砦攻略作戦3
エタりそうになったのでとりあえず更新。
幸樹サイドとその他サイドで話を別々に書いたほうがいいのかも。
9月21日追記・・・短かったので文章を追加。
最初に異変を感じ取ったのは良だった。
バグ魔法『索敵マップ』に映る四つの反応。そのうちの一つがまったくと言っていいほど敵を倒していなかった。
動かない反応には『コウキ』とタグ付けされている。つまり天田幸樹だ。
良は幸樹の行動の意図を読めずにいた。幸樹はさっきから大量の敵を引き連れて砦内をグルグルと駆け回っているだけだ。
何か非常事態が発生したのかもしれない。気になった良は近くにあった小さなバルコニーから身を乗り出し、そして飛んだ。
エイヴァンが見せた飛行魔法。良はそれを一晩で習得していたのだ。
(……三階か)
幸樹の現在位置は砦の最上階。
良は幸樹の位置を正確に把握し、幸樹に並行する形で空を駆けた。
バルコニーが眼前に迫る。良は中の様子を見逃すまいと目を凝らす。
次の瞬間、良は信じられないものを見た。幸樹は一人の女性を抱えていたのだ。
『索敵マップ』を確認するが反応はやはり幸樹のものだけで女性の反応は無い。
(何で……?何で映らないんだ?)
実は良の使うバグ魔法『索敵マップ』には致命的な欠陥があった。
『索敵マップ』は生物の体から僅かに漏れ出す魔力を検知する魔法である。
だが、女性の首には魔法を使用できなくする『魔封じの首輪』がついていた。
魔封じの首輪によって体外への魔力の放出が抑えられた女性は、『索敵マップ』に映ることは無い。
良がその事実に気付くのはもう少し後だ。
「ッ!」
瞬間、幸樹と目が合った。
意図は分からない。だが、幸樹は何かを伝えようとしていた。良は一秒にも満たない短い時間の中で、はっきりとそれを感じ取った。
良が答えを出す間もなく、幸樹は再び砦の中へと姿を消す。
(……そうか、彼は気付いていたのか。マップに映っていない女性の存在に)
幸樹は敵を倒さないのではない。倒せなかった。
そして、幸樹が現在向かっているのはアータム砦の最北端。
魔族軍の襲撃を受けた際、エイヴァンの魔法によって開けられた大穴がある地点だ。
それらが何を意味するのか。良の異世界脳はすぐさま答えを導き出した。
「皆、信じてる」
良は作戦決行前に幸樹が言った言葉を思い出す。
信じる。口にするのは簡単だがそれを実行に移すのは意外と難しい。
人間は内と外で異なる姿を持っているのだ。普段仲がよくても、本人がいないところでは悪口を言いふらす。そういった光景は現代日本でもよく見られる。
しかし、幸樹は違う。もう横道はどこにも無い。先にあるのは行き止まり。それでも彼は足を止めない。
(本気で信じてるんだ……)
良は高揚感を覚えた。
目と目が合った僅かな時間。そこで託された。
この先の命運を主人公から託されたのだ。
「なら、しっかり期待に答えないとね!」
速度を上げた良は大穴の前に先回りした。
大穴の中には多くの敵を引き連れた幸樹と、幸樹に抱えられた女性の姿が見える。
良は周囲を警戒しながらその時を待つ。敵が躊躇して立ち止まる中、一人大穴へ向かって全力疾走する幸樹。
「うおおおおおお!」
雄叫びと共に、幸樹は跳んだ。
前かがみで、丁度女性を差し出すような形だ。良は幸樹の腕から離れた女性を受け止めた。
「あとは任せろ!思いっきり暴れてやれ!」
枷が無くなった今、幸樹は実力を十分に発揮できるはず。
幸樹へエールを送った良は、戦場と化した草原を飛び越え本陣へと向かった。
一方その頃、アータム砦の中庭では哲が三体の敵と戦いを繰り広げていた。
敵の実力はそこまで高くは無い。哲ならば一太刀で切り伏せる事が出来る相手だ。
しかし、哲は苦戦を強いられていた。原因は魔族の兵士の装備にあった。
その装備は人間が魔族に対抗するために工夫を凝らした物で、元はアータム砦にいた人間の兵士達が使っていたものだった。
「このっ!」
「無駄だ!」
哲の剣を敵の盾がはじく。この盾には触れた物を強制的に弾く呪文が刻まれている。
「シネ!」
「うおっ!?」
一人の敵が哲を背後から切りつける。哲は間一髪のところで回避した。
この敵は風の魔法が刻まれた靴を装備していた。その移動速度は勇者である哲に匹敵する。
「食らいなァ!」
「熱っ!」
哲の回避地点を狙った敵が、剣から炎の弾を飛ばす。哲は炎の弾を剣で弾いた。
属性剣は魔力を込めることで柄に刻まれた呪文を発動させることが出来る。この敵が持っているのは炎の属性剣だ。
「ヒヒヒッ」
「さすがの勇者でも俺達には勝てねえみてぇだな」
「いい加減諦めるんだな」
これらの装備は魔族と人間の身体能力の差を埋めるべく創り上げられた代物である。
どれも性能は厄介だが、使い手が間抜けなのが幸いだ。それらを全部一人で装備するのではなく、一人一つずつ装備しているのだから。
「へっ。生憎、こんな所で死ぬわけにゃいかねえんだ」
哲の頭に浮かぶのは一人の男の姿。自分が手も足も出せなかった相手を倒した主人公の少年。
「俺はアイツの隣に並ぶって決めたんだ。だから、こんなところでもたもたしてる暇はねえんだよ!」
「なに訳の分かんねぇ事言ってやがる。さっさと死ね!」
風の靴を装備した敵が哲に迫る。哲も答えるように前へと出た。
敵が剣を振り上げた。それを見計らい、哲は懐から小袋を取り出す。小瓶の中身は粉末状の解毒薬だ。
哲は左手に持った小袋を敵の顔面へと投げた。粉末が顔面に直撃し、敵は思わず目を瞑った。
すかさず敵の懐へともぐりこんだ哲は剣を両手で持ち、無防備な敵の腹に突き刺した。
「うぎゃああああーっ!?」
敵は突然の痛みに叫び声を上げる。
哲はそれを無視し、敵を突き刺したまま剣をわずかに持ち上げた。敵の足は地面から離れた。
「うおおおおおおおお!!」
哲はそのまま走り出す。その先にいるのは盾を持った敵だ。
「く、くるな!」
敵が盾をがっしりと構えたのを見計らい、哲は剣を手放した。
哲に刺された敵は盾にぶつかり弾かれる。その隙に哲は盾を構える敵の背面に回りこみ、腰に差してあったナイフで首をかききった。
「てめぇ!」
属性剣を持つ敵は炎の弾を飛ばす。哲は奪い取った盾を構え突っ込んだ。
炎の弾は盾に弾かれる。距離をとろうとしたのか、属性剣を持つ敵は哲に背を向け走り出した。
たかが一介の兵士と勇者ではステータスに差がありすぎる。敵はすぐに追いつかれ、背中から盾の突進を食らった。
盾にはじかれた際、敵は属性剣を手放す。哲はそれを見逃さなかった。
すかさず属性剣を拾った哲は敵に迫る。
「ま、待て!分かった、あやまる!俺が悪かった!だ、だから……」
「知るか!」
哲は属性剣を振り下ろした。
しばらくして、敵三人が動かないことを確認した哲はほっとため息をついた。
しかし、喜びも束の間。突如として大きな敵の反応が『共有マップ』に映った。
思わず空を見上げた哲。視線の先には見覚えのある巨体があった。
ガルグドラゴンだ。
「ま、マジかよ……」
上空を通り過ぎるガルグドラゴンを呆然と眺めた後、哲は『共有マップ』でガルグドラゴンの着地地点を確認した。
哲は驚愕した。ガルグドラゴンが着地した地点には、幸樹の反応があったのだ。
「ハ、ハハハ。まあなんつーか……さすが主人公ってか?」
乾いた笑いをこぼした後、哲は敵から装備を奪い取った。
あいつが戦っているのなら、俺も戦わないわけにはいかない。
哲は強敵と戦っているであろう主人公の下へと向かった。
「人間がいたぞー!」
「死に晒せ!!」
「コロス!」
「邪魔だあああああ!!」
哲の行く手を多くの敵兵が遮った。それらの相手をしながら、哲は先へと進む。
「ガアアアアアアア!!!」
「なんだ!?」
哲の耳に轟音が届いた。同時に『共有マップ』に映る敵の影が次々と消えていく。
幸樹の安否を心配する哲だったが、どうやら幸樹は無事らしく反応が残ったままだ。
幸樹の反応が残っていたことに安堵しつつ、哲は目の前の敵をなぎ払った。
「ハァ……ハァ……」
敵を殲滅した哲はようやく目的地へと到着した。
辺り一帯は火の海と化していた。敵の兵士は一人残らず焼け焦げている。
この状況を作り出したであろうガルグドラゴンの姿も見つかった。ガルグドラゴンは砦の防壁近くで下半分を失った状態で倒れていた。
幸樹がやったのか。期待を裏切らない主人公の仕事っぷりに、哲は感服した。
だが、まだ安心できない。『共有マップ』に反応は残っているが、おそらく無事では無いだろう。哲は急いで幸樹の下へと向かった。
数分後、哲は幸樹の姿を見つけた。幸樹は少し張り出た丘の上で気を失っていた。
装備はボロボロ。布生地も殆ど燃え尽き、肌のあちこちに火傷が見られる。
しかし、幸樹の両手にはしっかりと剣が握られていた。片膝をつきながら、地面に突き立てた剣を両手でしっかりと握っている。
「すげえよ天田。お前、本当にすげえ」
気を失ってもなお戦う姿勢を崩さないその姿は、まさに英雄そのものだった。