83話 堪える心と逆鱗
サブタイ良いのが無くてすみません。
一人の女性が光の結界の中で膝を付き手を組んで少年の帰りを祈っている。
その女性の服は防具と言う物は身に纏っておらず、服と言うにはボロボロ過ぎてただの布を羽織ってる様に見える。
彼女名はルーファ。一年前までは共和国の神官見習いで、神官の従者として仕えていた。
本当なら今でも神官として働くために共和国の神殿で厳しい修行をしているはずだった。
フェルニアに召喚される勇者を見定める神官の付き人として同行しなければの話だ。
旅の途中で事件が起きた、ディスティア連邦からゴルドン帝国に入る国境の近くで、賊に襲われ捕まり、闇奴隷の刻印を刻まれてしまった。
そして売られてしまうと、人生を諦め掛けた時に冒険者ギルドの冒険者達による制圧作戦で売られる前に解放されたかと思われたが、冒険者達は私達を解放する事なく、ギルドに内緒で奴隷達を奴隷商に売ったのだ。
私は運が良かったほうなのでしょう。私は制圧作戦が始まって怖くなって床下に隠れ、事が終わったのを理解して床下から出ようとすると、彼等は私と同じ境遇の者を蹂躙しだし終わった頃に、他の奴隷商が来て金銭の遣り取りしていたのです。
無事に遣り過ごせた私は、故郷のクエリア共和国に帰ろうと歩き出したのは良かったが、魔法も使えず剣など振れない私には、ディスティア連邦を出る事が出来なかった。
魔物に襲われ何とか逃げ切って、疲れて眠っている間に私の闇奴隷の刻印を見た冒険者の女性が私に血を飲ませ、私は彼女の奴隷となってしまったのです。
闇奴隷の契約が発動してからの私には『分かりました』『勤めさせて頂きます』の言葉しか許されませんでした。それ以外の言葉は血の盟約により発する事が許されませんでした。
食事は彼女の残飯を与えられ、食事を摂る事が出来ない日もありました。
彼女の変わりに男性の相手をさせられた事も…………それで神官になる道は絶たれてしまったのです。
一人前の神官になるまでは恋をする事を禁じられています、それは故意でなくても自らの身体を汚してしまった者は成れないのです。
彼女はダンジョンに潜りだし、私は彼女とその仲間の荷物持ちをさせられ、ずっと彼女達の背中を追い続けました。
本当なら逃げたいし自殺もしたい。それを闇奴隷の刻印が許さない。刻印の力で私の意思に関係なく身体が動いて強制的に働かせらてしまう。
やがて地下三十階を過ぎてからは、魔物が強くなりダンジョンを進むのが困難になった時、彼女達は私を囮に使う様になり、ダンジョンで死ぬんだろうと思いました。
そんな中、一人の少年が現れ私達の前を通り過ぎて行きました。
黒目黒服で黒い剣と白い剣を背負っている少年。
私より若い少年は一人でドンドン進んで行き、彼女達のリーダー格である男が少年の後を付いて行こうと言い出したのです。
最初は帰還結晶がある地下四十階までだと思い、これで街に帰る事が出来ると信じました。
だけど彼女等の目的は違いました。
彼女等の目的は、百年近く現れていないこのダンジョンの踏破者になる事だったのです。
ダンジョンを踏破するだけでギルドから大金が贈られ、国からは土地を貰えるそうです。
少年の後を追い掛け、隙を見て出し抜こうと考えたのでしょう。
そして、少年の後を付いて行った、ある日の事。
少年は彼女たちが眠っている間に私に声を掛けてきたのです。
「ねぇ、御姉さんは何でダンジョンに潜ってるの? 冒険者じゃないんでしょ?」
私は血の盟約で決まった事しか話せず、何も返す事が出来ませんでした。
少年には私の思いを伝える術がなく困っていると、少年は私に近づいてポーションと栄養ドリンクを差し出したのです。
こんな、奴隷に堕ちた私にです。涙がでて止まりませんでした。
少年がくれたポーションの御蔭でケガをしていた所はすっかり治り、何故かあの不味いと思っていた栄養ドリンクですら美味しく感じました。
そして、地下四十九階に入ってある部屋に辿り着いた瞬間、彼女等は少年の前に現れた影に向かって走り出して行き、倒れてしまいました。
私に血を飲ませた彼女もです。闇奴隷の契約は血を飲ませた者が死ねば、奴隷も死ぬと言う契約がなされる物です。
私は死を覚悟した時、刻印が発動して私の身体を蝕み始めました。
あまりの苦しさで私は意識を手放すの同時に死を受け入れ、死んだはずでした。
そんな中、私は目を覚ましたのです。そうすると少年が私に食事を渡しながら、今の現状を説明してくれました。
私は少年……いえシュン様の奴隷になったのです。
シュン様は、私の事に関して詳しく聞く事無く、何処からか出した温かい食事を出してくれました。奴隷に温かい食事を渡す者はいません。ましてや、成り行きで奴隷に成った直後なのだから、二人分の食糧など持ち合わせてるはずないのだろうに。
御主人様は、今戦っている相手はとても強いから、壁から顔を出さないでと言いましたが、血の盟約で縛っている訳ではないので、心配になって何度か覗き込んでしまいますが、余りの動きの速さで目が追いつきません。
戦っては帰ってくるという日々を繰り返している中で、いつも優しく接し余裕がないはずなのに食事も振舞ってくれました。
そんなある日、御主人様から笑顔が消え、結界を張って急いで戦いにいってしまいました。
今の私に出来るのは神官になる修行で教え込まれた祈る事のみ、御主人様の無事の帰還を心より祈って祈り続け。
「え!?」
私を守ってくれている結界が突然解け、御主人様が向かった方向からは戦いの音がまだ響いていました。
やがて、戦いの音が響かなくなって戦いが終わったのだろうと思い、御主人様の無事を祈りながら顔を覗かせ。
「!? ……」
鎧を着ている男が、倒れている御主人様に向かって行く姿が映り、私はその場に座り込み、見ている事しか出来ませんでした。
◇ ◇
ゆっくりと歩み寄ってくる邪神に対して、起き上がるのも儘ならない。
誰が見ても押せば倒れてしまう様に見える。
なぜ立ち上がるのか分からない。
互角に戦っては直ぐに先の領域に行かれてしまう。
普通の人間の心なら何度も折れているに違いない。
それでも、少年は立ち上がる。
何度も苦しい表情を浮べ、何度も痛めつけられてもだ。
身体中の傷から血が滲み出し、吐血しても少年の何かが倒れる事を許さなかった。
「貴様の心は何故折れんのだ!」
「はぁ……はぁ……」
邪神の言葉にさえ何も返ってこない。返ってくるのは必死に痛みを堪えながら呼吸する息遣いだけ。
心が折れる様に何度も痛めつけた。
少年の心は既に折れていて不思議ではない。
少年の心に潜むトラウマとなっている姿で現れたのだから、折れない方が邪神にとって不思議だった。
人は成長するとは言うが、そう容易く乗り越えられるモノでは無いと知っている。
現にこうして痛めつけ、絶望の淵に何度も叩き落していると言うのに……
「貴様は何なんだ!」
「ぐう~! ……がは……ゲホ」
剣を振れば少年は受け止めるが衝撃を押し殺す事は出来ずに弾き飛ばされ地面に叩きつけられる。
何度も打ち付けられては立ち上がる少年を見れば見るほど『少年の肉体が欲しくなる』
少年の肉体に宿る力を手に入れれば、元の神としての力を取り戻せるかもしれないと邪神に思わせ、邪神の剣撃による攻撃は力を弱め、肉体への攻撃は打撃によるモノへと次第に変えていった。
「なぜ心が折れんのだ! とっくに精神が崩壊していても可笑しくないはずだ!! なぜ貴様は立つ! なぜ諦めぬ! なぜ! なぜ! なぜ!」
邪神は動揺して、「なぜ」と繰り返されると共に起き上がろうとする少年を蹴り続ける。
少年の心はとうに折れ掛かっている。
それでも立ち上がろうとするのは、今日まで行き抜いて来た自分がそうさせている。
闘争心は消え失せている
だが身体が覚えている
何度も立ち上がった事を……
折れそうな心を踏み留め行き抜いた事を……
助けてくれた師匠達はもういない
自分をこの世界に召喚した女神と交信が出来ると聞いた……
だがその方法は知らない
助けてもくれない
この世界を生き抜くには自らが強くなるしかなかった
少年の身体中が痣だらけになり、所々が腫れあがっている。
顔を攻撃しないのは身体を奪ったさいの事を考えているのだろう。
元に治せるとは言え、整った顔が醜くなるのは避けているに違いない。
人も神も美を好むのは一緒の様だ。
何度も蹴り続けて少年が動かなくなった時、動きを止めた邪神が息を荒げている。
今まで激しい戦いを繰り広げても息を乱さなかった邪神が、ただ弱った少年を一方的に痛め付けているだけでだ。
「……心は折れていないが、ここまで痛めつければ必要ないだろう」
邪神が少年の頭を掴み持ち上げ、魔力と闘気を送り侵食を始め。
「この肉体は実に素晴らしいが、如何せん中古ってのが気に入らぬ。他の者が手を付けた姿とは我のプライドが許せぬからな……ん!?」
身体がピクリと動き出し闘気が練りあがりだした。
「いま……なん……て……いった……」
遠のきつつある少年の意識を呼び覚ました。
「貴様どこにそんな力があると言うのだ!」
「今……何て言ったと訊いてるんだろうがあああああああ」
「ぐ!?」
頭を掴んでいる邪神の腕を強く握りつぶし、握力を奪って拘束から解放し邪神の身体に蹴りをいれては殴り、掴んでる手を離しては後ろに回りこみ、電気ショックを放つ。
「ぐうう! 雷属性の魔法だと!?」
雷属性の魔法を浴び、邪神は動揺を露にする。
「俺の大切な人の姿を利用しているばかりか、アランさんを愚弄しやがってえええええええええ!!」
少年の感情は爆発し、その感情に従って闘気が留まる事無く溢れ出す。
以前に少年が怒りで闘気を練り上げようとした時、師匠であるネイルが怒りで闘気を練り上げるのを辞めるように叫ばれた事がある。
その理由は肉体の限界を超えて練られた闘気は制御できずに身体を蝕んでしまうからである。
その理由は少年には解っている。
魂が強く震えれば振るえるほど肉体が付いて行かずに身体から離れてしまうからだ。
今の少年の心は怒りが支配し、今までの守りへ動きが全て攻撃に変わった。
怯んでいる邪神を殴り続け、踏ん張れずに倒れそうな邪神を蹴り飛ばす。
「ぐぅ……ぐぅ! ……がは!!」
蹴り飛ばされた邪神が、壁に衝突する前に邪神を追い抜いて、壁を蹴って邪神の背中に膝蹴りをいれ邪神の鎧に亀裂をいれた。
「ああああああ」
「はぁ、はぁ、こやつ本当に人間か正しく獣ではないか!」
「がああああ!」
「よかろう、我がたっぷり調教してくれる!」
邪神が魔力で作った白い鞭を地面に向けて叩き付け。
シュンは、真っ直ぐ邪神に向かって駆けて行く。
その姿はまるでライオンが調教師に向かって行くかの様に……。
諸事情により書き直すのに時間が掛かってしまいました。
これからも異世界ってスゲェェェ!!(仮)を宜しくお願いします。




