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エルフの国の戦い・表2

話しを分けて書くのは失敗かもしれない。

表と裏の落差をつけようと無駄に文章を長くしてしまう。

 早朝、エルフ領を跨いだ魔族軍は眼前に迫る巨大な森へと進軍していた。


「なぁーにが油断するなだ!年中森に引き籠ってる軟弱共が、俺らに勝てる訳ねえだろうが」


 そう言って地面に唾を吐き捨てる魔族の男。男の名前は『タイテス』。魔族四天王の一人だ。

 エイヴァンと同等の力を持っているが、知性に欠ける行動が目立つため、前線から外され僻地の侵略へと回されていた。

 だが、前線を指揮していたエイヴァンは勇者によって倒された。

 タイテスはすぐさま名乗りを上げた。前線の荒くれ者共をまとめ上げ、混乱している指揮系統を立て直すことができるのは自分以外他にいないと声高々に宣言した。

 タイテスの言い分は事実だった。前線部隊では、指揮者の実力がそのまま兵士の信頼に直結する。

 現代日本風に例えるなら、不良の番町と舎弟の関係だ。

 自分が認めた相手には服従するが、認めた相手以外に対しては風当りがかなりきつくなる。

 魔族四天王の肩書を持たない一介の魔族を指揮者に任命しても、前線の荒くれ共が納得しないのは目に見えていた。

 残る二人の四天王は魔族領の危険生物の駆除や内政で手が離せない。

 結果として、タイテスは難なく前線部隊指揮官の座に収まることとなった。


かしら、作戦はどうするんです?」

「あぁ?んなもん適当でいいだろ。男は皆殺しで女はる。以上だ」


 一部隊の指揮官にあるまじき態度。

 正常な思考をできる者がいればすぐさま反論の声が上がっただろう。

 だが残念なことに、この前線部隊に賢い者は一人もいなかった。


「へへっ。新しい頭は気前がいいや」

「エルフは粒ぞろいらしいからな。やべぇ、始まる前から興奮がおさまらねぇよ」

「俺平坦な胸が好きなんだが」

「馬鹿だなお前ら。まずは調教だろ?反抗できないよう自尊心を根元からぽっきりとだな……」

「……男も少し残してほしいぜ」


 この惨状、よく訓練された読者の方々はもうお分かりだろう。

 この軍は今から数時間後に壊滅することになる。








 一夜が明け、寝巻きからの着替えを終えたアキナは自室にある水晶玉の前に立っていた。


「はてさて。一体どのような惨たらしい死に様を晒しているやら」


 何故作られたのかすら未だに解明できていない謎のダンジョン。これまで多くのエルフを葬ってきた難攻不落の地下迷宮。

 昨日、そこへ向かったのは娘の婚約者候補。人間という、エルフよりも遙かに格下の存在。

 エルフに出来ないことが人間に出来るはずが無い。まず間違いなく死んでいるだろう。

 アキナは愉悦の笑みを浮かべていた。


「さぁさぁ、一体どこにいる?」


 アキナは『サーチャー』と呼ばれる遠方を見通す魔法を使い、『大樹たいじゅの迷い道』内部を隅から隅まで見て回った。

 一階、罠が作動した形跡あり。だが、ここでは仕留められなかったようだ。

 二階、罠が作動した形跡あり。血痕がある。だが、死体は確認できない。


「ほぉ。人間にしては中々楽しませてくれるではないか」


 もはや気分は宝探し。上機嫌なアキナはサーチャーで更に奥の階層をのぞき見た。

 三階、罠が作動した形跡なし。四階、罠が作動した形跡なし。五階、罠が作動した形跡なし。六階、罠が作動した形跡なし。


(……なんだ?)


 僅かに違和感を覚えながらも、アキナは更に奥の階層をのぞき見る。

 ついにサーチャーの限界距離に到達した。幸樹の姿はやはり見当たらない。

 アキナの顔に焦りが浮かんだ。

 普通より少し優れた程度の人間が、しかも年端もいかない子供が、多くのエルフを葬ってき『大樹たいじゅの迷い道』を制覇する。

 そんな事が果たしてありえるのか。


「ありえん……ありえんぞ!」


 アキナは自分に言い聞かせるように叫んだ。

 目の前の現実を否定すべく再度捜索を始めるが、やはり幸樹の姿は見当たらない。

 だが、アキナは気付いた。自分の抱いていた違和感の正体に。


「……フ、フフフ。フハハハハ!そうかそうか。そういうことか」


 突然笑い声をあげるアキナ。現状を確認し情報を整理した結果、彼女がはじき出した答えはなんともエルフらしいものだった。


「逃げ足だけは一人前というわけか。さすがは勇者様、だな」


 二階以降のトラップは全て作動していない。それはつまり、二階以降の階層に下りていないという事。

 エルフを葬る高度なトラップに腰を抜かした結果、 臆病風に吹かれて逃げだしたのだろう。

 納得のいく答えを見つけたアキナは、目じりの笑い涙を拭った。


「まあ、これでサリアもおとなしくなるだろう」


 今回の件は幸いにも身内だけにしか漏れていない。アキナの一声で封殺は可能だ。

 安堵の溜息をこぼしたアキナは、水晶玉から離れ政務をしようと部屋を出た。

 そこへ丁度、息を切らせたエルフの男が現れた。急を要するのか、男は息を切らしていた。


「ご、ご報告いたします!ま、魔族、魔族軍が我らの領土に、し、進軍とのことです!」

「……一難去ってまた一難か。各親衛隊長を招集せよ」

「既に招集済みであります!至急、玉座へ」

「わかった」


 魔族とエルフ。この二つの種族の間には浅からぬ因縁がある。

 過去に何もできなかった自分を思い出し、アキナは両手を強く握りしめた。


(見ていてくだされラユウ様。あなたが命を賭して守ったこの森を、奴らの好きにはさせませぬ)







 魔族群の戦力はエルフ軍を上回ってた。真正面から戦っても敗北は濃厚。

 そこで考え出されたのが、森の前で魔族軍を待ち受けるという作戦だった。

 森が作り出す大自然の魔力と森の守護獣の力を借り、魔族との戦力差を埋める算段だ。


「あ、あの、本当に俺達戦わなくても……」

「人間風情が気安く声を掛けるな」


 哲が言葉を言い切る前に、アキナは被せてきた。

 一応哲と沙耶もエルフ軍の最後尾にいるのだが、彼らが呼ばれた理由は戦の助力ではない。

 アキナは見せつけるために呼んだのだ。種族として人間より遥かに優れたエルフという存在を、思い上がった人間に知らしめるために。


「貴様らは黙ってそこに立っていろ」


 数歩前に出たアキナは森のほうを向き、目を閉じた。自らの思いを魔力に乗せ、森全土に響かせる。

 森は答えた。ざわざわと木々を揺らし、森の奥底に眠る神秘の存在へと呼びかける。

 森の奥から光があふれた。光は森の出口へと向かい、アキナの前まで伸びてくる。

 森の出口に近づくにつれ、あやふやだった輪郭がはっきりと形になっていった。

 頭から一本角を生やした白馬が、悠然と空を闊歩する。

 神秘的な光景に哲も沙耶も目を奪われていた。


「お久しぶりです。ユニコーン様」

【ええ。私が呼んだということは、この森に危機が迫っているということですね】


 森の守護獣『ユニコーン』。森と共に生まれ、森と共に死ぬと言われている生き物だ。

 ユニコーンは森に生きるエルフ族と友好的な関係にある。

 実体を持たないユニコーンに変わってエルフが森を保つ役割を担う。

 変わりに、エルフに危機が訪れた際はユニコーンが大自然の魔力を用いて手助けをするのだ。


「憎き魔族共が再び森を汚そうとしております。どうかご助力を」

【わかりました】


 ユニコーンが頭の角を天に掲げた。

 エルフ軍全体に光の雨が降り注ぐ。魔力の譲渡が行われたのだ。

 大自然の化身であるユニコーンが生み出す膨大な魔力。その量は一個体の生み出す量とは比べ物にならない。

 エルフ軍全体がユニコーンの魔力で満たされた。


「見たか。これが我らエルフにのみ扱うことを許された神聖なる力だ。貴様らがどれだけ努力しようが未来永劫手に入らぬ。まさに選ばれし者のみが扱える力!」


 哲と沙耶に向かい高々と告げるアキナ。彼女はエルフという種族の有能さを披露し悦に浸っていた。

 近くにいたエルフ達もそうだ。言葉にはしないが、視線や態度でアキナの言葉を肯定している。


「へっ。選ばれし者っつーならこっちにもいるぜ。もうすぐ驚くことになるから覚悟しとけよ」


 アキナの態度に腹を立てた哲は思わず口走る。

 哲の言う選ばれし者とは、もちろん幸樹の事だ。異世界召喚最強物における主人公は常に最強で世界の中心。

 今回もまた、幸樹は自分の想像を超える偉業を成し遂げるに違いない。

 哲は幸樹を信じていた。


「果たしてそうか?もしかすると、お前の言う選ばれし者はもうここにはおらぬやもしれぬぞ?」


 聡明なアキナは哲の声色から全てを察した。

 哲の信じている希望。それはサリアの婚約者候補、幸樹だ。

 その答えにたどり着くと同時に、アキナは今朝の光景を思い出し嘲笑わらう。人間はやはり愚かだ。

 アキナの意味深な笑みに反応した哲が吼えた。


「見下してんじゃねえ!借り物の力のくせに偉そうにしやがって!アイツはテメェなんかよりもずっとつええんだ!」

「ほう。興味があるな。お前の信じる男は、我らエルフにも勝る存在だと言うか?」

「ああ、そうさ!」

「ふむ、そうか」


 哲の態度を見たアキナは一度思考を巡らせ、そして閃いた。

 常人では考えられない、考えたとしても実行できない所業。

 それをアキナは躊躇いなく言い放った。


「ならば証明して見せよ。その男が本当に我らより優れた存在かどうか」

「ッ!?そ、それは……」

「なあに。今すぐにとは言わん。お前も自分で言っただろう?その選ばれし者はもうすぐここに来ると。ならば、それまでお前が時間稼ぎをすればいい」

「はぁ!?」

「お、お母様?先ほどから何を言って……」


 アキナの考えを理解できないサリアは困惑していた。

 時間稼ぎとはつまり、魔族と戦い侵攻を遅らせること。

 だが、アキナが人間と共闘するなどあり得ない。それはサリアもよく知っている。

 つまりだ。アキナの言葉を要約すると「お前が魔族軍と戦え」。こう言っている事になる。

 ユニコーンの魔力を譲渡された今、エルフ軍の戦力でも十分戦えるはずである。

 わざわざ哲に戦わせる意味があるのか。


「どうした?あれだけ大口を叩いておいて、よもや逃げるとは言うまい?」


 意味など無い。

 アキナは理解していた。哲が自分の言葉に腹を立て、思わず反論を口走ってしまった事を。それを見抜いた上での煽りだった。

 今やり取りも、人間の愚かさを周囲により知らしめるための見世物に過ぎない。


「さて、どうする?」


 アキナは次の展開を予想する。

 ここで引き下がった場合、己の程度の低さが露呈し恥をかくことになるだろう。


「……いいぜ。やってやろうじゃねえか」


 そして、本当にやると言い出した場合。

 その時は本人の意見を尊重しよう。

 一国の王として寛大な心を持ってこれまでの暴言を許し、戦の前座としてエルフの戦士達を楽しませる道化となる事を許可しよう。


「そうかそうか。ならば行くがよい。我ら由緒正しきエルフの戦士達が、お前のために花道を作ってやろう」


 おかしい。他種族の干渉を嫌う母が自ら道を譲るなんて。

 アキナの異常にようやく気付いたサリアは行動に出た。

 だが、行動をするにはいささか遅かった。


「お母様!?いくらなんでもそれはあんまりです!あなたも意地にならないで!あの軍勢にたった一人で突撃すればタダでは済みませんよ!?」

「止めないでくれ。ここまで言われて引き下がるのは無理だ」

「そうだぞサリアよ。戦士の門出を邪魔するのは無粋と言うものだ」


 ばさっと開いた扇子の裏で卑しい笑みを浮かべるアキナ。

 遠距離会話の魔法『念話』を使い事情は説明された。部隊は左右へと分かれた。


「さあ、見せてみよ。お前の信じるモノとやらをな」


 エルフ軍対魔族軍。決戦の火蓋は一人の人間の手によって切られた。

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