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異世界ってスゲェェェ!!(仮)  作者: ポチでボッチなポッチポチ
ダンジョン(仮題)
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84話 あの時の教え

 パシン、パシンと鞭が空気の壁を叩く音が何度も響く中、一人の少年が真っ直ぐ目の前の敵の下へと駆けて行く。

 鞭が身体に触れるギリギリを避けて行くが、それは紙一重に避けたと言うより、ただ最短距離を駆けて一秒でも、いや一瞬でも早く目の前の相手の命を刈り取ろうとする、無謀な動きにしか見えず。

 今まで耐えていた傷口がどんどん広がっていく。


「く!? これが人間の速さか!?」

「あううううううう!」


 邪神の反応速度を上回る速さで邪神の周囲をグルグルと回り、翻弄しては素手で攻撃をし確実に息の根を止めるチャンスを狙っている。

 理性を失って獣と化しても本能が迂闊に飛び込んで足を止める事を拒んでいる。


「ちっ! そこか! ぐ!?」


 何度も空を叩く鞭と、決定打にならない拳の音が鳴り響く。

 邪神の狙いは少年が最大の一撃を放とうと足を止める瞬間を淡々と狙い、少年は獣のような勘で焦る気持ちを抑え、その狙いを回避している状態になっているだけのこと。


「がああああ」

「貴様は亡者か! いや獣も混ざっているから、さしずめ亡獣(もうじゅう)と言った所か」


 邪神の鞭が少年に掠り、激痛となって襲うも少年は御構い無しと言わんばかりに動きを止めない。

 どんな猛獣でさえ激痛が襲えば動きを止めるもの。

 我慢する顔すら見せないで欲求に従い続けるのなら亡者としか言い様がない。


「もう貴様の身体等どうでもよいわ! 消え失せろおおおおおおお!!」


 欲していた少年の身体を諦めるほど、今の少年の姿は醜く、例え奪ったとしても今の醜さが強く残って不愉快になると結論づけ、周囲にシャイニング・カッターを乱れ撃つ。

 周囲に放たれた光の刃は邪神の周りを満遍なく飛んで行き、グルグルと軌道を描いて『刃の結界』を作った。

 それは、少年が亡獣となった時から肉弾戦しかないのを見越し、対処するのには有効な手だと理解していたが、触れれば身体がバラバラになるから避けていたが、興味が失せた今は気づかう必要がない。 


 少年は刃の結界には飛び込まずに走り続ける。

 そして……


「ぐあ!? き!? ぐぅ!? きさ!? きさぶぁあ!」


 刃の結界に守られて、復讐心に駆られて突っ込んでくるのを待つだけだと待っていたのだが。

 少年は無数に周回軌道を描いていた光の刃の隙間を縫って、邪神を殴りつけて見せた。

 殴り飛ばされた邪神は、急いで自ら張った光の刃に切り刻まれる前に結界を解くが、解くのに割いた時間が少年の追い討ちを許す。


 邪神が言いたかったのは「貴様、どうやって結界を抜けた」そう、言いたかったに違いない。

 少年はマウントポジションを取って殴り続ける。

 拳をどんなに痛めようが関係なしに、雄たけびと共にその顔を満遍なく殴り続けた。

 そして、動かなくなった邪神に止めをさそうと、何時ものリべレーションソードを抜こうと右手を後ろに回すが、そこには剣は無かった。

 今までの戦闘の中で何処で落としたのか覚えていない。

 探す事なく。お守りとしてずっと提げて居るサンクションソードを抜き、逆手に構えて刺そうとする時、サンクションソード刃がキラリと反射して、少年の目を瞑らせた。


『シュン、ごめんなさい! 本当はもっと一緒に居て、沢山の事を教えないと行けないのに、教えられなくてごめんね……駄目な師匠で……本当でごめんなさい……』


 あの時の言葉が少年の脳裏に甦り身体が硬直して動かなくなり、サンクションソードの刃先が邪神の喉元で止まった。 


        ◇      ◇


「せい! やー!」

「ぐぅぅああああ」


 シュンの正拳突きでオークがくの字に身体を折り曲げ、ジャンプして首に踵落しを決め、首の骨が折って絶命させた。

 ネイルさんとの修行日々の中で、素手でオークを倒す事になって二日目、初日は余りの危なさでネイルさんが助けに入ってくれたんだよな……。


「やったー! やったよ! やれば出来るじゃないシュン!!」

「く、くるしいです……ネイルさん」


 近くで見ていたネイルが、喜びの余りに目にも留まらぬ速さでシュンに抱きついて、自分の胸にシュンの顔をハグ締めしていた。

 その幸せの様な地獄で窒息死するんじゃないかと言う、不安から逃げようと必死にタップしてもがき。


「ああ!? ごめんごめん。嬉しくてつい」

「ぷはー」


 ネイルさんは軽装の鎧を着ているのに、それでも充分な柔らかさが伝わって来たって事は……もしかして結構大きい!!!??

 頭を左右に思いっきり振って、邪念を追い払い。


「あの……ネイルさん何で、こんな修行するんですか? 素手でオークと戦う何て怖いですよ」


 だって俺の身長よりでかい棒を振ってくるんだよ……持ってないオークもいるんだけど顔がねものすごく怖いんだよ。

 足も速いから変に逃げ切る事が出来なくて、一番安全なのが懐に潜る事だったんだ。

 超接近戦になれば、棍棒を上手く振ることが出来ないが、だからと言って二メートルあるオークとの体格差とそのパワーを如何にかした訳じゃない。

 それに対して、シュンが取った行動は相手の攻撃を潜り抜け何度も背後から、なよっとしたパンチで殴り続ける事だった。

 腰を入れろとか言われるのは分かる……分かるけど振り向き様に飛んで来るオークの攻撃が怖くて、へなちょこパンチしか突けなかったが、時間を掛けて戦ううちに目が慣れて渾身の正拳突きを放って、踵落しを決めるのに成功したと言うわけだが、所要時間はざっと三時間と言った所だろう。

 短い様に感じる人もいるかも知れないが、恐怖心に襲われながらの三時間は途轍もなく長く感じた。

 そんな怖い思いをしてまで素手で戦う意味が分からない。

 だって剣があるのだから。


「良いシュン! その質問には二つの答えがあるわ」

「二つ? ……ですか?」

「本来はずっと先の話しになるから、一つ目しか言わないのだけど、シュンの場合は時間がないから二つとも言うわ! ……心して聞いて!」

「はい!!」

「表向きの理由は武器が無い状況や剣を抜く事が出来ない状況のためと伝えられるわ。そして裏向きの理由は、怒りで我を忘れて闘気を必要以上に練り上げ暴走した時のためよ! 」

「暴走した時のため?」

「そう。暴走と言うのは極度の感情の昂ぶりで自我を忘れてしまった時の事よ」


 そう言って、シュンの顔を見つめる。

 その表情は真剣で、その目は悲しみを映し出していた。

 一呼吸してから口を開き、その口から昔の話を始めた。


 冒険者としてメイルさんと二人で一人前として順調に稼いでいたとき出来事で、一人の殺人鬼の起した事件が悲劇の連鎖を生んだ話しだ。

 殺人鬼は表だっては優秀なSランク冒険だったが、裏では洗礼と称して弱者を虐め追い詰め命を奪ったりと悪行を行い、周囲の者は我が身に降り掛からない様にと黙って静観していた。

 虐めと言う物は常に惨劇を生む引き金に過ぎない。

 そして、その終わりも悲劇にしかならないと。


 一人の虐めを受けていた男が、怒りで我を忘れ男を殺めるも、暴走した力を周囲に振るい続けた。

 獣と化し、命を奪い続けるその男は三日三晩寝ずに暴れ続け、取り押さえようとする者、止む終えず殺そうとする者と多くの冒険者が彼を止めようとするが、簡単に返り討ちに遭ってしまった。

 そして、限界を迎えた男は自然と動きを止め命をその場で引き取ったと言う。


 その男の身体はボロボロで所々は骨折したまま、暴走する前の人間なら動く事などは無理だろう。

 暴走すると言う事は獣になって、人を超える力を手に入れると言うこと。

 そして、戦いが終わっても戦闘を辞められず無差別に人を襲い続けてしまう。

 動かなくなった時には手遅れな程に身体が傷付いていて見るに耐えない程だったと。

 他にも暴走した人は沢山いるが、ネイルの知る中で一番最悪な状態だったと言う。


 そんな話しの後に、他の暴走したケースを話してくれた。


 暴走には三段階あり、最悪を三にして。


 一段階目は、自我を保ちつつ感情が昂ぶって攻撃が単調になる状態。これは誰もが焦り等で陥るから、暴走には成らない。ただ、何時も以上に闘気が練り上げられて興奮している状態だから、戦闘後には激しい痛みが襲う。


 二段階目は、自我を徐々に失い獣に近い状態で、相手を葬る事しか考えられず、武器に闘気が纏わせる事が出来なくなるらしい。さらに相手を殺すまでは動きが止まらないと。 

 そして、相手を殺した終えた時、自我を取り戻したとしても、今までに練り上げた事の無い闘気と体験した事の無い動きに身体が付いていかず、最悪の場合は一生動けなくなってしうまう。


 三段階目は、自我を完全に失い闘気が尽きるまで、戦い続ける状態だ。そして、動かなくなった時は例外なく死に至ると。


「さて、何で素手で戦うかだったわね。それは暴走の二段階目に耐えられる様にするためよ。三段階目の対処方は無いけど、二段階目ならまだ何とかなるのよ。簡単に拳を使った事がない者が拳を使うと痛めてしまうでしょ? なら先に拳や足で戦い慣れれば多少なりとも、その影響を押さえられるわ」

「そうなんですか? 全然変わらない気がするような? だって、自分が強く成れば暴走する度合いも強くなるんじゃないんですか?」

「うん、確かにそうね。でも、最終的に行き着く強さって決まってるのよ」

「……最終的に行き着く強さ」 

「人としての限界が辿り着く強さよ。言うなれば邪神と対等な強さを手に入れるのが人間の限界かな?」

「へ? 邪神て神様なんじゃ……」


 邪神は元神だが、神と邪神には決定的な程の差がある。

 邪神に堕ちた神は、以前の様な滅茶苦茶な力を失い、限りなく人間に近い存在になっている。

 だからこそ、人間でも邪神を倒せるんだとネイルは教える。

 邪神と対等に戦える強さが人間の限界である事も念を押した。


 だから、限界値が分かるからこそ、暴走した時と現在の強さの差を埋めるのがベスト何だと言う。


「いいわねシュン!! 暴走は絶対しちゃ駄目よ。だから心を強く持ち続けるのよ! 二段階目の暴走には何処かしら戻れる箇所があるらしいから、その時は何が何でも暴走してる自分を押さえ込んで正気に戻りなさい! 戻ろうとする箇所がある中はまだ、身体が付いてきている証拠だから戻るのよ! それを逃したら……全てが終わると思いなさい」


       ◇       ◇


 サンクションソードを構えたまま動かなくなったシュンの目に理性の光を取り戻し涙が溢れ出す。

 今までの暴走で無茶した痛みもあるが、シュンの一番の痛みは戦いの痛みより心の痛みの方が大きい。

 邪神に受けた心の傷もそうだが、ネイルにこんなに愛され指導して貰っていたのに肝心な時に忘れていたと言う不甲斐無い痛みが一番だった。


「貴様! 調子に乗りやがってええ!!」

「ぐぅ!?」


 動かなくなっていた邪神から拳をもらい、咄嗟に剣で防ぐが勢いよく吹き飛ばされるも、何とか着地する事が出来た。


「貴様の顔などもう見たくないわ! 一瞬で終わらせたやる! もうこの場所など如何でも良いわ! 崩壊した後でゆっくり探せば良いのだからな!」

「!?」


 邪神の怒りの声と気に成る事を言う。

 だが、その事に関しては後だと、目の前の相手に集中する。激痛で身体が痛むが何とかポーチの中にあるポーションに手を伸ばし飲み、痛みを和らげる。


「ポーションの残りは二本か……この先、飲める状況は無いかな……冷静になれ……今まで培った事を全て試すんだ……また暴走するのはその後で良い……」


 王都で医療に挑戦して身に着けた魂を見る目。剣魔融合。魔力を見る方法。そして、今戦闘で使えるのは剣魔融合だが、あれは剣気と魔力が反発し合って保つのが難しかった奴だ。


「はああああああ! これで終わりだ!」

「!? ぐぅ」


 邪神が真っ直ぐ走りだしながら、鞭を剣に変化させるがシュンには、その力の正体が見え。


「なにぃ!?」

「なるほどね……これが邪神の力の正体か!」

「人間が神通力を!? いや、そんな訳は!」


 軽々しく剣を防ぎ、邪神から距離を取った。邪神と同じ領域に入るために。


「神通力って言うんだ()()。ネイルさんは正しかったって事を証明出来て嬉よ」


 神通力の正体、それは剣魔融合の事だ。だがその方法は遠回りだった。身体強化する闘気の上に魔力を纏うのが正解だった。闘気は練り上げれば蒸気の様に逃げて行く、それを圧縮してなるべく漏れない様にするのが今までのシュンの方法だったが、魔力で闘気を閉じ込めれば一切漏れなく、フルに闘気を扱う事が出来ると言う事を、今対峙している邪神から学んだのだ。

 一切逃げる事の無い闘気は微々たる闘気でも今まで以上に身体を強化し、身体や剣さえも神々しく輝きだした。


「く! 人間如きが、神を愚弄するのか!」

「愚弄? まさか、人間の領域に落ちた邪神に愚弄も何も無いと思うよ。寧ろ御前ら邪神が人間をなめ過ぎだ!!」

「ぐぅ!」

「はっ!」


 邪神との剣戟は一瞬の間で数百と繰り返すが、全てシュンに軍配が上がった。

 今までは、圧倒的な力の差がシュンを弄び苦しめていたが、今まで必死に戦闘を繰り広げていた経験の差が、同じ領域に入った事で全てが一遍した。

 そう、領域こそ違えどやっている動きは、ネイルやバッカスに劣っているのだから。神通力と言う闘気と魔力の融合に成功したシュンには児戯にしか見えなかった。


「き……さまああああああ」


 邪神は倒れ、メモリーモンスターとしての魔力結晶を落とした。その結晶は今まで見た事の無い程の大きさだったが、確認する暇も無くしまい。

 邪神の倒れた一点を見つめ、再び涙が溢れだし。


「あああああああ!! 俺が弱い所為で……ぐぅ。ごめんアランさん……」


 シュンは、膝をついて何度も床を叩きながらダンジョンに響き続ける程の大きな声で鳴き続けた。

 やっぱり、いろんな方の作品を読みながら執筆すると、投稿するのが遅くなってしまいますね。

 何か良い方法が無いだろうか……。

 今回も書き直したりしてて、遅くなってしまいました。


 これからも、異世界ってスゲェェェ!!(仮)を宜しくお願いします

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