78話 あとをついてくる者達
アルフレッドのおっさんと別れてどれ位経ったのだろう。最初は闇の日が来る度に回数を数えていたが、何時の間にか数えるのを辞めた。最後に数えた時は10回目そこらだったど思う。闇の日が訪れると床が激しく揺れ、そしてブロックごとに割れ、まるでスライドパズルで動いているかの様に再構築してしまった。初めて経験した時はあまりの速さに目を回したが、何度も経験すると余裕が生まれ擦れ違ったりするブロックを覗いて情報を集めたりした。
「ふぅ、納まったか……付いて来てる……しつこい人達だな……」
地下三十八階からずっと付かず離れずの距離で尾行してくる人達がいる。最初の地下二十六階から地下二十九階の時に多くのパーティーと擦れ違ったりしたが、その時の人達は「どうした? 迷子か?」とか「仲間とはぐれたのか?」などと心配して声を掛けてくれたが、一人で着ていると言うと全員が疑ったりしていた。それでも、途中で現れる魔物を倒すと納得して「疑って悪かった、でも命は大切にしろよ」や「仲間にならないか?」と言ってきてくれた。
だが、俺のこのダンジョンの目的は一人で最下層に行く事だ。だから断って最下層を目指して順調に進んだ。地下三十階を越えてからは擦れ違うパーティーが減り、そして擦れ違っても声を掛けてくる人達がいなくなった。
地下三十階以上を進んでいるから、ある程度の力量があると判断してくれているのだろう。いろんな事で気を使う必要が無くなった。心配してくれている人達には目の前で力を示すために魔物を倒し。仲間に誘ってきてくれる人達の場合は、二言目が飛んで来る前に姿を消す必要があった。最初は丁寧に断っていたのだが、ソロの効率の悪さなどのデメリットを聞かされ、パーティーに入るように誘導してくる人達が多かったから、そそくさと急いで進んで振り切ってしまうしかなかった。
「!? しっ! はっ! はっ!」
飛び掛って来た攻撃を軽やかに横に避け、リべレーションソードを抜き、ツーヘッドドックの首を素早く二つ刎ねて倒す。
地下二十六階から地下二十九階は戦い慣れたグリーンウルフの色が変わったブラックウルフだった。最初は本当に弱くて楽勝だったが、これもゴブリンやオークと一緒で徐々に強く成っていくパターンに成っていた。地下二十九階のブラックウルフはスピードもパワーも桁違いで、今まで慣れていたリズムで避けて首を刎ねると言う攻撃がやり難く苦戦をしいてしまった。タッタッタッタタと言うリズムが余りにも早くて耳が慣れて捉えるのに半日を費やし、やっとの思いで地下三十階についたのだ。
そして、地下三十階からはツーヘッドドックと言う魔物と戦う事になったのだが、ファンタジー系の映画やアニメとゲームでは定番のケルベロスの偽物だとしか思えなかった。
そして地下三十八階の中間位の地点で後ろの連中と擦れ違い、声を掛けられる事無く今まで通りやり過ごしたはずだった……。気付いたのは地下四十階に入って魔物と対峙した時に一人の女性が悲鳴を上げ後ろを振り向き、曲がり角に隠れる人影を確認した時だ!
周囲の警戒を怠っていた訳じゃない。ステータスが消えても危険察知スキルは健在だ。彼等は自分に敵意や殺気をぶつける事をしていないから、危険察知スキルは発動しないだけのこと。聞き耳を立てながら歩いても足音は聞き取れない、あのパーティーの誰かのスキルなのだろう。ピッタリ付いてきているパーティーメンバーの構成は、男二人に女性三人だったはず。
そして何故悲鳴が聞こえたのかは、アルフレッドのおっさんが教えてくれた地下四十階から現れる魔物に恐怖したからである。
アルフレッドのおっさんに教えられたのは地下四十階から現れる魔物は『メモリーモンスター』と呼ばれる魔物だと言う事らしい。
メモリーモンスターとは、今いる階で最初に足を踏み入れた者の記憶からトラウマに成った魔物を読み取り、ダンジョンモンスターとして出現させる。
そして悲鳴をあげさせたのは、アーレンで戦ったアンデット達の姿を模したメモリーモンスターを目撃してしまったからだ。
戦ってみるとメモリーモンスターは、動きや感触まで全てを再現していて何度も倒しても心が痛んでしまう。
「我放つは光の導き、汝を清浄な道へ戻す白き刃、シャイニングエッジ!」
これも古典的だが、アンデットと呼ばれる者には光が効果的で一瞬で倒す事が出来た。このシャイニングカッターはエアカッターと変わらずに使える。しかもこの魔法は御都合主義だなと何度も思わされる効果がある。それは魔物以外には効かない事。それと取り憑く魔物に使えば人間だけ助け魔物を倒すという……なんとも滅茶苦茶な魔法。
俺が使えるのは王都でバッカスとファルクスさんの話しで、アランさんが得意だった魔法は何ですか? と訊ねた事で始まり、この魔法の存在を教えて貰い覚えた。この魔法は魔力コントロールが難しいから使える者が少ないと言われたが、魔力操作などの事に関しての問題は充分過ぎる程クリアしている俺には問題所か何処が難しいのかイマイチ解らなかった。人の命を救う時に行なった魔力操作ほど難しい物は無い。
「簡単に倒せるのは良いけど……早くアンデットからは離れたいな……序でに後ろの人達ともね」
シャイニングエッジで姿が消滅したアンデットから落ちてきた魔力結晶を拾い、鞄にしまう不利をして収納魔法の中に収納し、先へ進むが後ろのパーティーメンバーが付いて来る。
普通ならさっさと後ろの連中を振り切ればいいんだけど。この階からは誰も居ない。それは俺が最初に足を踏み入れアンデットが現れた事で解る。
地下四十五階まで来て、ずっとアンデットしか現れない事でもう地下四十階より先は誰も居ない事が証明された様なもんだ。
だから、下手に後ろの連中を振り切るのは辛い。勝手に付いて来て勝手に魔物にやられたとしても目覚めが悪い。だから連中が諦めるまでは、こっちも態と一定の距離を取って攻略していく。本当ならもっと早く進めるのだが、後ろの連中の中で一人だけ今にも倒れそうなのがいる。仲間の一人が「置いてくぞ」「さっさとついてこいクズ」とか怒鳴っているのが聴こえた。
個人的には御前もクズだろうと思ったが、聴こえない不利をして歩いた。今まで音や気配を消していたのに、集中力が切れたのか、それともスキルを使ってた者に限界が来たのか不明だが、後ろの連中の足音は聴こえる様にり、話し声は聞き取れなかった。
何回も怒鳴り声が聞こえたんだから、隠す必要がないのにと思う。後ろめたさで声を潜めてるならさっさと帰って欲しいし、気付いていないならこの先は本当に危険だ。
そんな連中を気にしながら、慎重に進んでいく。本当ならもうとっくに地下五十階に着いているのかもしれない。とんだ足でまといさんだ。
それにしても、メモリーモンスターって何時何処で俺の記憶から引っ張り出したんだろう? それにトラウマなら邪神とかナイトスコルピオンとかで出現しても可笑しくない。ただナイトスコルピオンが出現するなら、多分だが地下へ通じる階段がある部屋で出現するはずだ、その部屋だけが普通の部屋より広いからナイトスコルピオンを出現させても充分戦える広さになる。通常の通路だと足が壁にぶつかって動けないから出現しないと考え。
もしその考えが正しいのなら、ナイトスコルピオンと戦う事になる。
そしてもう一つの最悪を考えると進みたくなくなる。邪神と戦うとか考えたくない。今まで戦ったアンデットは階を進める事に強くなった、もし邪神が現れたら完全に死んでしまう。普通の邪神でも勝てる自信が無いのに倒せたと仮定しても、それより強くなった邪神が現れたらと考えると、俺はこのダンジョンをクリアする事が出来ない。
そんな厄介な敵がいるかもしれないのだから、後ろの連中をどうしたものか。
「ふぅ~。ここが地下四十九階か、ここを攻略すれば最下層の地下五十階か……」
祈るのは、邪神が現れない事のみ。ゆっくりと一歩一歩を踏みしめるように歩いていく。
「よし! ここもアンデットか!!」
ゆらりと歩いて現れたアンデットを急加速して通過すると同時に斬り捨て再び動き出す前に、光魔法で浄化して倒す。
アンデットはゆっくり動いて追い掛けてくるのが普通だが、地下四十八回からは異常な速さで襲って来る。だから相手がこっちを認識する前に先制攻撃を仕掛ける事が出来るならするべき。
もう何度目だろう闇の日が訪れ、ダンジョン内がシャッフルされて行く。擦れ違い際で罠ぽいと思えた箇所を見つける度に、目印となる物を投げ入れて行く。
後ろの連中もある意味凄い、一度も離れずに闇の日を乗り切って付いて来るのだから。
そして、部屋に閉じ込められるトラップ部屋を見つけ、態と入って魔物を倒し休息部屋に変えて食事と睡眠を取る。食事の方はもう作り置きしていた物が底を付きそうで、あとひと月くらい持てばいい方だ。目を瞑って少し時間が経ってから扉が開く音が聴こえ連中が入ってくる。そして干し肉とかの保存食を食べて眠りだす。そして姿を消すスキルか魔法を使って隠れた。
この部屋は空にならない限り、魔物が現れる事が無いから安全地帯になる。
「ねぇ、御姉さんは何でダンジョンに潜ってるの? 冒険者じゃないんでしょ?」
「…………」
目を開けて、彼等が隠れた場所に目を向け一点を見つめた。姿を消しても気配を感じる事が出来るし息遣いも聴こえる。その息遣いで起きてるのは解るし、他の連中が全員眠っている今だから訊ける事を訊く。
「あの……起きてますよね?」
無言を貫き通され埒が明かないと言う状況になり、ポーションと栄養剤改を彼女の目の前に置き、元の位置に戻って眠りに着く事にした。ビンを置いたときに「……ぁ」と小さな声が聴こえたが、聴こえなかった事にする。
冒険者じゃない彼女がここに来られたのは不思議で、連中とはどんな縁で一緒にいるかも知らないが、足をケガし疲れ切っている状態では間違いなく死ぬだろう。今の自分に出来るせめてもの贈り物だ。
目を覚ましたら俺の傍に空になった瓶が置いてあった。どうやら彼女は飲んでくれたようだ。そして態と荷物を落として出発の合図を送り出発した。
何度も休憩を細かく取って後ろの連中が付いて行けるように進む。後ろの連中は疲弊していて微かに歩行速度が落ちているのは息遣いと足音でわかる。一生懸命くらいつこうとする荒い息遣い、疲労で重い足を動かそうと頑張る時の呼吸。その全てが耳に入りダンジョンを歩くのが困難であるのを訴えている。本当なら引き返す様に言べきだが、ここは地下四十九階だ。大型の帰還結晶があるのは地下四十階と地下五十階だ。おっさんから預かった帰還結晶は地下四十一階までしか使えない。
疲弊しきってる彼等を連れ地下四十一階まで連れて行くのは不可能だと判断し、このまま最下層の地下五十階を目指した。
「はぁ……はぁ……この先の部屋を通れば地下五十階だ……!? まさか!!?」
地下五十階に通じる階段のある部屋の中で一つの黒い球体が一つの影となり出現した。影が実体化しようとする瞬間は無防備で先制攻撃をするのには有効だが、この影には隙が無くむしろ恐怖すら感じた。
「はっはーは! ガキんちょ案内ご苦労さん!! 行くぞ俺達が新しい名を刻む時だぜ!」
「そうよ! 私達が百年間現れなかった踏破者になるのよ!!」
「どうせ、人間の形をしたアンデットだ! 一匹くらいなら俺達でも倒せる」
「これで貧乏生活とわかれられる」
シュンの横を勢い良く通り過ぎて各々武器を抜き影に向かって振りぬいた。
「やめろ……逃げるんだ! そいつに手をだすなああああああああ」
今月中にもう一話を投降したいと思ってます。
これからも異世界ってスゲェェェ!!(仮)を宜しくお願いします




