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バードクエスト

バードクエスト(連載)

作者: oga

前回のあらすじ


鳥の写真にはまり始めた主人公 大谷鳥之

プロの撮影のテクニックに触れ、自分もいい写真を撮ろうと決意したのであった

そんなある日・・・


事件は休日の朝に訪れた

「どこへ行くの?」

妻の声が私を引き留めた

「あなた、最近一人でどこ行ってるのか知らないけど、私のことに無関心すぎやしない?」

妻に鳥のことは話していなかった 鳥にはまっているなんて言ったらなんて反応されるか

批判されるのがオチだと思い黙っていた

「公園に散歩だって」

「毎週毎週あきれるわ、せめて週末くらいどこかに連れてってくれてもいいでしょう 日曜しか休めないし、疲れてるのは分かるけど」

結婚する前はいろいろなところに連れ出していたが、結婚後は家にいてばかりになってしまった

そもそも自分からどこかに行こう、という自発的なタイプではないからだ

生活を一緒にすることで自分の本来の姿をさらす、それが世の普遍的事実であろう

要するに今までは偽りの自分を無理に演じていた、ということだ

「・・・どこに行きたいんだよ」

「前はあなたがいろいろ探してくれたじゃない。」

めんどくさいなあ。

「分かったよ、じゃあ上野動物園行くか?」

上野は今までデートで何回か行っているが、動物園、アメ横、4月になれば桜と、見るところは結構ある

「じゃ上野動物園ね、10時に出て向こうでご飯食べましょう、カメラも持ってかなきゃ」

意気揚々と準備を始めた

趣味を見つけ、浮かれていたのも束の間、現実に引き戻される思いがした


上野につき、動物園の方に向かった

最初はパンダのコーナーである ここは人だかりが多く、並ばなければならない

みんなスマホのカメラでパンダをとっていく

パンダにはあまり興味がなく、人だかりから離れたところで眺めていた

パンダはだらしなく仰向けで寝ている

どうやら本人にアイドルとしての自覚はないようだ

そのまま進んでいくとなんと鳥のコーナーがある

前回来たときは全然興味なかったが、今は是非みたいコーナーである

檻の中には鷹や鷲といった猛禽類が入っている

カメラを持ってくればよかった・・・

しかし、檻に収められた鳥は対象外だろう

高野にそれをみせたところで...だ

「鳥のコーナーはいいわね」

妻はそそくさと前を歩いて行った

メインディッシュが目の前を通りすぎていった


昼にフードコートでご飯を食べた

おにぎりセット650円

「次は夜の生物のコーナーね、コウモリとか、ちょっと面白そう」

「確かに、ただグロテスクなのが多いんじゃないか?」

「平気平気、私そういうのの耐性強いから。それより、来週もどこか遠出できたらいいなあ」

「えっ」

内心まじかよ、と思った 写真を撮るチャンスは週末しかないし、これ以上引き伸ばされたらモチベーションが下がってしまうかもしれない

「いいわね?」

「・・・分かった」

最悪だ


あっという間に日は過ぎていった

写真コンテストまであと2か月を切った、まだ満足に写真を撮れてない それどころか高野にすら課題の写真を送れていなかった

くそ・・・

またつまらない日々に戻るのか、私は焦燥にかられていた

写真を撮る時間を何とかねん出しなければならなかった

しかし、週末はダメだ

しばらくは妻の機嫌をとらなければならない

私には無理なのか、そういう思いがよぎり始めた

写真を撮るか、いっそやめてしまうか、どうするべきか悩んでいると、

追い打ちをかける出来事が起きた


私用の携帯のラインに、高野から連絡が入っていた

「ちょっと興味があることがあって、もしかしたら会社を辞めるかもしれない」

という文が書かれていた

すぐに連絡を返した

「もう少し具体的に教えてください、会社を辞めたらもう写真のレクチャーはしてくれないんですか?」

それから数時間後、返事が来た

「今、東京と大阪間を結ぶリニアモーターカーの着工に向けて、プロジェクトが進んでいるの でもそれは日本の南アルプスを直進するルートを通っていて、貴重な大自然を破壊する行為に他ならない もちろんそれは生態系の破壊につながるし、そこに住んでいる野鳥たちにも影響がある 絶滅危惧種に指定されているブッポウソウや、クマタカ、ミソゴイ、全部私の好きな野鳥たちよ 私は将来は野鳥に携わる仕事につきたいと思ってたから別に急なことではないの 前々から思っていたことを実現させるだけ このリニアモーターカーの建設計画の反対運動に参加するつもり 具体的には鳥に関する雑誌で記事を書いて、色んな人に関心を持ってもらったり、直接そういった団体の運動に参加したり それはこの仕事を続けながらは難しいと思っている 現場は建設が始まる長野県を中心に動くから、あなたにレクチャーはしてあげられなくなると思う。これで最後になるけど、鳥の写真の撮影はやめないでね」

私はそれを読んでしばらく考えた

高野がここまで野鳥愛を持っていたとは それが文面から感じとれたからだ

反対する理由はなかった

「応援してます もちろん野鳥の撮影は続けます!」

そう返事をした

ここまで鳥のことで本気になれるやつがいる

私は、こんなとこでつまずいてられるか、という思いのもと、ある決意をした


妻を無理やり説得したのである

野鳥のことも話した、どうしても撮りに行きたい

小一時間討論した結果、私はコンテストが終わるまで、写真の撮影の許可を手に入れた

当然、数日は口もきいてもらえなかったが…

週末は早朝飛び起きて、写真の撮影に向かった 夕方ギリギリまで撮影し、ヘロヘロになって帰ってきた

カモメを撮りに海辺の公園に行き、ヒタキを撮りに山へ行った

私の足は思いつくままいろいろなところに向かった

カメラも新しいものに変えた

そして、ようやくこれと思う一枚の写真を撮ることができた

枝の上にとまる、りりしいキビタキだ

先週、早朝から高尾山で撮った

うまく周りをボカシて、中央に堂々と映るキビタキを写すことができた

ピントもボケていない

コンテストで入賞できる作品とは思えないが、自分でよくこんな写真が撮れたな、と思う

この写真を撮るまでに、およそ2か月、私はレベルアップすることができたのだろうか


キビタキを高野に送信し、一応コンテストにも応募した

結果は予想通り落選

しかし、大賞を見て驚いた

「旅立ちの鷹」

羽を大きく広げ、今から飛び立とうという鷹である 旅立ちを連想させる、感動的な作品だ

作者は匿名だが、誰かはすぐに分かった

自分の旅立ちと、鷹の旅立ちをかけたのだ

しかも名前まで似ているという

やっぱりやるな、あいつ

そのあと、高野は会社を去った


ブルーの小鳥が横切った

まだ胸は高なっている


終わり










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