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反撃の狼煙

エタりかけた。

 エイヴァンとの戦いから二日後、気を失っていた幸樹はようやく目を覚ました。

 彼が覚えているのはガルグドラゴンの攻撃を受け死にかけた事だけ。そのため、幸樹はなぜこのような状況に陥っているのかまったく分からなかった。


「すげえよ天田!どうやってアイツを倒したんだ!?」

「すごい速さで空を飛んだって本当!?」

「味方を巻き込まないよう敵を誘導したんだって?」

「即興の連携で敵を翻弄したとか、俺じゃ絶対出来ないよ」

「何かすごい魔法を使ったって聞いたけど?」

「いや、俺は剣で真っ二つにしたって聞いたぞ」


 すれ違う人達から次々と出てくる賞賛の言葉に困惑する幸樹。

 幸樹はエイヴァンにビビッて手も足も出せず、最終的にはガルグドラゴンにやられてしまった。それが真実である。

 身に覚えのない幸樹は内心戸惑っていたが、それも最初だけ。自分に不利益なことはとことん拒否する幸樹だが、こういったことに関しての受け入れは掌を返すよりも早い。

 幸樹はすぐさまこの状況に慣れた。


(オラオラ、英雄様のお通りだぁ!有象無象共は道を開けろぉ!俺を誰だと思ってんだぁ?)


 外面はいつもどおり、内面の増長は普段の三倍増しである。

 ただ逃げ回っていただけで最高の英雄扱い。

 よく分からないけど皆が褒め称えるならそれに乗っかるに越したことはない。

 今の状況は幸樹が最も好きな『最低の労力で最高の報酬を得る』に見事合致していた。


「ありがとうアマダ。君のおかげで我々は勝利できた」

「い、いやぁ。そんなことないですよぉ」

(おうおう。分かってんじゃねえか。俺に会えた奇跡に感謝しとけよぉ?)


 騎士団長のアレックスにさえこの態度である。幸樹の増長は留まる所を知らない。

 そんな幸樹の下に王の使いがやって来た。曰く、王が褒美を与えるとのことだそうだ。


(ったく、しゃーねーな。つまらん物だったら承知しねーぞ?)


 上から目線の幸樹は王の使いの後に続いた。

 この時、幸樹は気付いていなかった。

 予告もなしに行われる授与式、勇者一同ではなく幸樹単体への褒美。

 この時点で何か怪しいと感じ取ることは可能のはずである。

 だが、今の幸樹は増長しきっている状態だ。自分だけ特別待遇は当たり前、褒美がもらえて当たり前。自分だけが別格。

 天高くまで伸びた自尊心は思考を鈍らせ、王からの褒美は理解を遅らせる。

 幸樹の頭の中は欲でパンクしそうになっていた。

 故に幸樹は気付かない。自分が今歩いているのは栄光の道ではなく茨の道であることに。


「勇者よ。よくぞ来られた」


 謁見の間についた幸樹は王の前で膝をつき頭を下げた。

 王は最初に感謝の言葉を述べた。魔族軍の撃退は勇者なくしては実現できなかった。そう言って頭を下げた。

 幸樹は心の中で見下しながら王の声に耳を傾けた。


「して、今回の戦に対する報酬だが……」

(来たッ!)


 幸樹のテンションは最高潮に達した。

 王の糞長い無駄な言葉を聞き続けた甲斐があった、と幸樹は口の両端を吊り上げた。

 だが、幸樹のテンションは一気に下がった。

 王は勇者一同及び騎士団に勲章を与えるだけで、それ以外の報酬はないというのだ。

 戦いの戦果に応じて勲章を与えるというのはこの世界においてごく一般的なことなのだが、異世界からやって来た勇者である幸樹はそれを理解できない。

 当然幸樹は不満を抱いた。今の質の悪い待遇を改善しろ!そう叫びたい幸樹だが、周囲の偉い方々から湧き上がる歓声と拍手と雰囲気がそれをさせてくれいない。

 周囲にあわせ流される。それが天田幸樹という男である。


「さて、前座はここまでとして、そろそろ本題に入ろう」

(……?)


 まだ何かある。幸樹の中で消えかかっていた期待が僅かに膨らんだ。

 王は現状を話した。撤退した魔族軍は現在、元々人間軍が使っていた『アータム砦』にいる。

 主であるエイヴァンを失ったガルグドラゴンは空の彼方へ消え行方不明。

魔族軍の前線を率いていたエイヴァンと、『英雄殺し』の龍であるガルグドラゴンの不在。

 それは、今の人間軍にとって絶好のチャンスだ。


「我々は魔族軍の前線補給地点であるアータム砦を奪還したいと考えている」


 まさか。幸樹の中で疑念が一気に膨れ上がる。

 そして、その疑念は直ぐに確信へと変わった。

 王は続けざまに魔族と戦争をしようというのだ。


「まだ戦いに不慣れなおぬしらに無理を言って申し訳ないと思う。だが、ここで補給ラインを断たねばいつまで経っても状況は好転しない」


 今回の戦いで少なからず敵に情報が渡った。いずれ勇者の対策もされるだろう。そうなるまえに今の現状を打破したい。王はそう考えいてた。


「今までは先手を取られ続けてきた。今度は我らが先手を取る番だ。単純な力比べなら遠く及ばないが、知恵比べなら負けん!」


 勇者の召喚によって魔族と同等に戦える力を手に入れた。もう二度と遅れは取らない。王は高々と、魔族軍への反撃を宣言した。

 それを聞いていた幸樹は、一人ネガティブな思考に走る。周囲が熱く燃え上がる中、幸樹だけが冷や水のように冷めた心をしていた。


(糞が……こんな茶番を見せるためだけに俺を呼んだのか?俺は勇者だぞ?俺こそが主役だろ。なのにこんな……はぁ。もう止めだ。てめえらに力貸すの止めるわ。後はてめえらで勝手にやってろ)


 この場から一刻も早く立ち去りたい気分になる幸樹。

 だが、まだ終わりではない。王の言葉にはまだ続きがある。その続きこそ、今日幸樹がこの場に呼ばれた理由に他ならない。


「そこでだ。勇者コウキよ。お主に一つ頼みがある」

「……ぁえ?」


 王の言葉を聞いた幸樹は、しばらくその場を動けなかった。

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