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序文
私は今、木の上にいる。いや、木の中という方が正しいだろうか。窓から見下ろせば、遥か下に森の樹冠がなだらかな山の裾野を這い上がるように広がっている。
いや、この光景を見た事のない者には、何を言っているのか分からないだろう。木の上なのか中なのか、森の中なのか上なのか。私自身、ここ「ミニュ」に辿り着いて二月程、この樹木の中の生活にも慣れ、少しずつではあるが日常のものとしてこの光景を受け容れつつあるのだから。
子供の頃誰しも一度位は、樹上に自分達だけの小屋でも作ってみたいと思うのではなかろうか。ただ、今私がいるのはそのような規模ではなく、一つの都市とも呼べるものが、ほぼその生活を完結する形で、森の中に、又森の上に存在する場所だ。
この地の生活を語るのに何から語るべきかとは悩ましい問題であるが、私自身の価値判断は最小限にし、淡々と見た事を順を追って記述するのが一番相応しいだろう。冬が終わり、春に再びここまで同伴してくれた隊商が訪れたら、私はこの体験記を託すつもりである。