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幻想博物誌  作者: 邨野節枯
ミニュ ―森の上の森の中―
13/18

厠所

 用を足したいと思っても、その場ですぐには躊躇われた。当たり前だ。

 ミニュの人々が食事を調理し、皆で食べた、この広間の様な場所では、流石に無理である。周りに皆がいるのに、草木の陰に隠れるわけにもいかない。

 いや、巨木の中ではあるのだが、そういう事ではなく、衆人監視の状況ではとにかく無理だ。

 ただ、部屋の中には、便壺の様なものは無かったと思われるし、何処ですれば良いのか分からない。何時も頼りになる隊商の長に聞くと、彼は水場がある所とは反対側、一番外に近い所に枝の「外壁」から張り出している壁を指差し、「あそこです」と言う。

 私はその場まで、特に慌てる素振りを見せないよう、なるべく平然とした風で歩いて向かったのだが、辿り着いてから少しだけ狼狽えた。


 張り出している壁は、部屋の壁と同じ素材で白く、私の身長よりも高い為、中が見える様な事は無い。造りは、やはり部屋と似ており、半円形に近い。ただ在る場所が問題で、外壁から張り出した壁は曲線を描いて、「枝の洞窟」が途切れる所まで続いている。つまり、かつてその先まであったであろう、枝というには余りにも太いが、その枝が折れたと思われる場所までだ。

 その先には当然、何も無い。縁には申し訳程度に手摺の様なものはあるが、それを越えれば遥か高みから地面へ向けて、真っ逆さまに落ちることになる。


 壁に開けられた入口に、扉替わりの布が掛けられていだので、捲って中に入ると、すぐ右手には外の景色が広がっていた。

 ただ、枝の途切れる所に沿って、外と同じく腰の高さ程の壁と同じ素材で出来た手摺の様なものがあるので、落ちる心配はない筈だ、恐らくは……どの程度の強度を有するのか分からない以上、凭れ掛かる気にはならないが。

 また、奥の「外壁」に接して、水場の様に小さく囲われた所があり、中は水で満たされていた。その淵からは、やはり水場と同じ様に、囲いの上部の切り欠きから水が溢れ落ちており、それは下に設けられた溝を伝い途中で「外」に向かって曲がり、枝の途切れる所から遥か下へと向けて流れ落ちているらしい。

 初め、使い方が分からなかったので、一旦出て適当にそこら辺にいる商人達に声を掛けて尋ねたところ、「そのまま溝に用を足せば良い」と言う事だった。水が流れ続けている所にする訳だ。ただ、そうではないかと思いつつも、水場を汚す行為になってしまいそうで、確信が持てなかったのである。


 実際に使ってみると、この水の流れる溝の中に用を足すというのは、大変合理的で、臭いや掃除の手間と言った事とは無縁と感じた。普通に便壺等に用を足し、蓋をして置いておく様に、臭いや虫が気になる事も無ければ、外に運び出して道に撒いたりと言う手間も無い。本当に清潔なものだ。この様な方法があれば、私達の市中はずっと今より綺麗になる事だろうとは想う。ただし、豊富な水が有ればこそであり、普通の街では真似が出来ない。大体、重要な水場の傍に、用を足す場所を作るなどした日には、何が設置者に起るか知れたものではない。


 ふと、このミニュの他の枝の人々も、同じ様に用を足しているのだろうかと思いを馳せた。皆、家の外にこれと同じものを作り、用を足す。とても快適なものだろう。外から見えるのではないかと思うかも知れないが、腰の高さ程までは隠れている訳であるし、外から見ると言っても他の枝は充分遠くにあり、別に気になる事は無い。街中の家で、窓辺で隠れる様に便壺を使い、向かいの窓から見られるのではないかと気を揉むよりは余程気楽だ。

 ただそうなると、ミニュの人々は、ただただ高い所から撒き散らしている事になる。自分の家の真上に、他の家があったら、どうするのだろうか?思わず私は、自分の頭に何か降りかかりはしないかと上を見上げてしまった。まあ、直ぐに真上に他の枝がある様では無いので、別に問題ないのかも知らない。ただ、用を足す時には是非、私達が街中でする様に、今から下に落とすと声を掛けて欲しいものだ。


 普通の家では、どうなっているのか?その内、誰かの家を訪ねる機会でも巡って来たら、よく観察してみようと思う。


 終わった後は、薪に使うものより小さく細く裂かれた葉が、水に浸されていたので、恐らくそれで拭うなり、水を掛けて洗うなりしろと云う事なのだろう。ただ何本かしか置かれていないし、使い回すのか、それとも流れる様に掻く為に有るのか、良く分からない。

ともかく、すっきりした所で、私は隊商の長の部屋へと向かう事にした。

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