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異世界ってスゲェェェ!!(仮)  作者: ポチでボッチなポッチポチ
ダンジョン(仮題)
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79話 最大の壁

 シュンの叫びは空しく彼等は影に突っ込んで行き、影に向かって武器を振り下ろした。振り下ろす音がシュンの耳に届くが、彼等の二撃目三撃目の音が耳に届く事が無かった。


「あ?! ……」


 ポーションと栄養剤改をあげた女性がシュンの後ろから声を漏らした。彼女の目に映ったのは、勢い良く影に武器を振り下ろした全員が苦痛の声を漏らす事無く、静かに床に倒れる姿だった。


 影の状態でも倒せるのは実証済みだが、影の状態で攻撃されるとは未確定情報だった。

 影が何をしたのかは、シュンの次の行動で明らかになる。


「エアカッター」


 風の刃が影に向かって飛んで行くが、途中で光の刃とぶつかり相殺された。目の前の彼等は魔法で倒されたのだと。フードを被った形に見えた影が今度は鎧姿の人間に姿を変え実体化し始める。


「……やっぱり出たか……」


 影が懐かしい姿を現し。忌々しい闘気を纏い剣に剣気を纏わせて高速移動と共に向かって来る。急いで迎撃体勢を取りリべレーションソードを抜いて走り出そうと地面を強く踏みしめた瞬間。


「ああああああああ! ああああああああ」


 後ろの女性が突然苦しみだし倒れだした。急いで彼女を抱きかかえ後ろの曲がり角を曲がって逃げる。


「ええ!?」


 アランの姿をしたメモリーモンスターがあの部屋から出ようとせず立ち止まり左手を翳し光だす。


「まじ!?」


 シャイニングカッターを乱れ撃ちされ、避けながら曲がり角に差し掛かり、曲がった瞬間。シュンは慌てて急ブレーキを掛けるべくつま先を上げて踵で踏ん張った。


「ちょ、これは流石に参った……」


 曲がり角を曲がって目に映った光景は、3メートル位の道を残して何も無くなっていた。下を覗けば地下五十階が見えるはずだし、上を見上げれば地下四十八階が見えるべきなのだが、本当に何も無くあるのは白い空間だけだった。


 シュンは一瞬で出口は地下五十階へ通じる階段だけだと理解させられた。取り合えず邪神はあの部屋から出られないと決め付ければ、この3メートルの道だけが安全地帯だと言う事になる。


 シュンは床に女性を寝かせ、彼女の体を診る。そうすると彼女の首筋に刻印が刻まれていた。これはランディールで保護した闇の奴隷商に捕まった子達と同じ刻印だった。マユさんから解除の仕方だけを聞いているが、今この場でする訳にはいかない。必要な物は揃ってるだけど使った事がない解除魔法をこの場でするのはリスクがある。


 刻印契約は確か主従契約として血を飲ませれば良かったはずだ。マユさんから二つの解除方を教えて貰っている。それは『未契約の刻印を消す方法』と『契約済みの刻印を消す方法』だ。未契約の解除は簡単だが、契約済みの解除には時間と魔力をかなり使うらしい。それは契約する時に『主人の血を飲ませる事で契約させる』ためだ。解除する時に奴隷の中に眠る主人の血を外へ出すと言う治療をする必要がある。その血がある限り奴隷は主人に絶対服従となる。


 今の彼女は主人を失った事により、中に眠る血が暴れ彼女を蝕んでいる状態になっている。その場合は新しい主人として契約するか、刻印を解除するかの二つになる。だがシュンはこの場合はどっちの治療で治すのか訊いてない。だから主人となってダンジョンを攻略した後で刻印を解除する事に決めた。


「これから俺の血を御姉さんに飲ませるから飲んで! 生きたいならね。解除はその後だ」


 彼女の有無を待たずにリべレーションソードで指を切って血を飲ませた。


「ああ……ああ……」


 彼女の苦しみが少しずつ引いていき眠りだした。彼女が目を覚ますまでは戦闘をする訳にも行かない。今いる空間を整理する。


 邪神が現れるまでは普通にこの道を通ったし、闇の日は昨日終わったばっかりだ。だからこの空間だけが可笑しいと言える。もし最下層の地下五十階で起るなら頷けるが、ここは最下層の一歩手前だからあり得ないはず……と言いたいのだが実際に起ってるから、ありえるのだろう。


 この安全地帯について考えると納得行く考えが一つだけ浮かぶ。それは後ろを付いて来た連中が隠れていた場所だと言う考えだ。既に亡くなってしまった連中に申し訳ないが、馬鹿な奴らだと思えてしまう。もし俺の忠告を聞いて、何時も通り曲がり角で遣り過ごしていれば生き残れたのにと……。それだけ地下五十階に最初に足を踏み入れるのに価値があったのだろうかと、頭の中で何度も何度も問いかけてくるが答えはNOとしかでて来ない。答えは亡くなった彼等と今ここで眠っている奴隷の女性だけだ。


 壁から顔を出し様子を覗うと、邪神は部屋の中央に戻って剣を地面に突き立てて立っていた。そしてダンジョンの壁から黒い蔦の様な物が現れ、彼等の亡骸に絡まり壁に引きずり込み壁と同化するように消えた。その姿を見て、ダンジョンで無くなった者の亡骸を見る事が無かったのかと理解した。アルフレッドにもし亡骸を見つけたら遺品になりそうな物を持って帰ってやれと言われたのを思い出す。


 彼等の亡骸と荷物は既に取り込まれている。残ってるのは彼等が倒れた時に落とした抜き身の武器と壊れて落ちた装飾品のみだけ。


「行けるか……」


 シュンは長い通路を走り部屋に入る前に最高速度に達し、彼等の遺品に向かって一直線に向かう。邪神がシュンの進入に気付き剣を構えて迎撃に入った。


「く!?」


 邪神の攻撃は自分の知っている攻撃と違う。剣を振る度に斬撃の軌道を描いた通りにシャイニングカッターが飛んで来る。遺品の剣を拾い、二つ目の遺品で指輪を、三つ目の遺品でイアリングを収納して行き、そして四つ目の遺品として槍を拾い上げる時、シャイニングカッターの特徴で人には効かない事を思い出し避けるのを辞めようと思った瞬間、背筋が凍りつき体が条件反射で回避した。


「うっ!?」


 シャイニングカッターが服を翳めて服が切れ、その場所を見ると赤い血が滲みでていた。血が滲み出ている所を押さえながら安全地帯まで走っていく。角を曲がるまで無数の光の刃が遅い掛かり避けながら必死に逃げ込んだ。


 シャイニングカッターが人に効かないと教えられていたが、如何やら間違いの様だ。


「俺が人間じゃないのか……使い手と同種は傷つかないかだな……」


 ポーションを飲みながら考えを整理していく。


 邪神の攻撃は主に剣が主体で詠唱なしでシャイニングカッターが放つ事が出来る。そして斬撃とセットでもシャイニングカッターが飛んで来ると言う事。だから左てで放たれるか剣から飛んで来るか解らない魔法……厄介すぎる。本物の邪神ならもっと凄い魔法を放つ事が出来るのだろうが、何故だかあの邪神はシャイニングカッターのみだ。


 アドバンテージがあるとしたら魔法の使えるバリエーションと速度はシュンに軍配があった。それは部屋に入る前に最高速度に達する事が出来るからであって、根本的な速さでは解らない。魔法のバリエーションは今の所それだけだが、この調子だと一つだけしか使えないと思えた。


 剣術に関してはシュンが知る邪心なら勝てる可能性がある。何故ならシュンが知っている邪神はアランに取り憑いた邪神だけだからだ。その倒し方はネイルの動きで目に焼き付けられている。アラン自らが教えてくれた正直過ぎる剣術、目線で攻撃する場所を見て腕の上げ下げと手首の向きで切る方向を示される剣技と足運びでタイミングも読みやすいと付け加えられたからだ。


 実際に接近もしたし剣の軌道も解り易かった。だが、もしアランと初めて会った時のシュンなら如何だ! 剣速だけで剣の軌道が見えずに斬られていただろう。動きも同様で把握する前に終わる。


 確実に自分が強くなっているのは解った。それでもだ。あの時の邪神の強さと恐怖心は今の自分でも乗り越えられる自信は無い。あの時を思い出すと今でも体が硬直する。


「放つは乱れ吹く風、その風は刃と成り無数の道を示す、プルーラル(複数の)エアカッター(風の刃)


 壁から顔をだし邪神に向けて放たれ複数の風の刃が、部屋に侵入したのと同時に邪神が剣で軌道を描き、その軌道をなぞるかのように白い魔力の塊が鞭の様に剣先から放たれ、風の刃を全て迎撃した。


「!?」


 全て打ち落とされたのを確認し急いで安全地帯に隠れ、今起きた現象に付いて考えを改める。


「あれは、メモリーモンスターじゃない……姿は俺の知っている邪神だけど、あの動きはしなかった」


 シュンの知っている邪神は、剣術のみでネイルとメイルと戦っていた。いやメイルから魔法戦の事を聞いているから使えるのかもしれないが、シュンの記憶の中に魔法を使う姿はない。その考えは最初からある……だが実際に目の前にいる邪神は使っている。魔法も闘気もだ。そして意味が解らないのが先ほどの現象だ! 剣の先から白い魔力が鞭の様に現れた事だ。これでもう一つの考えは消えた。


 アランが得意とする魔法を知っているから使えると言う説は消えた。それは白い魔力の鞭を使うと言う事は聞いた事がないからだ。


「アイツは何者なんだ……」


 逃げる選択が出来ない以上、戦うしかない……食糧は一ヶ月分近くあるが、彼女の分を入れると半月分くらいしかないかもしれない。だが、焦るのはまだ先だ。情報を集めるんだ情報を。


「放つは速き風、その風の通る道何人も見る事適わず、ラピッド・エアカッター」


 目にも止まらない速さで手から放たれたエアカッターは、シュンの発動時の声の響きが消える前に邪神の眼前に迫った。邪神は剣を斜めに切り上げてエアカッターを真っ二つに斬った。


「……これも駄目か」


 反応速度が異常な程に早い。あのエアカッターは自分の出せる魔法の中で一番の速さを誇る魔法だ。自分でさえ避けれるか怪しい程にだ。それを斬ったと言う事は反応速度では勝てない事が明らかになった。

 でもさっき程つっこんだ時は、普通に避ける事が出来たという事は、反応出来る間合いが狭いと言う事なのだろうか、逆に返すと決まった間合いでは超高速で反応出来ると言う事になる。即ち絶対防御と言う事になるのでは? と思えた。


「俺も、頭が回るようになったな……」


 この世界に来た時の自分がまた頭に過ぎる、考えの足りなさや甘さ等の未熟さを痛感させられた日が、今の自分を造っている。今でも思い出す、俺が召喚された理由、『可能性の伸びしろがある』と言う女神の言葉を。


「ゴホ、ゴホゴホ……」


 隣に寝ていた女性が黒い血の塊を吐き出した。これは、前に契約していた主人の血を吐き出した事を示す、そしてもう一度眠りにつき今度は刻印が光りだす。これも契約の手続きの証で俺の血が彼女の中で馴染むための作業となっている。刻印の光が収まった時、彼女は俺の奴隷となる。


 眠っている間でも体力を消費しているのは解る。栄養剤を彼女の口に運び飲ませてから休息にはいる。彼女が目を覚ます前に終われば良いのだが、そう言う訳には行かないのだろう。


「さて、どうしようか……」

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