86話 この問いに答えよ
闇の日でダンジョン内の道がシャッフルを終えて何日目だろうか。
ダンジョン内は罠以外で明かりが落ちる事はない。
その所為で今が昼なのか夜なのか分からない。それだけじゃない。日にちの感覚なんて既に狂っている。
闇の日の存在だけが週を刻んでいるだけで在り難いが、邪神との戦闘の影響で本当に一週間経ったのかすら怪しい所ではある。
「現れないな……」
闇の日が訪れたと言う事は、ダンジョンが正常に機能していると思ってはいるが、魔物が全く現れない。
アルフレッドのおっさん達がダンジョンの異変の調査の為に一時的にパーティーを復活させ。
俺の所に来るまでの経緯を聞き、地下四十九階でアンデットの魔物に出会ったのを確認して、ダンジョンが正常に機能し始めているのは確かだ。
隅々まで目で確認しながら進んではいるが、どれも見事に人工的に作られている様にしか見えないほど綺麗に整備されている。
疑わしい所は手で触って見たり、剣で突いたりして確認するが特に何も無い。
「まだ全て正常に戻った訳じゃないのかな?」
何気なくまたポツリと呟いてから、その場で座り込んで休む。
地下五十階に降りる前に無事に回収したリべレーションソードの手入れをし始める。
何度見ても不思議な剣だ。最高の材料を使った剣だと鍛冶屋のおっさんは言ってたが、それにしてもあり得ない程の頑丈さだ。
サンクションソードを抜いて見比べるが、サンクションソードは何度も打ち直された後が残っており、微かだけど刃に傷が付いている。
ネイルさんの年齢を考えても年期が違うのは分かる。
それでも激戦を潜り抜けて今日まで生き抜いている俺の相棒は傷一つ付いていない。
他にもルーファを従えていたパーティーの武器を取り出して視て見るが、やはり所々傷が付いているし一歩でも使い方を間違えれば折れそうな程に消耗している。
俺はとんでもない剣を貰ったのかもしれない。
女神様から貰った剣が折れ、アーレンの街で貰ってからずっと俺の旅を見続けているリべレーションソード。
「ごめんね。次からは失くさないから、これからも俺を助けてね」
そう語りながら手入れをしれて行く。
休憩を終え攻略を再開し罠の有無や魔物への警戒を怠らずに進めて行くものの、何も起きぬまま闇の日をまた迎える。
地下五十階に来てから三度目の闇の日。
何度も経験してるが、今まで振り出しに戻った事はない。
次の階へ続く部屋までの近道もない。
もしかしたら倍の距離を歩いているかも知れないし、近道をしているかも知れないが確かめようが無い。
魔物が現れないと言う現象に慣れつつあるが、それでも警戒を怠らずに気をつけ怠けそうに成った場合は、一旦動きを止め休憩して持ち直す。
邪神の探しモノに関しても同じだ。
それが何なのか解らない。だからこそ床や壁に天井まで隈なく探す。
「う!?」
歩き続けて少し開いた場所に辿り着き、天井から強い光を浴びて目を瞑った。
そして、生まれた複数の影が立体化して、影に囲まれた。
「メモリーの次はコピーって事か……」
立体化した影は自分と同じ背丈に背中でクロスしている剣と言う見た目と状況でコピーだと悟る。
シュンはこの状況に、ほんの少し笑みが零れた。
それは、今まで強い人と戦い生き残ってきたが、相手から見て自分がどう移っているのか知れる機会だと思って笑ってしまった。
「あ! でもコピーって事はこれピンチじゃね?」
自分と同じ強さなら、袋叩きにされて終わりだと遅れて気付き、急いで剣を抜いて笑みが消えた。
「!? え? え!? ええええええええ!?」
影がリべレーションソード? らしき剣を抜いたのだろうか?
剣を抜いて構えようとした時にフラフラと右に左にとバランスを崩して振られている。
何とか構えた影もいるが腕がプルプルと震えている。
余りにも酷い状況だ。
他人が自分を見て弱そうと思われてたのは充分に解っている。
解ってはいるが……
「流石にこれは無いだろうおおお!!」
そう叫んだ途端に正面の影が尻餅をついた。驚いたのか恐怖したのか知らないが酷すぎる。
シュンは剣を鞘に納め……
「はぁ〜。俺そこまで酷くないだろう……」
影は重い剣に振り回されるかのように振り回して来る。
その剣を軽く避けて軽く押した。
押された影は消滅し、また新しい影達が生まれる。
影達からは闘気や魔力を感じない。
魂や闘争心と呼べる感情が無いからなのかは不明だ。
これまで戦った魔物達からは魔力を感じる事は無かったが、闘気を感じる事は出来ていた。
それに、魔力を持つ魔物だって存在はしている。ドルデ荒野で遭遇したナイトスコルピオンやデザートライオンがそれだ。
「強く無いのは嬉しいんだけど……すごくイラっとしてくるなぁ」
強ければ苦戦はするが、何処か嬉しいかも知れないが、こうも弱いと嫌がらせにしか感じない。
押せば倒せる自分のコピーほど不愉快に思える事は無いのかも知れない。
「あ……」
どんどん数を増やす自分のコピーをした影達だが、何体か剣の重さに負けて躓き倒れ消滅していく姿が目に映った。
勝手に打つかって消滅していく影、転んだ拍子にドミノ倒しの様に倒れて消滅していったりと、もう滅茶苦茶だった。
もう構ってられないと一気に影達を追い抜き先に進んで行くが、ダンジョン中に自分の影が到る所に現れている。
ユニップで購入した六角の棒を取り出し、影達を軽く突いて倒しながら進んだ。
シュンが強いからでは無く、影達が余りにも弱いから出来る事なのだろう。
棒を出しているのに影達は棒を使う事は無い。
棒だけじゃない、サンクションソードと言うリべレーションソードより断然に軽い剣があるのに影達は抜こうとしない。
これは、シュンが何時もリべレーションソードを使っているからなのだろうか?
それでも弱い影達の説明になっていない。
闘気を使っていなくても平然と剣を振るう事は出来ると言うのに……。
残念すぎて何も言えないまま、ひたすらダンジョンを攻略していく。
「ん? ここも行き止まり? ……いや、ここがゴールか!」
今まで行き止まりに何度か当たったが、今回の部屋は少し変わっており壁に壁画が描かれていた。
「壁画かぁ……参ったな歴史とか全然解んないんだけど……」
壁にビッシリ書かれた絵を注視して見て行くと、そこには変わった服を着ている男が剣と銃? を武器に翼を生やしている相手と戦っている絵が目に映った。
他の壁には翼を生やしている男が街を破壊している絵や、兵士達を苦しめている絵もあった。
「合ってるか解らないけど……何となく解った気がする……」
翼を生やしている男は邪神か何かで、剣と銃を持っている男は異世界人かな? 何となく学生服に見えなくないし。
それにしてもビッシリ描かれている壁画に順番がありそう何だがヒントらしき物はないなぁ。
きっとその順番を理解する事が出来れば伝えたい事が汲み取れそうな気がする。
部屋に入って正面の壁には先程から述べている絵があり、右の壁を見ると『剣と銃を持った人間が兵士達と戦っている』絵が描かれている。
正面の絵から左の絵を見るが、これも剣と銃を持った人間が兵士と戦っている同じ絵で違うのは『翼が生えている』絵だった。
何が違うのだろう……翼が在るか無いかだけで絵に違いはない。
そして、自分が部屋の入り口を見ると『塔の頂上に剣と銃を持った人間』が描かれている絵が描かれている。
「全く……意味が解らないよ……考古学者とかそう言う知識を持ってる人なら解るのかも知れないけど……」
絵で伝えるのは間違いじゃないと思う……態々ダンジョンの最深部まで来て意味の無い事をするはずは……無いと思う。
「はぁ〜。ぜんぜん解んない! !?」
シュンはその場で座り込み溜息を付いてから天井を見ると、そこには文字が書かれていた。
「何で、日本語が書かれているんだ!?」
天井に書かれていたのは『この問いに答えよ、さすれば道は開くだろう』と。
「この問いってどの問いだよおおおお!!」
とは言って見るものの、多分だが壁画の事なんだろう……。
改めて情報を整理しよう。
入り口から見て正面の壁画は『翼を生やしている男を中心に』街や兵士達を苦しめ姿が描かれ暗く見えるが、『剣と銃を持った少年』とその周りの人の絵には明るさがある。
これで解るのは、翼を生やしている男は『人類の敵』で剣と銃を持った少年は『人類の救世主』なのだろう。
正面の絵から視線を右の壁に向けると、今度は剣と銃を持った少年が兵士や街を破壊している絵に変わっている。
その絵には正面にあった翼を生やしている男の姿は無い。
他にも街の傍に描かれている女性の絵には首輪が描かれ、御金の取引をして首輪している女性を売買している様子だろう。
そして、少年に弓を引く兵士や住民の絵と返り討ちにしている絵も描かれている。
奴隷売買と少年に刃を向けて戦う人達の絵だが、何を意味するのか解らない。
少年が何かをしたのは明白だが、何をしたのかがイマイチ伝わらない。
正面から左の壁の絵は、『剣と銃を持つ少年に羽が生えている』が、その羽は正面の羽を持つ男とは違い悪魔を象徴するような羽だった、動物に例えるなら蝙蝠の羽だろう。
そして描かれているのは、正面の壁画と同じで兵士と戦い人々を苦しめている絵だ。
ハッキリ言ってしまうと多少違うだけで、どれも同じ絵にしか見えない。
それでも共通しているのは、人々を苦しめている絵だと言う事だけだ。
文字などのヒントが何も無い。微妙に違うだけの絵。果たして知識の無い俺は理解する事が出来るのだろうか?
『この問いに答えよ、さすれば道は開くだろう』などと言う、問題にどう答えれれば良いのだろう。
「この問いに答えよ……さすれば道は開くだろう……って問いってどれだよ……」
ポツリと呟き、暫くすると正面の壁が光だし正面の壁画が割れ通路が生まれた。
「……はい?」
シュンは呆けたままその通路に向かって歩いていった。
「!? ちょ!? 罠かよおおおおおお!!」
通路に入った瞬間に通路が閉じ、閉じ込められてしまった。
こんなに執筆に時間が掛かるとは思ってませんでした。
次話も遅くなってしまいそう。
こんな私の作品、異世界ってスゲェェェ!!(仮)を宜しくお願いします。




