がいるこの回廊まで、下からは随分な高さを登ってきている。もし落ちれば、下には私の落ちた池があるので、死ぬ事は無いのかも知れないが、私ならば生きた心地はしないだろう。


 袋が、枝の窪みの中程まで降りてくると、中にいる人物の姿が袋の口から見えた。予想通り彼がミニュの長らしく、その顔貌は古老と言った印象だ。


 すると降りながら突如、「良い枝をお持ちの皆様、私達が中に入る事をお許し願えますか」と、彼は言った。まさか分かる言葉を流暢に掛けられるとは、全く思って居なかったので、私は驚いたのだが、横にいる隊長は何の違和感も無いかの様だ。「ミニュの枝はミニュのものです。どうぞ喜んで」と返答していた。


 考えて見れば、人の行き来が始まったのはそれ程昔の事では無いとは言え、人が何かを遣り取りしている以上、多少は言葉も互いに理解する様になるのは自然だ。挨拶位は出来ても不思議は無い。大体、人々が私達を出迎えに来た時も、同じく何事か適当に遣り取りをしていたではないか。


 私がその様な事を考えている間にも、ミニュの長は下へ下へと降って行き、袋が概ね回廊の高さより少し下まで下がった所で、綱を張り渡した人々から声が上がった。恐らく、高さはもう良いという事を、上で吊り下げる人々に向かって伝えたのだろう。

 そして、手慣れた様子で綱を器用に袋に引っ掛けて、私達の方まで歩いてきた。そのまま引き寄せるつもりらしい……と思って居たら、手渡された。引けという事で有るのは間違いない。


 私達が数人で、階段の方まで上がりながら綱を引けば、長老は思いの外簡単に回廊の上まで辿り着き、私達が引く綱に手を掛けて体を支えつつ、袋から外へと出て来た。

 古老という容貌ではあっても、矍鑠としている。人々の中から十三歳程だろうか、一人の娘が出て来て脇に付き、そのまま二人で上がって来たので、私達は彼等を伴い奥の部屋まで行く事にした。

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