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異世界ってスゲェェェ!!(仮)  作者: ポチでボッチなポッチポチ
ダンジョン(仮題)
87/87

87話 ハンカチ


 隠し通路を歩き続けると、壁に行き当たった。

 その扉は今まで見てきたダンジョンにある扉とは違い、まるで家に入るための木の扉だった。

 シュンは自然とコンコンと二度ノックをして少し待ってから、扉を開けて中に入った。


「ん? なんだ?」


 外との温度差と言うべきか、中に入ると肌に伝わる空気が違った。

 シュンはこの空気の肌触りを知っている。

 知っているが……それが何なのか解らない。

 それより、扉を開けてまた扉があるのが気になるが今は先に進むしかない。

 少し歩いて全く同じ扉をもう一度開けて入る。今度はノックなしだ。


「今度はノックなしなんだね?」

「ふぇ!?」


 部屋に入るや否やすぐさまに声を掛けられ、ビクッと震えてから声のする方へ視線を向ける。

 その眼に映ったのは、背格好は自分と同じ位で成長期がこれから来る感じの少年が椅子に座っていた。


「やぁ、君が来るのを待っていたよ」

「待っていた?」

「正確にはここに辿り着く人を待っていたが正しいかな」


 少年は立ち上がりシュンに空いている向かい側の椅子に座るように手で促がした。

 シュンが座ると手を振ってティーセットを出現させお茶を淹れて差し出す。


「長い話になるからね」

「……はい、ありがとうございます」


 少年の割りには物腰が柔らかく、何処か自分と似ている。

 だが、見た目と年齢が合っていない雰囲気はシュンより上かもしれないと感じさせ、シュンは自然と口調に気をつけていた。


「まずは自己紹介が先だが、一つ聞きたいんだが君の名前がシュンとしか見えないのだが、それは何故なんだい? 僕のスキルで相手のステータスを覗く事が出来るんだが、君のステータスには名前と年齢と性別しか覗けないのが不思議でね。

 勿論、透視を防止しているなら話は別なんだけど、僕の透視スキルは最高レベルの10で、防止を看破するスキルも10だから覗けない事は無いはずなんだ」


 正直に言うべきか如何かで迷うが、もし彼が邪神が求めている少年なら答えても良いかもしれない。


「名前がシュンとしか無いのは、この世界に召喚される時に女神様に名前だけにしてもらったからです」

「そう言う事か……なるほど! それにしても君は()()に召喚されたんだね。僕は光の男の神に召喚されたんだ。勇者としてね」

「勇者!?」

「そう、勇者さ。しかも百年? いや五百年くらい前かな? このダンジョンが出来る前に召喚されたんだ」


 五百年な訳がないじゃん。アルフレッドのおっさんは千年前から存在してるって言ってたぞ!? 

 って事はこの人、千歳を越えてるじゃん。

 あ、名前……。


「あの、貴方の名前を訊いても?」

「ああ、ごめんごめん。僕の名前は秋山(あきやま)(あつし)さ。敦でいいよ」

「え、あ……はい。敦さんは何で、こんな所に居るんですか?」


 敦と言う少年は微笑んで、シュンを見てから紅茶を一口飲んでから。


「行き成り訊くね。当然っちゃ当然か。僕が此処に居る理由はある女神様との約束だからだよ」

「やくそく……ですか?」

「うん、この世界の真実を伝えるのが僕の役目でね。だからこの部屋に閉じ篭ってるんだよ。この部屋の中は時が止まってるんだよ」


 ああ、だからか……俺がこの部屋に入った時に感じた空気は、収納魔法に入っている物を取り出す時に手を突っ込んだ感覚だったか。


「? どうやら心当たりが合ったみたいだね」

「はい、収納魔法が時間凍結しているもので……」

「そうだんたんだね」


 自己紹介を終え、話しが本格的に進みだす。


「さて、僕の勇者伝説でも聞かせたい所だけど、そんなに凄い事じゃないから、本題だけ話すよ」

「はい」

「君は魔王に会った事があるかい?」

「いえ、まだです」

「そうかい」

「魔王の存在は女神様から聞きましたけど……」

「うん、魔王は元勇者達なんだ」

「ええ!? それって……」

「まあ、全ての勇者が魔王に成る訳じゃないんだよ。『神と勇者』この関係が崩れた時、『邪神と魔王』が生まれるんだよ」


 シュンは喉を鳴らし、紅茶を一口飲んでから身構えた。


「まずシュンの、この世界での常識が何処まである判らないが、世界での一般常識が間違っている。

 勇者を召喚する事が出来るのは、神だけ何だ。人間が人間を召喚する事は出来ない。

 なら、なぜ一国の王族が召喚できるか何だけど、それを操るのが神なんだ」

「えっと、操るって? 洗脳とかですか?」

「いや、違うんだよ。この世界では神から啓示がある事を受け入れている。だから、神からの啓示で召喚時期が決まるんだ」


 啓示ね……俺って何時になったら、女神様と交信出来る様になるんだろう。


「どうやって召喚時期を決めるかだけど、シュンは知ってるかい? 神は常に新しく生まれていると」

「いえ……」

「僕達の世界でもある事だけど、困った時の神頼み。それが、新しい神が生まれる要因の一つなんだ」

「神頼みですか?」

「うん。とは、言っても一人だけの神頼みじゃ生まれないけどね。

 例えば戦争で勝ちたいからと多くの兵士が願うとすると、軍神が生まれる。

 そんな感じかな」

「そんなにポンポン神が生まれるんですか?」


 神がいっぱい生まれたら、同じ様な理由で生まれた神様で溢れかえりそうだよ。


「答えは、生まれる。生まれるからこそ、神同士で争う。そして弱き神は強き神に取り込まれてしまう。

 では、生まれたての神は如何やって力を付けるんだろうね」

「えっと、それは――」

「それが勇者召喚なんだよ。勇者召喚して勇者が問題を解決すると、国……いや世界中から賞賛されると、勇者だけでは無く神にも影響が出るんだ。

 シュンも召喚されて、この世界に来る前に神に会ったんだろう? だからシュンが賞賛されたりすると、その神の力になるんだよ」


 そうなのかな? 女神様は名前が力だと言ってたんだけどなぁ……。敦さんの知ってる神の力と俺の知ってる神の力の在り方が別物に見えてくる。

 いったい何が正しいんだろう。

 俺と敦さんは初対面だ。

 女神様とだってアレっきり会話がない。

 どっちを信じれば良いんだろう。

 両方正解で両方間違っているのかも知れない。

 なら、両方あると考えて、じっくり考えれば良い。

 今は、教えて貰える情報を出来る限り、集める事だけに専念しよう。


「まぁ。そう言う訳で勇者が交信できる神は一体だけなんだ。それと、神と交信……いや御告げが聴ける巫女がいるが、その巫女が対話できる神は複数いるが、その全ては勇者を召喚していない神限定なんだ」

「え、それじゃあ。俺を召喚した女神とか、他の勇者達を召喚する為に現れた神達とは――」

「ああ、その通り。対話する事は出来ない」


 敦は一呼吸を置いて、シュンを強く見て次の言葉を忘れるなと促がす。

 シュンが喉を鳴らし、首を立てに振って見据えたのを合図に敦の口が動いた。


「交信出来る神を信じるなよシュン」

「え……」

「御告げとか、そう言うのは神の都合で人間を操っているだけだ」


 御告げも交信もした事ないから、どう言う事なのか。ああでも王都でアリールさん伝手で言われたっけ? 『旅をしなさいと』

 ん〜、これは一応言うべきか、如何するべきなのだろう。


「あの、敦さん」

「ん? 何か質問か?」

「はい」


 シュンは女神と交信が出来ない事と、王都で治療した王女様を通して言われた事を話す。

 敦の反応は目をパチクリとさせて、直ぐに召喚時の事を根掘り葉掘り聞こうと質問攻めし始める。

 スキルセットの事や、召喚された目的など。


「なるほど、如何やらシュンを召喚したのは、もっとも古い神の様だね」

「えっと、敦さんは御存知なのですか? 古い神様の事」

「ああ、詳しくは無いけど、僕を助けてくれた神が古き神なんだよ。そして、俺が此処にいる理由は、古き神と今の神の関係性を、此処に辿り着いた異世界人に伝えるのが、俺の役目なんだけど……どうやら俺の役目はシュンに伝える為だったようだね」


 そう言って敦は、何から話すべきかを考え直して、仕切りなおした。


「シュン、魔王と邪神の話しに戻るが、まず御礼を言わせてくれ」

「ええ!?」

「シュンが倒した邪神は、僕を探していたんだ。邪神の正体は僕を召喚した神、ラティラと言って光を司る神の一人なんだ。

 僕が勇者の役目を終えて元の世界に帰れると思った時に、奴は裏切って僕の体を奪おうとしたんだ。

 この世界に来た時は、僕を励ましたりスキルについて教えてくれたんだ、当然人助けの為に何処へ行くべきか道しるべ役もしてくれたんだ。

 だけど、全部は体を奪って、強き神に対抗する力を得る為だったんだ。

 そこで、僕は逃げて逃げて逃げ回ったよ。そして、神と勇者の信頼関係が崩れた時に、神は邪神に堕ち。勇者は魔王に堕ちる」

「でも、敦さんは魔王って感じじゃ……」


 敦は笑みを浮べて手で話しは終わっていないと、シュンを静止させた。


「そう、本来なら僕は魔王となって、好き勝手に街を荒らしたり占領していたかも知れない。だけど、そこに一人の神の言葉が僕を助けてくれたんだよ。僕は魔王になるのは嫌だったから、知らない神の条件を呑んだんだ。それが今の僕さ。

 ついでに言うけど、魔王になると人間の姿じゃないからね。それに、その姿は自分じゃ決められないからね。嫌だよね醜い姿って。

 そして、勇者の手によって殺される……僕は何人も同郷の人を手に掛けてしまったんだ。知らなかったとは言え、僕は許されない事をしてしまっている。

 自殺だって考えた。でも出来なかったんだ……家族に逢いたくて」


 敦の目から涙が零れ始めるが、今のシュンには敦に掛ける言葉が出てこなかった。


「ごめん。今まで誰にも話した事ないから……」

「いいえ」


 そっと敦にハンカチを渡し、敦は涙を拭く。

 相手は男だけど、今のシュンに出来る事は、これが精一杯だった。

 




 申し訳ないです。

 やらないと行けない事が多すぎて、投稿以前に執筆が厳しい状況になってしまいしました。

 完結まで2、3章くらいなので、例えのんびりでも完結だけはさせたいと思ってます。


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