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勘違いブースター 三号

やる気を出すんだ!


追記・・・江角の苗字が一部江崎になっていたので修正。

 二年一組一同が異世界に降り立ってから約二ヶ月。

 勇者として日々訓練に励む彼らは、着々と力を付けていた。


「すげえよ江角のやつ!二連続だぜ!?二階連続で騎士団長のアレックスさんに勝っちまったんだぜ!?」


 食堂で興奮気味に叫ぶのは自称幸樹の相棒である哲。

 数時間前、訓練場で繰り広げられた映画のような激闘。それを目の当たりにした哲の興奮は未だ収まらない。


「へぇ」


 少し俯きながら平坦な返事を返す幸樹。

 自分の関係ないところで何がどう起ころうがまったく興味を持たない彼は、目の前でぎゃあぎゃあとわめき散らす哲を心の中で蔑んでいた。


(うっぜぇ……。んな親しい仲じゃなかっただろうが。馴れ馴れしい)


 適当に相槌を打ちながら食事を続けること数分、己の語りに満足したのか哲は幸樹の元から去っていった。

 元々人ごみを好きではない幸樹は、食事の時間をずらして食べることが多かった。

 そんな幸樹をわざわざ待って語りを聞かせるとは、哲はどうしても自分の思いを幸樹に聞いて欲しかったようだ。


「はぁ……」


 ようやく静かになり、幸樹は小さなため息をついた。

 ここ最近、哲のストーカーじみた絡みに幸樹はうんざりしていた。

 特に親しいわけでもなかった哲が、異世界に来てから急に馴れ馴れしく接してくる。

 元々人付き合いの苦手な幸樹にとって、哲の行動はあまりにも君の悪いものだった。

 主人公の相棒になると決めた哲は幸樹に取り入ろうと必死にアピールしているのだが、もちろんそれを幸樹が知るわけがない。

 やっと落ち着ける、と一人安堵する幸樹。だが、安堵するにはまだ早い。

 いつもは哲が話しかけてきて終わりだったが、今日に限っては違った。

 人がまばらに残る食堂。その一角に、幸樹と哲の二人を監視する者がいたのだ。


「ちょっといい?」

「ぇ?」


 虚を突かれたせいか、幸樹は体を強張らせた。

 幸樹は声のしたほうへと顔を向ける。視線の先には一人の男がいた。

 男の名前は『江角良えすみりょう』。幸樹と同じ二年一組に在学していた勇者の一人だ。

 そして、謁見の間で幸樹の言葉を聞いていた異世界ヘッズの一人でもある。

 良は幸樹の対面に座った。


「ぁぇ……な、何か……用事、あったり……?」

「ああ。もうだいぶ時間経ったし、そろそろいいんじゃないかなーっと思って」

(何がいいんだよよくねぇよ糞が!)


 良の意味深な発言に心の中で憤慨する幸樹。

 現代日本においても、異世界に召喚されてからも、幸樹が良と接点を持ったことなど一度もない。

 そんな相手からいきなり「そろそろいい」などと言われてもまったく意味が分からない。


「もういくつか知ってると思ったんだけど」


 良の言葉を聞いた幸樹は少し考えた後、すぐに納得した。

 先ほどの哲との会話でも出てきた。江角というクラスメイトが騎士団長に二階連続で勝利したと。

 つまり、良は幸樹に対し世辞や賛美を求めている。幸樹はそう判断したのだ。


「ぁ……えっと……に、二階連続で……」

「あぁ、やっぱ知ってたか」

(何が知ってたか、だよ糞が!わざとらしい反応しやがって!)


 幸樹は良の反応に更なる怒りを覚えた。自分から賛辞の言葉を催促する。そういったナルシスト染みた行為は、幸樹が一番嫌悪することだった。

 だが、良は別に自分の勇姿を褒め称えて欲しいわけじゃなかった。

 江角良は俗に言う『ゲーマー』であり、暇があればどこでもゲームをするゲーム廃人だった。

 そんな彼が最も熱を入れていたのがバグ探し。所謂『デバック』と呼ばれる行為だった。

 ゲーム内のいたるところに散らばる不備を見つけだし、それを応用し規格外の結果をはじき出す。

 良は宝探しという名のデバッグに日々精を出していた。

 そんな良が、ゲームのようなシステムが当たり前となっている異世界に召喚された。

 良が以前から愛読していた異世界召喚物の小説でもたびたび登場した場面。

 魔法やスキルなどの運用方法に疑問を持ち、その疑問を解消していくうちに異世界の住人が考えもつかなかった魔法を使えるようになる。

 まさか、それを実際に自分で出来る日が来ようとは夢にも思わなかった。

 テンション上がりっぱなしの良は徹夜で魔法の研究に励んだ。

 そして、ついに良は見つけた。訓練では教えられなかった魔法運用法を。

 魔法の連続発動を目的としていた研究の最中で見つけた技術。良はそれを『ダブルアクセル』と名づけた。

 頭の中で同じ呪文を瞬時に二度唱えることで、一つの魔法に魔法二つ分の威力を持たせることが出来るというものだった。

 幸樹の「二回連続」という言葉を聞きいた良は喜んだ。さすがは同士、目の付け所は同じだったか、と。

 良の頭の中では「幸樹=主人公=自分と同じ魔法の探求者」という構図が勝手に出来上がっていたのだ。


「なら話は早い。この後時間ある?話がしたいんだけど」

「え、あ、ごめん。この後用事あるから」

(テメェに割く時間なんて一秒もねぇよナルシスト!)


 こういった手合いの自慢話は中身がない上に長い。

 良が自慢話を聞かせる気だと判断した幸樹はすぐさま対応した。


「そっか。まあいいや。それじゃあまた今度時間があるときにでも」

「ぅえ!?お、あ……うん。また今度」


 良としては今すぐにでもお互いのバグ技の情報を共有したいところだったが、時間が取れないのであれば仕方がない。

 機会はいくらでもあると自分に言いつけ、良はその場から去っていった。

 幸樹は良の背中を眺めながら、一人心の中で怒りを撒き散らしていた。


(糞が!自慢話なら一人で勝手にしてろ!他人を巻き込むな!クソッ、どいつもこいつも自分の事ばかり……自分勝手な奴は一人残らず野垂れ死ね!)


 幸樹は盛大なブーメランを投げながら、一人食堂を後にした。

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